9-4 アスカのたくらみ、イツカの信頼(中)
2910/12/20
くん付けが落ちていたところを直しました。
「ねえ、ハヤトは?……アスカに……→「ねえ、ハヤトくんは?……アスカくんに……
黒の軽武装のイツカ、鈍い銀の鎧のハヤト。
フィールド中央で向かい合う二人を、実況が華々しく紹介する。
それが終われば、おもむろに横手の入出場ゲートが開いた。
重々しく引き出されてきたのは、物置ほどもある虫かご。
その中で低く重い羽音を立てているのは、鉄色の体色、小学校低学年の子供ほどの体長の、巨大な蜂が十体。いずれも中型のようだ。
『おおっとこれは……『巨大鉄刺蜂』だ――!!
スパイダーマンティスがパワーなら、かれらはスピード!!
ずばり、虫系モンスター最強クラスの存在!!
決闘を控えた銀狼と黒猫は、一体どのように戦ってくれるのか――?!』
歓声の中ガシャン、虫かごが開く。
同時に飛びだした十体のワスプは、いっせいにイツカに向けて殺到した!
「……つーかさぁ。
俺、ナメられすぎじゃね?」
イツカは不敵にのたまわると居合斬り。斬撃の射線上にいた二体が地面に転がり、銀色の光の球になって消え去る。
さらに迫る八体のうち、二体がハヤトの斬撃で消し飛んだ。
「おい、このにおいは」
「後だ、それより!」
「チッ!!」
しかし、さすがは刺蜂系というべきか、六体はイツカのもとにたどり着いてしまった。
力が強く、装甲も固く、さらに素早く飛び回る。
そんな相手をしとめるなら、有効なのはおとり戦術だ。
しかし、相手が巨大鉄刺蜂の場合には、それは悪手となる。
なぜなら、一個体一個体が強力な彼らを相手におとりなどつとめたら、普通は大怪我では済まない。
だが、これまで幾度もの死地をくぐってきたイツカは、冷静にして豪胆だった。
「ハヤト。俺がまとめる。一緒にぶっくらわせ!!」
「はぁっ?!」
「俺のHPは把握してるだろ。1残ってりゃそれでいいっ!」
「な……くそっ!!」
『剣帝』と呼ばれるハヤトだからこそ可能で、化け物体力のイツカだからこそ耐えられる作戦を瞬時に指示し、脱兎のごとく駆け出したのだ。
ただし、『短距離超猫走』は使用されない。走る速度を一定に抑え、ハヤトが狙いをつけられるようにだ。
当然、ワスプの攻撃は喰らうし、息も上がっていく。
迷っている暇はない。ハヤトはぎり、と歯を食いしばると、両手剣を下段に構え、チャージを始めた。
ハヤトの体が銀色の燐光に包まれる。
その輝きは、あっという間に膨れ上がり……
「どいつも、こいつも……俺がしたいのは……こんなことじゃねええっ!!」
巻き込むようにスイングした刀身から、怒号とともに飛び出す!
ハヤトの必殺技『グランドスラム』だ。
大型トラックすらひとのみにするサイズの白銀の輝きは、イツカに群がるワスプたちを一気に洗い流した。
もちろん、イツカもただではすまない。
六体のワスプの攻撃を一身に受けていたイツカは、もはや満身創痍。
そこへ一発でHP1500程度を削りとる必殺技までもらったのだ。
防御姿勢はとったものの、残HPはわずかに12。
笑顔で親指を立て、そのまま地面に崩れ落ちてしまう。
とても『前座』とは思えぬ事態に、場内はざわついた。
ハヤトは全速力でイツカに駆け寄り、その体を抱き起こす。
「おい! くそっ、こんなで勝負になるか!!
