Bonus Track_76-7 気づいてること、気づかないこと~マルキアの場合~
「あんたさ。ここんとこずいぶん落ち着いてみえるね。
なんかデトックスでも受けてきたのかい?」
ご丁寧にもあの女は、数日おきにエルたちの様子を伝えてきた。
その話しぶりは――いつものハイテンションを装ってはいるが――それまでよりずっと落ち着いていた。
なんというか。『つきものが落ちた』というのか。
冗談交じりにそれを指摘すると、見たこともない顔で微笑まれた。
『そうかもしれないわね。
毒気を抜かれたわ。あの、黒いネコちゃんの言いっぷりにね』
その呼び方には、いとおしさがにじんでいた。
かすかに潤む瞳。ほのかに染まる頬。
まるではじめて恋をした、そしてそれにまだ気づいていない少女のようだ。
「なんだい、あんたも惚れっちまったのかい?」
思わず口に出てしまえば、笑い声が返ってきた。
『まさか。
私のタイプは年上よ。きれいなお洋服を着せてみたいとは思うけれどね』
「そこんとこはぶれないんだね……」
あきれるやら、ほっとするやら。
タカシロの血には、メイド服好き遺伝子でも組み込まれているのだろうか。それともイングラムの方か。いや、知ったところでいかんともしがたいのだけれど。
『ま、安心なさい。そっちの番はきっちりつくるわ。
あの子たちにはとっとと、この月萌から飛び出してもらわないと。
本番は、そこからよ。
わかっていると思うけど……』
「そっちこそ安心おし。
そんなクソまじめなやつらなんざ、そっちによこしちゃいないよ。
ま、ある意味では真面目といえるかもだけど――自分の気持ちってやつにはね」
そしてわたしたちは笑いあった。
かつてより確かに、居心地のいいやりようで。
エルメスは不屈の精神力をもつステラの王族。
そしてタクマとエルマーは、スターシード。
いずれも『大真意』に屈することなどない者たちだ。
かならず、信じる正義を貫けるはず。
どんなに遅くとも、第四陣。留学のシメとしての『実習』で、『魔王』たちの傘下に加わってくれる。
そうして魔王軍における、ソリステラス民の受け皿をつくり――
彼らが国家横断的・世界最大の一大勢力となる下地を作り上げてくれる。
そうすればこの『ゲーム』の、ベストエンドへの道がひらかれるはずだ。
すでに魔王たちのための土地は確保されてある。
月萌とソリステラスの間の公海上に浮かぶ、豊かな小島。
月萌政府により迫害された彼らがそこにのがれ、王道楽土の第一歩をこの世界に刻むための、約束された場所が。
願わくば――いや、これ以上はご法度だ。
私の『場所』は、ここにある。
そうである以上、私は私の役目に、最後まで忠実であるまでなのだ。
画面の向こうの、少女のような女が、そうであろうとしているのと同じに。
ブックマークありがとうございます!!!
はがれるたびに「もうダメかも」と思うのですがいただくたびに復活します。現金です。単純です。がんばれます( ;∀;)
この章で第三陣まで、やっぱりあかんかった。
潔く新章で第三陣行くことにします...( = =) トオイメ
フラグにならない、はず。
というわけで次回、次回、新章突入! ソリステラスのフリーダム、タクマ君が案の定やらかす予定です。
どうぞ、お楽しみに!




