Bonus Track_73-3 愛しくて、にくらしくて~ルカの場合~(2)
「さ、元気出たらタカハシさんにも通話したげて。
声聞いたらほっとしてくれるよ」
あたしが落ち着くと、レモンさんは腕をとき、もうひとり心配かけてしまった人のことを思い出させてくれた。
マネージャーのタカハシさん。言わずもがな、この人には毎日めちゃくちゃお世話になっている。
テキパキしてるけど優しくて、責任感の強いタカハシさんのこと、きっとぎりぎりまでここにいてくれたのに違いない。
きっと、この先のことでも話があったのだろう。
時刻は四時半。きっとまだオフィスにいるころだ。
はたして通話をかけると、タカハシさんはあたしの回復を喜んで、優しい言葉をかけてくれた。
『ルカさん!
もう大丈夫なんですか、ルカさんいつも頑張り屋だから……
今日はゆっくり休んでください、おしごとのことは明日、お話ししましょう』
わかっていた。調整が遅れると、タカハシさんに負担がかかる。
だというのに、それを引き受けてでも、あたしに時間をくれようとしてる。
もちろんあたしの返事は一つ。
「おかげさまでもう、大丈夫です!
新しい依頼ありますよね。教えてください!」
『……そうね、早めに聞いてもらったほうがいいかしら』
そうして伝えられた内容に、あたしは驚いてしまった。
『グランドマザー』の判断により、イツカとカナタが『世界の敵』とされた。
ふたりは『大神意』の影響のない、β居住区へ。週明けには、拠点を作り独立。ライブ動画などの収入で資金を調達しての抗戦を始めるだろう。
あたしたちには、それに対抗せよと。
すなわち、その収入の一部を月萌軍に『寄付』する協賛ライブを行うようにとの『依頼』がきている、と。
ぶっちゃけた話、これは命令だ。
αは軍属。これに逆らうことはできない。
詳しくは明日、と言い交わして通話を切ったあたしは、途方に暮れてしまった。
「ルカ」
「大丈夫。
……だいじょぶ。
やるしかないわけ、……でしょ?
ベストを尽くすわよ、もちろん。
『歌姫には歌姫の戦い方がある』。そういうこと、だものね」
けれど、あたしの気持ちは迷子のまま。
翌日のレッスンではガタガタだった。
これじゃいけない。気持ちをはげまし、とにかく声を出そうと自主練を始めたあたしだが、気づけば携帯用端末を手にため息をついていた。
顔を見たい。声を聴きたい。
連絡先を開いて。コールボタンに指をかけ。
だめだ。やっぱり、敵と思えてしまう。きっと、ひどい言葉をぶつけてしまう。
あたしが好きなのは、高天原を飛び出してったあの子じゃない。
いまはあの子の影武者を務める、「もうひとり」のカナタなのだ。
別人なのだ。同じだけど違うのだ。
何度そう思っても、狩りたいという気持ちが湧きあがるのだ。
会いたいのに、会いたくない。
恋しいのに、憎らしい。
新曲は、ぱっと明るいアイドルソング。
こんな気持ちのままじゃ歌えない。
けれど、レモンさんはあたしの肩をたたいて言った。
「いい顔してるよ、ルカ。
全力で恋してる顔だ。
書いてごらんよ、そのきもちで」
「え、あたしが……?!」
「うん。
詩だけでも、曲だけでも。
ほんのひとこと、ひとフレーズでもいいんだ。
わかんないとこやうまんないとこは、あたしたちが相談乗るから」
その瞬間に、頭の中にあふれてきた。
あたしの、あたしだけの恋の歌が。
ありがとうももどかしく、あたしは携帯用端末を手に取った。
ふおおお!! ブックマークありがとうございます!!
感激のあまり↑の文だけで三回ミスタイプしました!!(アカン)
最近疲れを感じることが多い日々ですが、テンションあげていきます!
次回、とあるワーカホリック狐の充実した『ほりょ』生活(予定)!
どうぞ、お楽しみに!




