Bonus Track_77-7-2 車中の悪党、陥落す(2)~『リガー』の場合~
『レッドセイレーン』が誘う眼差しを向けたのは、基地の屋上部分。
スコープ越しに確認されるのは、ひょろ気味の赤毛と、チビの金髪。生えているのは狐に似た三角耳と黄金のふさ毛一組。神獣召喚士バディ『ナンゴクボンバーズ!』、クレハとチナツだ。
クレハがチナツを見て何か言っている。スキル『読唇術』を起動、会話を確かめることにする。
『あ。それじゃ俺は用なさそうなんで。がんばれ。』
『クレっちゃんんんっ?!』
クレハは夜目にも鮮やかな水色の竜を召喚。相棒の叫びを背に、夜空に上っていく。
本当に見捨てる気はもちろんなかったようだ。クレハと入れ替わるようにして、星のような輝きのエフェクトが上空から降ってくる。
クレハの覚醒技『タテガミオオカミの星眼』。
対象を『見る』ことで支援効果を発生させるそれは、効果先選択も可能なようだ。
『魔王軍』メンバーだけが、ことごとく強化の輝きをまとう。
基地を包む奇妙な森――まあぶっちゃけるならアレはチナツの覚醒技『カモナ・ファニーフォレスト』により出現したモノだ――も、それを守ろうと戦う新人マネージャーたちも、見張り塔から銃撃を放つ尼僧服も勢いづく。
だが、『マーナガルム』は手を止めた。『白刃』も同様だ。
しばらくの静止ののち、『白刃』は剣を引く。
「無粋が入ったな。今日はここまでとさせていただこう。さらば」
「ええ、いずれまた」
さらりと消え去る『白刃』。まあ予想の範疇だ。あいつは自分の認めた相手との一騎打ち、すなわち腕試しを目的としてこの界隈にいる男なのだ。
それはいま、十体のガーゴイルを一時に召喚してみせた、赤いドレスの女も同様。
「ふふ、早くその森、解除しておしまいなさい。
さもないと到底、もたなくってよ!」
『レッドセイレーン』が歌い上げるように挑発し、孔雀羽の扇子を大きく翻せば、現れたガーゴイルたちは二手に分かれる。
五体が、森の破壊者に挑むマネージャーたちへ。
残り五体は、森を飛び越えチナツに向かう。
俺は思った。この女がこんな素直な編成をするはずもない。
おそらく、死角からもう一隊が現れ、チナツを襲うはずだ――そら来た。
チナツの背後にぬっと現れたのは、これまた五体のガーゴイル。
だがそれらは、次の瞬間走った一閃でチリと化す。
「甘い!
我が主の不意をつくなど、百億年早いッ!!」
ヒトの域を超えた大音声が響き渡る。その源は、いまチナツの後ろで居合斬りをキメたキャリアウーマン風の美女。猪の神獣ヴァラだ。
一方、前方からチナツにせまったものたちは、新たに飛び出した南国風美女&美少女がボムとキックで叩き落とす。
「チナチナ! こっちも準備オッケーよ!」
「それじゃあっち、いってくるねっ!」
そうして返事も待たずに、屋上から飛び出していく。
すでに第二派のガーゴイルが迫っているが、恐れる様子もない。
チナツは頼んだ、とその背に一声かけると、でっかいポーションのびんを一気飲み。
相棒の支援を受けていても、覚醒技と複数召喚の同時行使はさすがにきついようだ。
南国コンビがガーゴイルたちを次々粉砕、森のほとりでの戦闘に加わってしばらくすると、森はふっとかききえた。
「っしゃあいくぞ!」
「待ちなさい!」
森攻略組はその好機を見逃さなかった。けん制の一撃を残し、すかさず基地へと走り出す。追いかけるマネージャーたち。
その一方で、基地を挟んで向こうサイド、抜け道を探して移動していた二人組の姿もあらわになる。
そいつらも一瞬顔を見合わせていたが、すぐに走り出す。
情報屋たちのクルマも、支援を飛ばしつつ走り出し、後方に残っていたプリーストも腰をあげた。
直線距離にすれば50mもない。残りの距離はみるみる詰まっていく。
タイミングを見計らってか、『魔王軍』が新たな兵力を繰り出した。
