77-1-2 黒チェシャ、かく語りき(2)
おれたちもタクマたちとは話したかったが、今回は白リボンの二人に旧交を温めてもらうことにした。
なぜって、いまは気にしなきゃならないのが別にいる。
やや長めの真っ黒な髪。前を開けた革ジャンを素肌にまとい、目元に濃い色のサングラス。そんな、黒ずくめならずものルックの男。
テロリストが撃退された際にはただ一人捕まり、にやにやとふざけた調子で軽口をたたき、アタマの中をのぞかせ消えてゆく『黒チェシャ』。その筋では有名な人物だ。
というか、月萌杯突破記念パーティーの直前におれたちはこいつに襲撃されている。
「よーう、ちょびっとぶりだなうさねこちゃんよォ」
手錠をかけられた奴は、ふざけた調子で声をかけてきた。
「しっかしユルいねェ。取調室がないからミーティングルーム、ふつーにお菓子とお飲み物まで出てくるとか。オニイサン定住したくなっちゃったぜ」
「それはさすがに難しいでしょう」
奴のいいように穏やかに突っ込みつつ、心の中でもツッコミが止まらない……いやいやいや、なんかほんとにふつーにお茶とお菓子出てるけど?! 完全お客様扱いだよね(手錠以外)?!
だれがしたのかわかんないけど、おれは違う、そんなユルくない。誤解もいいとこだ。きっぱりと言ってやった。
「あなたがたはかつておれたちを襲撃している。というかついさっきも襲撃してきた。
そのことを忘れたわけではありませんよ。
さらには行きがけの駄賃と、タクマたちにも手を出そうとしてましたよね。
これは何かの間違いです。確実にそうですから。」
すると奴めはしゃあしゃあとのたまった。
「いやー、行きがけの駄賃ていうかなんてーかな?
まーかといって、俺を月萌に引き渡せば面倒なことになるぜ?
奴らは事実を伏せ、俺を『魔王軍』の一員ということにして、捕虜交換を申し出てくる。
あえて広く世に公開し、お前らに期待する者たちの注目を集めたうえでな。
言い訳はきかねえぜ。今お前らと月萌は敵同士。敵が指名手配しているやつをわざわざ引き渡すとか、JKありえねェからな」
「なるほど。つまりおれたちの敵として、今すぐそれなりに処すればいいということですね?」
「ヲイ?!」
おれがにっこり言い放てば、さすがに慌てた様子で腰を浮かせた。
それは慌てるだろう――いまここにいるのは本体なのだ。
おれはズバリと切り込んだ。
「まあそれは悪い冗談として。
つねに使い捨てのアバターで捕まると名高いあなたが、わざわざ本体でおいでになった。そこには相応の意味がある。もっといえば、覚悟が。
そろそろ腹を割って話しましょう。あなたはここで、何をしたいのですか?」
「お前らについて戦いたいのさ」
『黒チェシャ』は、笑っていた。
しかしその声音は、ぐっと低くなった。
「俺の出自はどうでもいいものだ。スターシードに出自もへったくれもねェ。よそからぽとんと落ちてきて、国益のために大事に育てられるお星さまだ。
だが、俺ははやくから自分の役割に気づいていた。力を示し、この世界に生まれた者らを戦いへと導けというな。
だから俺は『チェシャ』になった。月萌の闇を担う者として暗躍した。それは使命のために必要なモンだった。だから闇を消そうとするお前らは俺にとって敵であり、標的だった。
だが状況は変わった。いまやこのセカイの戦いの核をなすのはお前らだ。だが何をどう見たってお前らは劣勢。月萌ソリテラがどんだけ大事に世話したところで、ある程度のチカラをもったイカレ馬鹿がとっこんじまえばそこでジ・エンド。
あらたなイケニエとなったその馬鹿を協力してブッ飛ばしたあとは、しばらく平和が続くだろうさ――哀れな犠牲となったお前らの志に報いるためにとな。
ここばっかりは、グランマちゃんも強権ふるえなかろうよ。そこまでの流れで『セイギのミカタ』のスターシードどものヨコの連帯ができている。その状態でやらかしたら、自分が討たれかねねえ。
それじゃあ困るんだよ。ンなことになったら、いつまでたってもこのクソッタレな『ゲーム』は終わりゃしねえ。
今はほっとんど思い出せねえが、『アースガルド』とやらもロクな場所じゃねえんだろうな。だが、こんな世界レベルの謀略でタマシイを囚われ転生を続けなきゃなんねえトコよりかはずっとマシだろ。
俺はお前らを生かすことでより戦いを大きくし、このクソッタレなウォーゲームの終結を早めたい。そういう理由で、俺は来た」
なるほど。おれはひとつ息をついた。
イツカと相談しあうまでもなかった。
「ありがとうございます。偽りなく語ってくださって。
けれど、だからこそ、その動機での加入はお断りいたします。
正直に言って、おれたちはおれたちを敵とする者たちの、その思惑を利用している。
それでも、おれたちは戦いを大きくしたくはないし、続けたいとも思っていません」
「俺たちはグランドマザーに勝つ。けれど、それは彼女の意志を変えるためだ。
あんたの言うとおり、このセカイを支配する『ゲーム』はクソッタレだ。だから、その枠内でのゲームクリアなんざ目指さねえ。
変えてやる。それもこの二か月ちょっとで!!
その方がずーっと寝覚めいいだろ。だからさ、あんたも一緒にやろうぜ、『チェシャ』!」
手錠を開錠してそういえば、『黒チェシャ』はシニカルな笑みを落っことし、しばしおれたちのさしだした手を眺めていた。
しかし、やがてニヤリと笑うと、パン、パンとおれたちの手を叩いた。
それは、ハイタッチとおんなじリズムで。
あと一回ぐらい襲撃させとくべきだったかもですね(鬼)
とはいえ、すぐに仲間にはなりませぬが。
次回、高天原にかえってきたタクマたち。
もちろん先生とエルメス様によりお説教ですが……。
どうぞ、お楽しみに!




