Bonus Track_74-6 天使? 悪魔? くろうさちゃんの『じごくのとっくん』!~ニノの場合~
「だーいじょぶだって! スゥさんの特訓で一発覚醒してみせるから!
そしたらもうまた週明け向こういかなきゃだろ、だからまずしごとのほうをアレしないとっ。
できる範囲だけにするから。なっ?」
俺たちはすでに、四ツ星期間をほぼ終えている。
さらには一度、学園軍として志願もした。
ぶっちゃけあとは、覚醒だけ。
それさえ終えれば晴れて俺たちは卒業。自由の身として、イツカナたちのもとに行ける。
つまりもう、決まった勝ちを取りに行くだけ。ぶっちゃけ楽勝ルートなのだ。
そう考えて、しぶるイズミを説得した俺だったが……
「あ、ニノー! 待ってたよー!」
週明け第二陣で出撃するクレハとチナツ、ここに残るハルオミと改めて打ち合わせ。
「おめでとおおお!!」
アオバとミツル、ミクさんの覚醒でもりあがり。
「そのつめこみスケジュールでよく居眠りしないものね……」
マイロちゃん先生たちに驚きあきれられながらも、クラフト実習に出て。
「すっげかっけええええ!!」
定例闘技会では留学生ズの最強エキシビと、『しろくろ』の神パフォーマンスに盛り上がり。
その間にもしごとして、しごとして、しごとして。
その後、スゥさんの『魔法陣の特訓』をうけた俺は。
覚醒できなかった。
「ニノ……」
イズミがじーっと俺を見ている。
大きなうさみみをぐいっと倒して。
やばい、直視できない。
思わず俺は目をそらした。
「わかってたよな?
スゥさんの『野生開放』は、覚醒のきっかけにはなるけれど、一回で完全に覚醒できる保証があるというものじゃないってこと」
「う……ハイ」
マジやばい、口調が超淡々だ。
これは、数年に一度レベルの超ガチだ。
「この状態であっちには戻れない。そうだな?」
「オッシャルトオリデゴザイマス……」
「よし。
わかったら来い。覚醒するまで寝かせないからそう思え」
「ひいいい?! イズミさんっ?! まって、するならせめてやさしくしてえええ!!」
がしっと俺を捕獲したイズミ。眼鏡の向こうの目はまさしく、首狩りウサギのそれだった。
連行されていった先は、寮室の寝室。
「そこすわれ」と言われて俺は、ベッドの上で正座した。
「で、……一体なにをなさるのでしょうか……」
「おれの『時繰り』で『鈍化』の結界を作り、お前を包む。
お前は、それを破ってみせろ」
「え、いやそれってムリゲーじゃね?!
つか、お前のそれってそんな持たないんじゃ……」
「効果を低めに設定すれば何とかなる。
体感時間100倍程度ならまあ、心が死ぬ前にはどうにかなるだろ」
「こころがしぬってなにさせるんですかあああ?!」
「『なにもしない』だ」
「まさかのほうちぷれーっ?!」
「動いてないと死んじゃうワーカホリック狐には一番の拷問だろ?」
そうのたまってニッコリ笑うイズミは、まさしくウサミミの悪魔に見えた。
「やめてマジやめて!! ニノさんはしごとしないとしんじゃうの!!」
「転生するつもりで頑張れ。」
「いやあああ!!」
イズミはいっそ花開くような笑顔で、覚醒技を発動した。
ずしっと、体が重くなる。音や光さえ鈍くなる。
スゥさんの『特訓』にも似た世界に、俺は引きずり込まれた。
呼吸さえもゆっくりとしかできない、けれど、不思議とこちらは苦しくはない。
まどろみと覚醒の中間のような境地、といったらいいのか。
動かせない俺の体をイズミが横たえて、やさしく布団をかける。
イズミはそのままベッドサイドに腰かけて、ぽんぽんと布団をたたいてくれた。
思い出す。俺が風邪で熱を出した時、イズミはこうして俺についててくれた。
心配で仕方ないからと、自分も学校を休んでまで。
兄貴というか、ときどき母親みたいな、世話焼きの相棒。
チビのころには一緒にいたずらしたり、やんちゃもしたものだけれど、結局はこうして、世話になっている気しかしない。
まあ、いやでは、ないけれど。
けれど気づけば、イズミの目には涙が浮かんでいた。
ぽろぽろ、ぽろぽろとおちてくるしずくに、ずきんと胸が痛んだ。
何を言っているのかは聞き取れないけれど、イズミのきもちは心で感じた。
――ごめん。
おれがちゃんとやれてたら。
――そのまえに、おれが、高天原なんかめざさなかったら。
ニノはいまもゆっくり、あのアトリエですきなクラフトを、もっと自由にできてたはずなのに。
ごめん。ごめん。
――おれが、ニノを自分の夢に引っ張り込んで。
しなくてよかったバトルだ覚醒だで、こんなムリするはめになって……
つらいよな。
なんて、謝ったらいいんだろう。
ごめん。ごめん。ごめん。
『つらくなんかない』
俺はじっとイズミを見た。
『なんだかんだ、俺はちゃんと楽しいから』
『イズミがあやまることなんて、なんもないから!』
伝えたい。それでも出ない声。もどかしい。
破りたい。今すぐ『鈍化』をすりぬけて、自分を責めるなと伝えたい!!
心から、そう思った。必死に、力を集中した。
そうだ、思い描け。起き上がる自分を。声を上げる自分を。
そして、イズミの涙を拭いてやるんだ!
気づけば俺は、イズミと固く抱き合っていた。
「おめでとう。がんばったな。
……ほんと、お前らしいよ。その、覚醒さ」
まるい眼鏡をおでこに上げたイズミが、泣き笑いで言う。
ステータス画面を確認してみて、俺は驚いた。
イズミの『鈍化』は、解除されていないのだ。
そのすぐ下に書いてある一文は――
『フリーフォックスフライング』:自分と指定した相手にかかる各種効果を、選択的に無効化する
はじめてみる説明文。振り返れば俺の腰から出た『クルペオギツネのしっぽ』は、さわやかな燐光を放っていた。
「っしゃあ卒業決定っ!
かえろうぜイズミ、魔王軍基地っ!!」
しかしイズミはかぶりをふった。
「さすがに遅すぎだろ。
今、いつだかわかるか?」
「え?」
カーテンの隙間から差し込むきらきらした光。まさか。
「えーと、おまえと特訓始めたのが土曜の昼で、てことはえーと……
ど、土曜の朝に戻ったのカナー? うわー、さすがイズミさんっ!」
「んなわけないだろ。
残念だけど、第二陣にはタイムオーバーだ。
ノゾミ先生ともそう約束しただろ。
あきらめて身辺整理してエキシビ出て、第三陣で出撃だな」
「ううう……」
うれしいやら、残念やら。
俺のきつねしっぽは、しょぼんとしぼんでしまったのであった。
このあとめっちゃ「朝帰りー!」とからかわれました。むじつです。
次回、第二陣に行くもの・行かないものたち!
今年も残すはあと一回! どうぞ、お楽しみに!
※年明け三が日の投稿は『書けたら投稿』とさせてくださいませ。
年始スペシャルを投稿するかと思われます!




