Bonus Track_74-7 いつになく、いつになく〜ユキの場合〜
「ユキ! ユキってば!!」
「ねえ、まさか、クレハ君と別れるの?!」
あれは、今週はじめのことだ。
いつものお茶の時間、クレハ君はいつになく神妙だった。
『学園軍』第二陣として志願したい気持ちがあるのだ、と聞いたあたしは、反対しなかった。
理解できたからだ。
イツカ君とカナタ君は、クレハ君にとってたいせつな恩人。それが世界を敵に回して戦っているのなら。そんな気持ちは、あたしにも。
けれど一緒に志願することはできなかった。
なぜってそうすれば、ナナがハルオミ君と離れてしまうことになる――それも、二週間も。
クレハ君も、それを考えたうえで、あたしに相談してきたのだ。
そのくらいなら、あたしたちが一週間、我慢しよう。
ハルオミ君とハルキくんが、エルメス殿下とともに出撃するのは第四陣の予定だ。
あたしとナナが予定通り、第三陣で出撃するなら、あたしたちも、ナナとハルオミ君も、一週間だけ辛抱すればいいことになる。
あたしたちは、話し合って決めた。というか、その結論はあたしたちの間で、最初から出ていたようなものだった。
でもそれを聞いたナナは、いつになく慌てた様子で言ってきた。
「ユキ、そんなのいいんだよ?
あたしとオミちゃんは、だいじょぶだから!
オミちゃんが高天原入ったときだって、ずいぶん離れてた。けど、がまんできた。
それは、結婚すること決まってるからもあるし、もうずっと付き合ってるからってのもある。
ユキたちはまだ、付き合いたてのいいときだから。オミちゃんもあたしも、それ大事にしたげたいんだ」
「ありがと。
でもナナも、我慢してたでしょ。あの頃、いっぱい。
これ以上は我慢、させたくないの。
それは、クレハ君とあたしも」
「ううう……ユキ〜!
まだ、時間あるからね! 最終ライン土曜5時だから! それまでにきもちかわったらいうんだよ! 絶対だからね!!」
いつもの笑顔と口癖もどこへやら。ナナはお目々をうるうる、カピバラの耳をふるふるさせて、あたしをハグしてくれたのだった。
それでも、ほかの子たちはざわついた。
すでに第二陣志願を決めているリンカお姉さまとサクラも、どうしたのとすっ飛んできたし、サリイお姉さまも第三陣じゃだめなの? と言ってくれたし、授業や実習の前後には、あたしもクレハ君も質問攻めにあった。
しまいにクレハ君のことを悪く言う男子があらわれたとき、あたしはついにブチッと切れた。
「関係ないでしょ! これはあたしたちの意思!
あたしが行って来いって言ったの!!
これ以上いうんなら、決闘よ!!」
しかし、飛んできた声にあたしは慌てた。
「決闘って、もしも勝ったら何してくれるの?」
「ユキさんとデート、一回とか?」
いいねいいねと広がる声。墓穴をほってしまったと気づいたそのとき、進み出た人がいた。
「じゃあ、俺がやる。
他のやつとデートなんか、させないからな」
それはいつになく迫力に満ちた様子のクレハ君だった。
周り全員をにらみ回してあたしの肩を抱き、「行こう」とあたしを連れ出せば、その場は歓声に包まれた。
それでも、二人で屋上まで逃げてくれば、クレハ君は「ごめん!」と謝ってきた。
「あんなの、普通に暴君だよな。
婚約とかしてるなら、ともかく。
それにユキさんにあんなことまで言わせて、……ごめん、本当に、ごめ……ユキさん?」
さっきの勇ましさはどこへやら。『ションボリオオカミ』になったクレハくんは、まるっきりしょぼくれたきつねちゃんみたいで、可愛すぎて笑ってしまった。
笑われて戸惑うようすもかわいくて、なでなでふかふかしてしまう。
「それじゃ、さ。
……婚約、しちゃう?」
冗談めかせて伝えると、クレハくんは真っ赤になって、それでも「しよう!」と即答してくれた。
「あらためて、俺からちゃんとプロポーズ、するから……
準備に一日、待ってくれる?
プレゼントも、あるから。
ユキさんのために作った、アクセサリー。きっと、似合うはずだから!」
その翌日、クレハ君はあたしを『シークレット・ガーデン』の一角にセッティングされた、トロピカルムード満点のティーラウンジにエスコートし、大きな風の魔石を中心にきれいな石をいくつもあしらった、羽の髪飾りをプレゼントしてくれたのだった。
「これは俺が、作りました。
……俺のために、髪を伸ばしてくれた、かわいい人のために。
かならず、ユキさんを護ってくれるはずだから、使ってください!
あ、もし髪を切りたくなったら、ヘアバンドに改造できるので!」
「え……知ってたの? それっ……
もうっ、みんなおしゃべりなんだから!!」
こんどはあたしが真っ赤になった。
そう、高天原に入った頃、あたしの地毛は耳下ぐらいのショートヘアだった。
ポニーテールにしていたのは、マスクエフェクトだけ。
けれど、学食でふと耳に残った声が、あたしに髪を伸ばさせた。
後から知ったのだ。それが、クレハくんの声だったと。
クレハくんの手で飾ってもらった髪飾りは、頑張って伸ばした本当の髪に、この上なくよく似合ってくれた。
――学園生は捕虜になっても通学してよくなった=離れ離れにならなくてもいいと知り、あたしたちが脱力してしまうのは、そのすぐあとのことである。
今年最後を飾るのは、仲間たちの友情&スクールラブなエピソードでした*^^*
次回は新春スペシャルをお届けする予定です。
三が日の投稿は『書けたら投稿』となります。
完結を見据え、英気を養ってこようと思います!(^^)/
本年もたくさんお世話になりました!
どうぞ来年も、よろしくお願いいたします!




