77-3 おれたちに恋のバラードは歌えない? イツカナ、作曲大苦戦?!
2022/02/14
その様子を、赤白それぞれで配信した――←この部分を削除いたしました。一緒だった……m(__)m
高天原から、もう一人のおれたちがやってきた。
愛するひとに、歌で想いを伝えるために。
おれたちを含む『赤組』のライブは今週末の予定だったが、こうなっては始動待ったなしだ。
『赤白』四人のおれたちも、はじめての作曲にチャレンジ。もちろん最初に、経緯を説明する動画を配信したうえで。
おれたちはとくに楽器をたしなんだわけではない。せいぜい、ピアニカとハーモニカ、リコーダー。あとほんのすこし、アコーディオン。つまりは学校で習う楽器にちょっと触れているだけでしかない。
もちろん作曲だって、はじめてだ。
そんな『作曲どしろうと』のおれたちをほっとけないと、ミツルとアオバが今日はこっちに残り、おれたちを見てくれることになった。
しかし、やはりというべきか。
「うー……」
「うかばねえ……」
「これじゃない……」
「とってつけた感はんぱない……」
開始後十分たらずで、おれたちはみごとに行き詰ってしまった。
ここまで、何度もいろいろ歌ってきた。なのにいざ自分でとなると、ぜんぜん、浮かばないのだ。
なんとか、きもちだけでも。その一心で言葉を並べてみても、ぜんぜんこれは歌じゃない。
「ううー……キモチはあるのにー……」
「なんでそれがそっからあんな歌にできるんだよー……」
「なんでこう、歌にならないんだろう……」
「う~~~~~……」
と、救いの声がした。
「……四人とも」
「なにっなにミツル!!」
「それ、やめよう」
「え??」
まさかの『やめよう』に、おれたちは驚いてしまう。
「いや、まだやれるって!」
「俺たちもキモチはいっぱい、いっぱいあるんだしっ!!」
「ちょっとまってイツカ。もうすこし話を聞こう」
「だね。
ミツル、おれたちは何をしたらいいの?」
「うん。
いったん、いまのきもち、わすれよう。
いま、気持ちだけが、ぱんぱんで。歌が、でてこれないんだ。
深呼吸して。頭、リセット。
もうすこし、気楽でいい。だいじょうぶ。いざってときは、俺がいる」
力強いその微笑みは、まさしく救世主にみえた。
たったそれだけで、きもちがすっと、ラクになる。
「……会いたい、ってのはさ、めっちゃあるんだ」
「でも、そのさきがこう、……ことばでこう、でてこないんだよな~……」
いすにもたれて、天を仰いだイツカたちがためいき。
「おれは……ことばの候補はあるんだけど、いざ書いてみると、借り物でしかない。すくなくともおれ自身にはそう見える」
「だよね。あ、これこの歌にあった表現だよねって、……『おれの』オリジナルじゃないんだ。なんとなく、だけど」
おれたちはお茶をひとくち。そしてためいき。
すると、ミツルは言った。
「言葉はなしでも、いい。
鼻歌で、ふふんふんって。
そのフレーズも、むりにつかわなくってもいい。
ちゃんとじゃなくても。きもち、胸にかかえたまま。
なにか、音に、出してみるといい」
「……にゃんにゃにゃにゃにゃにゃー!!」
と、いきなりイツカがにゃーにゃー言い出した。
「にゃんにゃー!」
「にゃにゃにゃー♪」
「にゃーにゃにゃにゃー♪♪」
その『にゃーにゃー』。おせじにも恋のバラードではないけれど、なかなかにいい調子だ。つかおれはこれ、きらいじゃない。
たぶん、ルナもセレネさんも。これを聞いたら、きっと笑顔になる。
おれも笑顔になりながら、気になるところをつっこんだ。
「いやなんで『にゃ』なのイツカ?」
「なんかさー、『にゃ』だと歌いやすくね?」
「だよなだよなー」
「……わかんない」
「……だね」
イツカたちはそのままにゃーにゃーと陽気に鼻歌を歌っているが、おれたちはちょっと理解できない。猫装備のせいなのか。だとすると。
「もしかしてさ、うさぎ装備のおれたちって不利……?」
「ありうるね……」
そう、うさぎは声帯をもたない。うさぎ装備のスキルにも、吠え系の技はない。
顔を見合わせたところで、ミツルが言ってくれた。
『ふたりとも。
うさぎには、足ダンがある。
だいじょうぶ。音楽するのに不利なことは、何もない』
「なるほど!」
そうだ。おれたちには足ダンがある。
さっそく立ち上がってダンダダンだ。
おれとおれ、即興でダンダンタダンとやってたら、なんだか楽しくなってきた。
「にゃっふーい!」
「ひゃほー!」
するとイツカも乗ってくる。
ますます楽しくなって、にゃーにゃーダンダン、なぞのセッションが始まってしまった。
とちゅうからミツルも、きれいな声のコーラスで。
アオバもにゃーにゃーパチパチと合いの手を入れて、加わってくれた。
しばし六人で盛り上がり、最後ははくしゅはくしゅ。
「ふあー! 楽しかったぁー!」
「ルナやライムちゃんもさ、笑って手拍子してくれそうじゃねっ?」
「ルカはさ、『なによなによなんなのよー?!』っていって、なんだかんだでとっこんでくるよな!」
「わかる!」
「でもセレネさんもきっと気に入ってくれるよ、これなら!」
そのとき、おれの目にははっきりと浮かんでいた。
ルカ、ルナ、セレネさん、そしてライム。
いまは顔を合わせることのできない四人が、それぞれのやり方で楽しく加わってくれるセッションの光景が。
そうだ。『会いたい』と泣いている子がいたら、『ここにいるよ』と笑わせてあげる。それが、おれたちだ。
たとえ、しっとりと恋をうたうバラードは作れなくても、心弾ませるビートだったら伝えられるのだ!
はたしてこの動画を公開してすぐ、ノリノリの『挑戦状』が届いたのだった。
金曜の予定が今日に繰り上がってドタバタなう。
とりいそぎ投稿まで!




