Bonus Track_76-3 やさしさと笑いに包まれて~ミズキの場合~
コウたちは、それでもまずは俺とミライのための覚醒回路を、と申し出てくれた。
その気持ちはうれしかった。けれど、相談しあうまでもなく、俺とミライはお断りの返事をしていた。
「それすると、またコウたち徹夜になるでしょ?
そんな何度も徹夜ばっかりしてると、体に悪いもの。
もしやってくれるなら、『シエル・フローラ・アーク』が出来上がってから。
そしたらまた考えよう?」
「俺も同じ意見だよ。
ただ、俺たちこれでも団長と、そのパートナーでしょ。
自力でがんばって覚醒できたほうが、みんなのお手本にふさわしい気もしてるんだ。
だからそこはもうしばらく、チャンスをもらいたいんだけれど……」
『ううう……。』
すごーく残念そうなコウ。画面の向こうから、だめ? と無意識の上目遣いが言ってくる。
仲間になってから見せてくれるようになった、屈託のない表情が改めてうれしく感じて、思わずほっこり。
すると、ダイトが熱く解決策を示してくれた。
『よっしゃ! それじゃあ、競争しましょうっ!
お二人がさきに覚醒したら、騎士団のほかのやつらの回路作ります。
『シエフロ』が先にできたら、お二人の覚醒回路をやらせてください!!』
『ダイ。作るのはコウでしょうよ。
コウ、どうします? それでいいですか?』
タマキがツッコミを入れるけれど、その調子はどこか優しい。
『うん、それならがんばる!』
『相棒がやる気なら、俺はとことんサポートするまでだ』
コウが笑顔になれば、シロウも笑ってうなずいた。
『そういうわけだから!
今度はアスカも加わってくれるから! 負けないからね!!』
アスカが加わる。それを聞いて俺は確信した。
『シエル・フローラ・アーク』の命運を。
そしてそれに導かれる、第四陣の決着のカタチを。
俺の心には迷いが渦巻いた。
そのときまでに、覚醒を成し遂げたなら。
俺たちは『これまでの功績を鑑みて』卒業資格を与えられ、正式に招集されて戦いに加わり――『魔王の捕虜』の列に加わることになる。
ミライはそうして、高天原を出るはずだ。
けれど俺は、まだここにいたい。
家族、愛する女性、そして仲間たち。ここを離れることができない、守らねばならない人たちの手を、俺はやはりまだ離せない。
それを知ればミライは、言ってくれてしまうはずだ。『おれもここに残るよ』と。自分の気持ちに無理をしてでも。
だから、俺は。
「ねえ、ミズキ?」
そのとき、優しい声が俺を呼んだ。
ふりむけば、ミライが柔らかな表情で俺を見上げている。
「しんぱいなこと、あるんでしょ?
ねえ、おれたちに相談して。
誰も無理しない方法、いっしょに探すよ!」
目があえばミライは、ニッコリ笑って俺の手を取ってくれた。
そのぬくもりにふんわり癒されつつつも、俺はちょっぴりはずかしくなった。
『自分だけで背負い込まないで』と、これまでミライにさんざん言ってきたのはこの俺なのに。
『そうですよ、ミズキさん。
そのための俺たちだと、自負しているんですからね?』
『がんばっても、無理はなし。そう言ってくださったのはミズキさんじゃないですか!』
『俺たちも徹夜なしでがんばるから!』
『団長の問題は我が事です。何でもご相談ください!』
「はなしはきいた――!!」
カルテットたちがそろっていえば、そこへどばんと乱入してくる仲間たち。
「俺たちだっているんだぜ、ミズキ!」ソーヤが。
「そうそう! ミズキは『うさもふミライ』の一員なんだから!」シオンが。
「ご飯つくるよ!」ロアンとミキヤが。
「実験台なら俺たちゃプロだぜ!」イザヤが。
「メイド服は着ないけどねっ!」ユウが。
「よっしゃよっしゃあ俺も絶賛手伝うぜっ!」ニノが。
「もうこうなったら卒業までこき使ってやってくれ、このワーカホリック狐を」イズミが。
「ニノはさ、たまに子ぎつねに変身してシロウの首にもふっと巻き付いてやったらいいんじゃないか?」そしてアオバが冗談めかすとその場はわちゃわちゃとなった。
『いいな~。俺はそうだミツルおねがいっ! コスプレ感覚でいいからシュバシコウ装備してみせてっ! このさいコウノトリでもいいから!!』
「そ、それっはずかしい……でも、がんばるっ……!!」
『えっえっ、それじゃあ俺はミライさんですか?! 同じ柴犬でミライさんですかあべしっ』
『アンタにミライさんだっこは100億年早いですっ。
俺だってそれいったらセナにお願いするところですがセナはうさねこリーダーとして忙しいですからね。アンタには恥を忍んで俺がコスプレ、げふんわんこ装備してやりますから満喫しやがりなさい。万一セクハラなんかしやがったら抹殺しますのでそのつもりで』
『それって俺もおかえしにコスプレしなきゃならない流れ?! いやタマのわんこは確実に可愛いけど魚系装備とかぜんぜん似合わないだろ俺……ってどこいくのタマ?! タマ――?!』
顔を赤くして走っていくタマキ、頭の上にはてなマークを浮かべつつ追いかけるダイトに、みんなが笑った。俺も笑った。
ミライは俺が思っているより、もっともっと成長していた。
すっかり団結した仲間たちは、まぶしいほどに頼もしかった。
そろそろ、後を託すことを考えても――いいのかもしれない。
騎士団詰め所を満たす朗らかな笑い声の中、俺はうれしくてほこらしくて、ちょっぴりだけ目元をふいたのだった。
タマキ「いきなりサラッと可愛いとか反則でしょうそれっ///」
ふいうちに弱いタマキさんでした。
次回二組のイツカナの呼び方が決まります!
ゆるい! はず!! お楽しみに!!




