Bonus Track_75-3 起死回生!『セント・フローラ・アーク』再現プロジェクト!! ~コウの場合~
お守りの効力を上げる方法はひとつ。効果対象を限定することだ。
つまり、カスタムすればするほど、強力なものになる。
『Ciconian_Wickerworks<チコニアン_ウィッカーワークス>』は、ぶっちゃけそっちのほうのモノなのだ。
これのおかげで、イツカナたちは短期間で第四覚醒に王手をかけることかできた。
あのままカスタムを続けていけてれば、今頃は。
暮れていく学内ラボの一室。未完の『ワークシート』を作業机に広げ、俺はため息した。
『もう少し精度は落ちてもいいから、短期に量産できませんかね?』
『一人を劇的に強化できてもダメなんですよ。現状でそれだと、テラシャイ一発きたらその人以外は薙ぎ払われてエンド。それじゃあイミがないんです』
国立研究所とのミーティングで言われた言葉が、俺の耳によみがえる。
イツカとカナタと戦うハメになった、その影響はプロジェクトの行く手にも影を落としていた。
『効力を犠牲にしても汎用性を高め、量産を可能にする』。
それを求めるならば、ノンカスタムのレシピを『ティアブラ通信』で大量発注するのが合理的だ。
『Ciconian_Wickerworks<チコニアン_ウィッカーワークス>』は時勢に合わない遺物として、その地位を失いつつあった。
「このぶんだと次のミーティングでは、助成金が打ち切られることでしょうね」
錬成机に頬杖を突き、タマがため息をつく。
やつはシニカルな男だけど、その予測はおおむね正しい。
「ここはエルカ所長の言うように、一度切り替え、己の覚醒の追求に専念することも視野に入れるべきなのだろうな。しかし、……」
しろーさんが暗い目でつぶやく。同じ気持ちなのだ。そう。
「もう少し。もう少しやれれば。
ミズキさんとミライさんの助けにもなれるはずなのに。騎士団のやつらみんなもっと強くしてやりたいのに。
こんなハンパな状態じゃ。研究が立ち枯れちゃうよ。ここまでしたことが、ただの時間の無駄になっちまう……!!」
たまらずに机をたたいたそのとき、ノックの音がした。
「コウくんたち、いる? 今話していいかしら」
「マイロちゃんせんせい!」
俺たちは秒でドアを開けた。
「『チコニアン_ウィッカーワークス』のこと、悩んでるのね」
「はい。
このままじゃ俺たちのしてきたこと、無駄に……。」
マイロちゃん先生はちっさいけれど鋭い。相談する前にズバッと言い当ててきた。
そして、力強く言い切ってくれた。
「大丈夫よ。無駄にはならない。
ここまでしっかり、積み上げてきたのでしょう?
『ウィッカーワークス』の価値は確かよ。消えてなくなるなんてこと、ありえない」
「それじゃあ……」
「いえ。やはり研究助成金の打ち切りはほぼ確定事項のようね。
わたしもエルカに掛け合ってみたけれど、彼の一存だけでこの不利は覆せない状況なのですって。
でも、早まらないで。
ここで研究を停止するといえば、向こうは技術を腐らせないためいったん預かるといってくる。そして、彼らだけで研究を進め実用化してしまうわ。
そうして『ウィッカーワークス』は、別の名前と別の開発者をもつ技術として、世に広められてしまう――わかるわね?」
「そんな!」
それはつまり、研究の盗用だ。
短い付き合いだが、エルカさんはいい人だと思っていた。
そもそも仲間のため、正義のためにエクセリオンとなったひとなのだ。そんなことをするとは思えないし、思いたくない。
「もちろんエルカはそれをさせたくない。全力で防ぐと言ってくれている。
けれど、月萌で戦いが起きたことで、以前処分した職員たちにつながるやつらが、研究所に手を伸ばしてきているの。
こんなことがなければ彼のもとで力を貸してくれていた子たちを、逃がさなくちゃいけなくなってしまったのも一因ね」
「シオちゃんたちのこと……ですよね」
「ええ。
シオン君はとても優秀だけど、まだすこし純粋すぎるの。
口のうまい、悪い大人を近づけちゃいけない子だわ」
「確かに」
俺たちは三人ともうなずいた。
まだ、学長がミソラちゃん先生に代わる前。理事会の旧勢力が強かったころ。
シオちゃんは何度も、ラビットハントの標的にされた。
その純粋さに付け込んで、そのかわいさを利用されたのだ。
見かねて、せめて試合を減らしなよと俺たちも言った。けれどシオちゃんはニッコリ笑っていったのだ。
『こんなオレにも、期待してくれてるひとがいるの。
きっとつぎこそ勝てるって。負けてもそれを糧に、強くなれるって……
そんなひとがひとりでもいるかぎり、オレ、たたかいたい。
だいじょぶ、オレならぜんぜん、だいじょぶだから!』
俺たちはけっきょく何もしてやれなかった。
そのことはいまだに後悔として、胸の奥に残っている。
「そういうわけで、まだ研究所と共同研究してるのでなければ、一度凍結して覚醒を目指しなさいっていうとこだったけど、その選択肢は最後の手段にするべきね。
いま手を離したらダメよ、絶対に」
「それじゃ、どうしたら……」
「ひとつ、逆転の策があるの。
困っている女の子たちを救う手立てにもなるわ。
今からだと、けっこうな突貫スケジュールになるはずだけど……」
「やります!」
俺はもちろん即答していた。
俺の、俺たちの集大成をこの手で守り、発展させ。
さらに、困っている女の子たちを救えるなんていったら、やらないテなんかない。
「あ、もちろんちゃんとタマは寝て。ダイにはちゃんとごはん食べてもらって。しろーさんはモフモフしていいからっ。
そもそもは俺から始まったことだからさ! そこんとこはどんっとまかせて!」
するとタマがニッコリ笑って手を差し出してくれた。
「何を言ってるんです。コウもちゃんと寝て、ご飯を食べなさい。
そのへんは俺がマネジメントしますよ」
しろーさんも優しい笑みで手を差し出してくれる。
「まったくだ。
寝る前のブラッシングは必須。バディとして、そこは譲れないからな?」
「はなしはきいたああ!!」
と、錬成室のドアがとばーんとあいて、息せき切ったダイかとっこんできた。
「俺も……俺も!! 実験台めっちゃやるからな!! そこんとこはまかせとけっ!!」
「先生もできる限りの協力するわ。そこは頼ってね?」
マイロちゃん先生も、ふんわり笑顔で手を重ねてくれて。
『セント・フローラ・アーク』再現プロジェクトが、急ピッチで走り出したのだった。
まだ雪が残る当地。午後になったら急に寒いです……
次回、恋するアイドルと、通う気持ち。
どうぞ、お楽しみに!




