Bonus Track_73-5 ごめんねと、ありがとう~ルシードの場合~
イツカ・カナタと一定以上の関わりがあり、卒業から一年経過してない新卒。
俺たちに白羽の矢が立ったのは、そんな理由でだった。
ふいに吹き込まれた敵意。狩りたいという気持ち。
戸惑いまみれのそれへの、短絡的な出口を与えられた俺とマユリは、それでも喜ぶ気にはなれず。
先輩たちからの激励に言葉少なに頭を下げ、少ない荷物をまとめた。
作戦は単純。パワーと手数で押しつぶすというものだ。
あの二人相手では、ほかに取れる手はない。
そしてそれでも、俺たちに勝ちはなかった。
巧みに釣り込まれてからの、魅了。そして裏返された必殺の切り札により、いっそ気持ちいいほどさっぱりと壊滅したのだった。
そうして俺は、ここにいる。
青の月を抱いた月萌空軍のエンブレムのかわりに、黒い月を抱いた『魔王軍』のあかしを。
鎧と剣のかわりに、愛用の割烹着と三角巾とマスクを装備して、みんなで楽しくお料理タイムだ。
なぜか意外と言われるが、俺は家事一般が大好きだ。
平時は各種お手伝いが本業となるプリーストは、家事嫌いではやっていかれない。
プリーストとハンターのふたつの修練を積む聖騎士においても、そこのところはかわらない。
「なつかしいね、ルー。こうして一緒に、お料理するの」
「もう二年ぐらい前だっけかな、ミーと最後に当番一緒したのさ」
一緒にじゃがいもむきむき、ミズキとそんな会話をしていると、なんだか時が戻った気がした。
「そうだね。
……なんかもっと前みたいな気がするけど」
「だな。
教会ではしょっちゅうこうやって一緒に料理してたのにな……
まさか学園はいって道が分かれるとか。思ってもなかった」
ミズキは御三家の出身。俺とマユリは、それに連なる名家の出。
だから知っていた。月萌がソリステラスと戦争していること。
誰かが守らなきゃいけない、戦わなきゃいけないこと。
そのために早く、少しでも早くαにならなきゃならないこと。
俺は、それを貫いた。
ミズキは、たとえ回り道となってでも、目の前の仲間を助ける道を選んだ。
どんな強い敵も、難しいクエストも、一緒に乗り越えてきたのだ。
それが道を分かつなんて、思ってもいなかった。
「ほんとに。
ルーとマユにも、迷惑かけちゃったね」
「いや。
お前だけおいてくようなカタチになっちまったこと。
俺たちのほうこそ、……悪かった」
「俺は一度も後悔したことない。ほんとだよ。
だから、もう謝らないで。
俺もほんとなら、いまごろはふたりと月萌軍にいたはず。
むしろ、俺ができなかったことを代わりにやってくれたこと。ありがとうって言わせて」
「……ミー」
ミズキは柔らかく微笑んだ。
誰もが心癒されるような、清らかで優しい笑み。
まさしく、本物の聖者といっていいような……
「こーらー?
そろそろ時間よルー! パトロール!」
後頭部への軽い衝撃で我に返った。マユリだ。迎えに来てくれたのだ。
「ごめんねーハンパで入ったり出たりね! やらせてくれてありがとね!」
「助かってるよ。こちらこそありがとう」
かるく挨拶を交わし、俺たちはできたての厨房を出た。
マユリが歩きながら、俺に問う。
「言えた?」
「ああ」
「なんて言ってた?」
「俺は一度も後悔したことないから、もう謝らないでって」
「でしょ?
ん、でも……
あたしの分も、謝ってくれたのよね。ありがと、ルー」
「どういたしまして」
さっぱりしているけれど優しい、俺の最愛の人。
その可愛い笑顔を見ると、思わず抱き寄せたくなった。
もちろん真昼間の廊下でそれをやったらひやかされまくりである。俺はぐっとこらえて、昇降口へと足を進めるのであった。
……せ、聖騎士もハンターはいってるから(滝汗)
なぜこうなったかというと直前まで、ルシードを警備のチーフにするつもりだったのですが、よく考えたらすでに空軍で働いとる→あからさまにこれしたらあとあと立場がやばくね? というので一般警備隊に格下げ→そやったミズキとのエピソードがあったっけ、それを軽く入れて……ということになったのです。
次回こそ、警備組のハンターたちメインの話になる予定です。
どうぞ、お楽しみに!




