Bonus Track_77-7-1 車中の悪党、陥落す(1)~『リガー』の場合~
20VS20(位)はさすがに長かった……分けさせてくださいましm(__)m
リアウィンドウをノックしたのは、知った顔。コードネームを『サイレントシルバー』という女だった。
イツカナに意趣返しをしたい、理由はわかるだろとの言葉に、その顛末を聞かせるならと要求すれば、渋面MAXで概要を語ってくれた。
彼女は少し前にエクセリオン『ソアー』の身辺に盗聴器を仕込む、という高難度ミッションを受けた。
数か月かけた準備の末『彼の父親が渡すメッセージカードに、秘密裏にそれを仕込む』という手段で『ソアー』に渡すことまではできた。
しかしその数日内には、はやくも盗聴器は外されたもよう。
彼女のクライアントはぶつぶつ愚痴り、もうすこし早く判明していれば成功報酬は払わなかったのに、などと理不尽な文句までぶつけてきた。
『一発砲弾でもぶち込んでやらなきゃ気が済まないんだよ、あのガキどもめ!』
憤懣やるかたない様子で彼女は話を締めくくった。
そんなわけで俺は彼女を乗せて、集合場所まで走った。
ちなみにチェシャはシルバーが渋面を作った瞬間『俺パース』と車を降りて行ったので不参加である。
新月の下、星降町の郊外に集まったのは二十名ほど。
動画でしゃべっていたのと思しき、ローブの女とそのおとも。
異様にテンションの高いハンターが五名ほど。そこそこテンションのクラフター2名、ハンター4名。すこし距離を置いてみているプリーストと兼業プリースト。こいつらのうち数名どうしは、知らない間柄でもなさそうだ。
その輪から離れて、白スーツの剣士と赤いドレス風ローブの女。こいつらは知っている、『白刃』と『レッドセイレーン』。かつて『うさぎ妹』送迎のさい、チェシャとともに襲撃をかけたメンツだ。軽く声を掛け合う。
そのほかには、陣容を把握するためにと参加しているのだろう、車両に乗り組んだアクティブ情報屋野郎が二名。俺も気持ちはこっちのはずだったのだが、助手席のメイド服(見た目は似合ってやがる)のせいで口笛を吹かれ、げんなりと手を振った。
ともあれ、決行の時間は来た。
初手は決まっている。クラフターは『絶対爆破防御』。神聖もちは神聖防壁。ハンター連中と俺たち車両組は、自己強化しつつ前進。
シルバーはさっそく助手席から身を乗り出し、肩にかついだロケットランチャーからさっそく一発砲撃だ。
迎え撃つのはまず、基地からの銃撃。バラバラと浴びせられる金属の雨が神聖防壁を削る。
次いで立ちふさがるのは、大小の人影四つ。
「げっ……『マーナガルム』?!」
ハンター数名が浮足立った。
抜刀して緩やかに立つ白狼装備は、かつて『マーセナリーガーデン』最強の傭兵だった女だ。
卒業後はなぜか芸能プロダクションに就職したが、『青嵐公の再来』と騒がれた恐ろしさはいまだに記憶に鮮やかだ。
「やつとは戦うな! よけてくぞ!」
「馬鹿、落とし穴があるにきまってんだろ、待て……」
「あら、とんだごあいさつね?」
『マーナガルム』は手にしたポールアックスをずがん! と地面にたたきつける。
走る地割れ。迂回を試みたハンターが一人、足を取られて落下した。
「まったく、知った顔がいると思ったら。
落とし穴は掘ればいいのよ。仕掛けとくモンじゃないの」
「ぜってーちがう――!!」
「あまり無茶しないでください、新人たちがいるんですからね」
ハンターたちのツッコミが飛ぶ一方、『マーナガルム』のバディが彼女をたしなめた。
緑と赤の鮮やかな鳥装備のその男は、まるいフレームの眼鏡がひょうきんな雰囲気を添える、細身の優しそうな男だ――ちょっと悪い予感がした。
『マーナガルム』は軽い調子で返すと、自分たちの後ろの少女たちに告げる。
「わかってるわよ!
