Bonus Track_77-1 ソリステラスの『突撃にゃんこ』! タクマ、魔王城に突撃する!
「たのもー!」
その声が聞こえてきた瞬間、おれとイツカは立ち上がった。
「えっと……たーの、もー?」
もうひとつの、控えめな声を聞きながら、門まですっ飛んでいく。
通称『魔王城』。実態は世界の敵とその味方がひそむ基地。
その門前には、まだここに来てはいけないはずの二人組がニコニコと手を振っていたのである。
間一髪、バトル馬鹿の黒猫野郎がじゃれつく前に確保。『ご訪問ありがとう!』と笑顔で握手を交わす。よし、これで最悪の事態は回避できた。
「カナター! なんでー? なんでとめるのー?!」
うさみみロールのなかで、やつめがもがもがにゃーにゃーとだだをこねている。まったくこいつは。とりあえず一度解放し、ビシッと指導をくれておく。
「だめでしょイツカ!
ソリステラスからの留学生に今の段階でなんかあったら国家間戦争まったなしだよっ!」
「え~~ただのバトルなのに~~」
「それがやばいのっ!
ごめんねふたりとも、そういうわけだから、今日はバトルなしで帰ってもらえるとすごくありがたいんだけど……」
「え~~~」
イツカの隣、タクマもそろって上目遣い。
ここで負けちゃいけない。ぐぬぬと精神力を振り絞る。
それは、バトルできたらありがたい。第三陣はさらに手ごわいやつらが来るし、そもそも第四陣ではこの二人も加わってくる。対策のためのデータはとれるに越したことはないのだ。
それでも、万一を考えるならば。
「じゃあ。ここで、シミュレーションモードで、五分だけ。
それなら『大丈夫』だから」
「……そういうことか」
そういえば全員、納得してくれた。
そう、忘れてはいけない。
ここには、使い捨ての体の悪党どもが沸いてくることがある。
かつてソリステラスは『TSネットワーク』を介して月萌辺境――ぶっちゃけいえば月萌支配下のヴァルハラフィールド――に、ウイルスプログラムを送り込んでいた。
ほとんどはセーフティネットに阻まれるが、なんとか生き残ったものたちが『モンスター』として顕現。国内の土や水などを侵食、『表面換装』を悪用して工作員たちの使うアバターを作り上げるのだ。
月萌とソリステラスに三海和平協定の結ばれた今では、すくなくとも公式にはこんなことは行われていない。
だがこれと同じことは、月萌国内からだってできる。
月萌国内にも開戦派が潜んでいることは、すでに分かっている。
彼らは常にきっかけをうかがっている――そのため、両国交流の最初が『留学生』=ガードの固い高天原エリアにいるのは、不慮のことを防ぐには最善の手だ。
その鉄壁を崩す要因として警戒されていたのが、これ。
ソリステラスのフリーダム男・タクマの脱走だ。
対策として取られたのが、『一緒にエルマーを留学させること』。
どうせ脱走されるなら、『アーススイム』で目的地まで一気に潜行することも、いざとなったら瞬時に地中に逃れることも可能な地神竜をつけといたほうがまだ安全というものだ。
開戦派だって当然、それを見越して体制を整えている。
奴らが、タクマたちがここにいることを知り、何らかの干渉をしてくるまでの推定時間は、約10分。
タクマたちがぎりぎりバトルを終えて去れば、彼らの出動は空振りとなる。
そしておれたちは彼らを捕捉し、その情報を得ることができるというわけだ。
「ったく~そーゆーことは言っといてくれよな~」
「ほんとマジ~」
「言ってもすっ飛ぶでしょ、お前たちの場合」
「うぐっ」
「うーん、そうかも」
「否定してエルマー?!」
『ったく』といいつつめっちゃうれしそうなイツカとタクマ。うん、絶対すっ飛ぶこいつら。
あきれ半分、ほほえましい半分で、シミュレーションモードのフィールドを展開。
エルマーとともにふたりのバトルをしばし見守ることにしたのだった。
人差し指のパックリ割れ(というか間違ってひっかいたとこ)が全然治りません( ;∀;)シカモイタイ
次回、つづき!
突破記念パーティーへの送迎で現れた『黒チェシャ』(51章ご参照)たちがやってくる予定です。お楽しみに!




