Bonus Track_76-2 せいいっぱいと、希望の使者と~ハヤトの場合~
病室内にほんのり漂う残り香は、彼女のものとすぐわかった。
その主たる発信源も。
ベッドの下。目立たない位置に落ちている小さなストラップ。
『それ』が彼女の、せいいっぱいなのだ。
アスカもだから、こんな風に切り出す。
「なになにカルテットー、ウワキ? ウワキなん?」
「ぶ?!」
「だって時間的にミズきゅんまだこれないじゃん? なのになんか華やいじゃってさー。もしかしてきれいな女の人でもお見舞いきてくれたワケ?」
「え、その、ちがっ……
ちっ、違わないけどちがうからっ!!
ツヤマさんはそんなっ、そういう対象じゃないからっ!!」
しっぽも両手もばたばたさせて慌てるダイト。顔を赤くし、さらにはまだ何も聞いてないのに全部口にしてしまうあたり、実に愛すべき人柄だと思う。
そんな相方に肘鉄を食らわせ、タマキが補足する。
「さきほどツヤマさんがお見舞いにいらしてくださったんです。
まだ学生のあなたたちに、無理を強いて申し訳なかったと。
……けれど今回のことでわれらとウィッカーワークスの優秀さはだれも疑いえぬものになった。全力で支援させてくださいと」
きれいな女性上官にそこまで言われれば、さすがに嬉しかったのだろう。珍しく少しほほが上気して見える。
珍しくといえば、コウが笑っていない。
こんなことを言われたなら、無邪気にはしゃいでいておかしくないはずなのに、むしろ肩を落とし気味。
「あんなんで、優秀とか……全然ダメだよ」
しおれた声といっしょに、口元にはりついたままの笑みがはがれ落ちた。
「だってそうじゃん? しろーさん倒れちゃったよ?!
そんなんぜんぜんダメじゃん。
しろーさんが犠牲になったら、意味、ないじゃん……」
泣きそうな顔でうつむくコウ。
その頭を、シロウが暖かく撫でる。
「だいじょうぶ。コウなら、できる。
俺にはほんとうに、HPダメージゼロだったじゃないか」
「でも……つぎはそうはいかないかもしれない。
だってさ、だって。つぎは……」
「なーに。一回線でダメなら、二回線。二回線でダメなら、もっとつなげればいいだけだよ。TPBPは電池つなげばなんとかなる。
それができんのが、ウィッカーワークスじゃん?
だいじょぶ、つぎはおれもついてっからさ!」
アスカはコウたちにさりげなく右の掌をむけた――そこには『同意してみせて。おねがい』との文字が横たわっている。
「マジに? こき使うよ?」
「ういうい、もっちのろんよ!」
コウはそんなの示されるまでもなく同意してくれたのだが――同時に、さりげなくアスカは俺を肘でつついた。
もちろん意図していることはわかる。俺はベッドの脇まで進むとかがみこみ、ストラップを拾い上げた。
「おい、なんかそこに落ちてるぞ。ストラップ?」
「ん、……ツヤマさんのだな」
「我々はもう戻る予定でしたし、届けに行ってきますか」
「ああ、頼んだ」
ダイトとタマキもアスカの掌メッセージで状況把握してくれた。さりげなくストラップを受け取り、またなと病室を出て行く。
ヨロスコーとニコニコ手を振ったアスカは、ドアがきっちり閉まると「さて」とコウに向き直る。
「そのぶんだともう、聞いてるんだね。
『シエル・フローラ・アーク』について」
「うん。
二週間かけて、第四陣の切り札に仕上げてほしいってさ!」
今度は掌にしこんだメッセージなんかいらない。
その笑顔を見たコウも、いつもの茶目っ気のある顔に戻る。
月萌軍と魔王軍の戦いは、確かに静かに、仕組まれた終局へと向かっていた。
日向はゲームで人に勝ったことほっとんどないです。
なので知略パートはいつも不安ですorz
まあやるっきゃないのですが。
次回、学園に戻り覚醒目指してる『捕虜』さんたちの予定です。
作者のミーたん分が不足しているので、きっとそろそろ出ます。
どうぞ、お楽しみに!




