76-2 愛ゆえの迷い! カナタはきょうも成長中!
やっとこさ帰れました……!!
夜投稿っていえばよかったです……!!
「……うん、何とか理解した。驚いたけど」
星降町でのボイスの先生――イシマル先生はまるっこい黒縁眼鏡をなおしなおし、そういってくれた。
自称『専属アッシー君』ことタカヤさんのマイクロバスに乗り、すこしはやめにスクールに着いたおれたちは、さっそくそのことを担当の先生に相談したのだ。
「でも、本体? のほうもレッスンはするよね? というか続けてほしいっていうのがホンネだけれど。
演説すんにも声はきちんと出なきゃだし、なにより今やめちゃったら、ここまでの積み重ねがもったいないよ。
まあレッスン代が二人ぶん増えるからってのもあるけどね!」
「えっ、おれたちどっちも、別々に見てもらえるんですか?!」
そのちゃめっけをまぶしたことばに、おれたちは驚いた。
なぜなら、本体のおれたちとくぐつのおれたち。記憶を共有すれば、レッスン結果も共有となる。アスカがそのように作ってくれたからだ。
先生はニコニコ笑ってこう言ってくれた。
「そりゃあそうさ。ふたりはどっちも歌うんだよね? で、歌うテーマは違ってくるはず。となればそれぞれに対策が必要になるじゃないか。
もちろんダンスのほうもそうだよ。ミシマ先生には僕からも話しておくから、そこは次来た時にね?
さ、とりあえず始めよう。発声練習をしたらくぐつの二人、ちょっと歌って見せてくれるかな? まずはそこからだ!」
「ありがとうございますっ!!」
おれたちは声をそろえた――なんて頼もしいんだろう。
高天原でお世話になってたスクールに突然通えなくなり、正直いえば不安があった。
けれど、そんなのはいま完全に吹っ飛んだ。
さすがは、トトリさんとアイラさんのご推薦。かえったら改めてお礼を言おう。
もう一人のおれと、イツカたちも同じ気持ちなのだろう、明るい顔をしている。
はたしてその日のレッスンは絶好調。
忘れかけていた歌の感覚を、大きく取り戻すことができたのだった。
くぐつのふたりの熱意は、すごかった。
このふたりにアイドル活動は一任してもいいんじゃないかくらいの勢いだ。
「なんつーか、お前たちすげーな……もうふたりがアイ活担当でもいんじゃね?」
「こらイツカ」
もっともそれにしたって言い方ってものがある。うっかりにゃんこにはくぐつのおれもビシッとお叱りをくれた。
「おまえね。
そんな気持ちでいると、セレネさん取られちゃうよ? こっちのイツカに」
「にゃあああ?!」
「ちょ、カナタ、俺そんなことしないしっ!!」
「だよなだよな?! ええええちょっと待ってええええ」
ふたりそろってあわてる様子は、ちょっと面白い。
けれどニコニコ眺めていれば、やつらはおれを巻き込んできた。
「なあカナタ! カナタだってアレだよな!」
「いまライムちゃんになんか、そのいろいろと、してないだろっ?」
「……ん……そうだね。
まあ、したくてもできない、ってとこかな。
ライムは、おれたちのことで動いてくれたってきいてる。
このことでもきっと、そうだよね?
けれどおれたちの歌う姿を見て、声を聴いたら……きっとライムはまた、苦しくなるんじゃないかって。そう思うと複雑……かもしれない」
縷々と語ってしまって、はっと我に帰ると、みんなが、驚いたようにおれを見ている。
最初に響いたのは、運転席からのひゅうっという口笛。タカヤさんだ。
「おー。カナタぴょんそんなこと言えるようになったのか~。
いや、いいことだと思うぜ? カナタぴょんはほんっと抱え込みがちだったからな!」
「うんうん! そこんとこは俺たちも心配だったから!」
「あれだよね、ソーやん!」
「そーそ、『うさぎそうびの悪いくせだね』ってな!」
アオバが、シオンが、ソーヤが次々言えば、マイクロバスの中はお祭りムードに。
「いや、ちょ、べつにっ……おれだってそういうことぐらい……」
「照れんなって!」
「いやーカナタもようやく大人への第一歩をもふっ?!」
慌てれば調子に乗る黒猫ども。
おれはもちろん、うさみみパンチをお見舞いしたのだった。
次回はSFA再現プロジェクトについての予定です!
どうぞ、お楽しみに!!