森攻略組のゆく手には白い神鳥の巨体が、抜け道探索組の前にはガタイよさめのヤマネコ装備と、すこし細めの鳥装備の剣士二人組が現れる。
探索組は、手練れのハンターと、兼業クラフターのバディだ。
対する相手は、まだ少年らしさを残した二人組。
神鳥に比べればラクな相手と踏んだのだろう。やったというような声を上げた。
「よし、いけるぞ!」
「いける! まさかの一番乗りだぁ!」
「ハァ? ナメてくれんナァ?」
「我々も派遣元の名前を背負っておりますので。負けませんよ」
光学映像を拡大すれば、確かに鳥とヤマネコの二人組はとある有名警備会社のワッペンを身に着けている。そいつはまだ真新しく、いわゆる新卒ルーキーであることが明らかだ。
しかしやつらから漂う、ふてぶてしいまでの自信は何なのだろう。
若干、嫌な予感がする。ここは、引くべきではなかろうか。
「ちょっと! せっかく邪魔がなくなったんだから! もっと距離詰める!」
そのとき、助手席からどやされた。
俺を見る『サイレントシルバー』の悪党笑いは、ヒラヒラのメイド服が泣く勢い。下手に断ればロケットランチャーがこっちに向きかねない。へーへーと返事をして、俺はアクセルを踏み込んだ。
『オラオラオラ! ザコはいーんだよザコは!
たいしょーだしてこいやガキども! さもなきゃまんまぶちくだくぞゴルア!!』
加速感にさらにテンションあがる『シルバー』は、『瞬即装填』をガンガン使い、狙いもつけずにロケットランチャーを連発。その合間に拡声器をフル活用し、『魔王軍』に対し挑発をかける。
帰ってきたのは、甘ったるいのと粋がってるのと、ふたつの少年の声。
「もうっ! 僕たちはザコじゃないもん!
っていうか! だいじなひと、忘れてるでしょっ!」
「チアキチアキ、どーどーどー。
ガキだからってナメてる馬鹿野郎どもにゃ、すぐにほえ面かかせてやんよ!」
一瞬ぎくりとしてしまったが、気を取り直す――そうだ、今はこの声たちは怖くない。怖くないのだ。
あちこちから上がる嘲笑。『シルバー』も言う。
『アハハハ! こっちゃ『絶対爆破防御』使ってんだよ!
だからあんたらなんか怖くもない! 悔しかったらやってみろってんだ!』
「ほーう? せーぜー後悔しろよ?!
いっけえ! 『レッツ・パーリィ』!」
「ごめんなさい!『優しき牧陽犬』!!」
まっすぐに落ちてきたテラフレアボムが、地表で炸裂。
だがその爆発は、俺たちを襲わない。炎も爆風も、そのすべてが地に食らいつく。
しまったと思った時には、なすすべなし。
俺たちはみな、落ちていた。
その時悟った。悪い予感とはこれのこと。南国美女の『準備オッケー』というのは、コレのこと。つまりチアキが詫びたのは、ここの地面に対してだということを。
南国美女たちは、『ファニーフォレスト』に隠れて落とし穴を作っていた。
爆撃でのみぶち抜ける程度の厚みの地面を残して、地下に空洞を作っていたのだ。
そんな場所でテラ+シャイニーコンボなんざもらえば。
『絶対爆破防御』には落下ダメージ軽減効果なんかない。これは――
死ぬ。
ハンドルを握る手が震えたその時、視界がぶわりと白くなった。
「『フェザーフォール』!
大丈夫。命はとらないよ。
おれたちは悪い悪い、魔王なんだからね?」
思わずリアウィンドウから顔を出せば、わが愛車は大量の白い羽に優しく包まれ、ゆっくりと降下していた。
周囲には、一緒に落ちたやつらも同様に、ふわりふわりと落ちている。
なかには本来飛べる装備の奴らまでいる――心を折られたのだ。
ぶっとんだ作戦に。
その仕上げを担った、大将どものカリスマに。
月光を浴びてほのかに輝く、つややかに美しいツリーアーマー。その上で微笑むうさぎ王子と、やんちゃな笑いの黒猫騎士には、俺ももう、かなう気なんかしなかった。
長かった……夜襲イベ書ききったあああ!!(←ハイ)
次回、夜襲の後始末の予定です!
どうぞ、お楽しみに!