いい、あなたたち。アイドルの睡眠時間確保はマネージャーのたいせつなお仕事。そのためにもストレス解消はこういう時のためにとっとくこと! いいわね?」
「はいっ!!」
いや嘘だろう。ソレイユ・プロダクションじゃマネージャーってのは『担当アイドルに敵対するものをことごとく粉砕する』が業務内容なのか。聞いてねえ、聞いてねえよ。
震撼する俺たち常識派をしり目に、元からハイテンションだったハンターどもは意気上がる。
「ストレス解消たァ言ってくれるじゃねえか!!」
「おい、まずあのおまけの軟弱男をヤキトリにしちまってオネーチャンたちだけ連れて行こうぜ!」
「なに、あの小鳥ちゃん男なのかよ? てっきりつるぺたのオネーチャンだと」
「はははははっ!!」
もとから少し引き気味だった兼業プリーストとハンターが、見限った様子で距離を取った。
後方に残るプリーストも同様で、もはやそっちを見ていない。
さきほど口を開けた『落とし穴』を回り込み、基地にむかおうとする一団――もっともいつの間にか生えてきたカラフルでポップな森林に行く手を阻まれているが――に神聖防壁を追加している。
『白刃』は下品なやつらをちらりと見たが、からかいの対象とされた細身の眼鏡男の様子を見て、切った鯉口をカチンと戻した。
はたして、地獄は始まった。
「おやおや。みなさん、お使いのスコープが合わないんじゃありませんか?
このさいです、まるっと交換してしまいましょう。
お手伝いいたしますよ――『炎花落陽』」
にこやかな声に呼ばれ、現れたのはまばゆく巨大な炎の鳥。
『その腹部の赤は死した戦士たちの血潮の色』と言い伝えられる南国の神鳥が、覆いかぶさるようにして無礼者どもをローストする。
三つのアバターが悲鳴とともに消滅する。やつらは決して弱くはなかったはずだ。普通にかかれば『マーナガルム』と『ブレイジング・ケツァール』のバディを相手どっても、それなり善戦できたことだろう。
まあそれはいい。まだ、戦いは序盤だ。
『白刃』がひとつ息をつくと、滑るように前進。『マーナガルム』バディに一礼する。
「白き狼よ、炎の鳥よ。愚かな同行者どもが無礼を働いたことを詫びよう。
所詮われらは同床異夢の烏合の衆。詫びる筋でも本来ないが、始末が遅れ不快な思いをさせた。そこは詫びさせていただきたい」
「あら、気にしないで。こっちはもうさっぱりしたから」
「すみません、お気を使っていただきまして」
サッパリした気質の『マーナガルム』はさらり。眼鏡鳥男も元通りのほんわかした笑顔だ。
俺は思った。敵に回したくない。
しかし『白刃』は恐れる様子もない。
「なれば、心おきなく申し出よう。
白き狼よ。しばし、正面からのお手合わせを」
「喜んで。
というわけで、あとお願い」
「それじゃ私たちは向こうに行きますっ!」
「気を付けて、お二人とも。私が支援します」
「ありがとうございます!!」
いい子の返事をした新人マネージャーたちは、奇妙な森を焼き払うべく攻撃を加えている連中のほうへ。眼鏡鳥男は、両者を程よい距離で見守り、支援する構えだ。
「うふふ。無理なのにねえ、あの森に正面から挑んでも。
ねえ、森の主のモテ男さん? たまには違うお姉さんとも戦ってくれない?」
満を持して『レッドセイレーン』が動く。胸元の開いた赤いドレス風ローブ、孔雀の羽のセンスを翻し、誘う笑みで声を飛ばした――基地の屋上を見据えて。
アイラさんとトトリさんはちょーつよいのです(こなみかん)
ちなみに森の主はチナツです。
次回、召喚戦とパーティーバトル。そして派手に陥落(襲撃者たちが)!
盛りだくさんですが次回で夜戦はシメます。
どうぞ、お楽しみに!