異常事態での試合ちゅ……」
「回復だけでいいっ!!」
しかし、ハヤトの叫びはそれ以上の大声によってかき消された。
それは、いい笑顔を浮かべたイツカだった。
「こんなもん程度、屁でもねえって。
つか、回復しちまえばチャラだろ」
「だがお前……」
そう、イツカは走りながらワスプをいなし続け、すっかり消耗していた。
しばらく休ませれば動けるようにはなるだろうが、それでもここまで疲れてしまえば、もはや公平な条件での勝負は望めない。
イツカは、ポーションによる疲労回復に拒否反応があるからだ。
しかし、やつは笑顔で言った。
「今日の俺は、お前とやりたくて来たんだぜ。こんなとこでおあずけ食ってられっかよ。
心配すんな。ポーションぐらいがっつり飲んで、完全復活してやるからさ!」
「……いや、待て。その前にお前たちには、用がある」
一瞬、ほほを緩めたハヤトだったが、ハッと我に返った様子。
そのままイツカを抱え上げて、こちらに向かってくる。
謎の大歓声を引き連れて入退場ゲートを入ってきたハヤトは、くんくんと空気のにおいをかいで舌打ちした。
「レインが……タカシロ理事がここに来たんだな?」
「あ、……うん。
とりあえず控室にいっていいかな。イツカの手当てがしたいし」
「わかった」
おれは手近の控室のドアに先回り。中に誰もいないのを確認してドアを開けた。
備え付けの戸棚から毛布を取り出すと、壁沿いのベンチに敷いて簡易寝台に。イツカをその上に降ろしてもらった。
しっかりとドアを閉めて振り返れば、ハヤトは視線でつづきを促してくる。おれはマジックポーチからポーションを取り出しつつ、それにこたえた。
「……なんかべらべらしゃべりながら、イツカの肩を叩いてたから、多分その時に。
つまり手のひらにワスプ寄せをつけていたんだと思う」
おれは試合前に撮った二枚のスクリーンショットをハヤトに示す。
「あの野郎、……」
理事がアスカにさりげにセクハラしていたことは、とりあえず伏せることにした。
それを伝えたらハヤトは、確実にブチ切れるだろうからだ。
もっとも、狼も犬の仲間。その鋭敏な嗅覚の前には、すべてがお見通しなのかもしれないけれど。
「ノゾミ先生に連絡する。お前たちはイツカを頼む」
「わかった」
すると気の利くミライが問いかける。
「ねえ、ハヤトくんは? おれが回復していい? それとも、アスカくんにきてもらう?」
「あいつは用があるらしい。
合流したらポーションでも貰うことにするから、お前もイツカを頼む」
「はーい!」
頭をなでることこそしないが、ハヤトがミライに話しかけるときの調子は、おれたちのときより明らかに優しい。ちょっとほんわかしながらも、おれたちはイツカの回復にとりかかる。
「いくよー、全異常回復! 大回復!」
ミライがAランクプリーストの本領発揮。高位回復魔法を連発する。
ワスプからもらった毒を消し、ついでにワスプ寄せもとっぱらい、全身の傷をすっかり治す。
疲労回復の呪文もあるが、異常に燃費が悪いのだ。
そのためそれは、おれの担当。
まずは、いつのまにかちゃっかり寝ていたイツカを起こすところからだ。
「イツカ、起きて! イチゴ味のにしといたよ?」
「ん~あとごふん~」
「わかった、じゃあ頭の耳から入れとくから」
「オハヨウゴザイマス!!」
やつは瞬時に飛び起きた。よしよし、これは話が早くていい。
「冗談だってば。ほらあーんして。早く元気になってハヤトとバトろうね~」
「うう……たのむからそのネタもうやめて寿命が縮む……」
「寿命がなくなったらやってもいいの? うそうそ冗談。はい、あーん」
「――は? 必要ない?! どういうことだよ!!」
そのとき、ハヤトの大声が耳を打った。
ミライはとびあがり、イツカはポーションを吹き出しかける。
振り返ってみれば、ハヤトは携帯用端末に、すなわちそのむこうのノゾミ先生に向けて、ほとんど怒声にちかい声を上げているのだ。
なだめる意味もあって、おれはハヤトに問いかけた。
「どうしたのハヤト?」
「先生は何もする必要はないと……
勝負の邪魔だけならまだしも、アスカがセクハラされた! ミライも触られかけて!
それを……」
『許すといったわけじゃない。
闘技場の様子を見てみろ』
いつもありがとうございます♪
次回、ざまぁからの再挑戦の予定です! お楽しみにっ!!




