Bonus Track_73-2 愛しくて、にくらしくて~ルカの場合~(1)
あの土曜日、ふいにガツンときた頭痛。
カナタたちは失敗したのだとすぐに分かった。
『グランドマザー』との交渉の決裂。きっとただでは済まない。助けなければ。
窓から飛び立ったあたしは、まもなく見覚えあるリムジンに追いついた。
リアウィンドウ越しにふたりをみた瞬間、湧きあがったのは『狩らなきゃ』というきもち。
あたしの手は、必殺の一撃を放とうとしていた。
「るかおちついて!」
そのとききゅっと後ろから抱き留められ、すんでのところであたしは我に返ったのだった。
あたしのココロにもまた、それは吹き込まれていた。
『イツカを、カナタを敵視し、狩れ』という、グランドマザーの意思が。
そしてあたしは、それに屈した。
ふたりは、後輩であり、よきライバル。
けっして、敵意の対象なんかじゃないはずなのに、刃を向けてしまった。
あたしの『日輪』でも、ルナの神聖魔法でも、『大神意』はきえなかった。
それどころか、愛しい面影を思い出すだけでも、心がざわついた。
狩らなきゃ。狩りたい。大物の敵だ、と。
――そこからしばらくのことは覚えていない。
気が付けば、ベッドにもぐりこんで一人、落ち込んでいた。
「ねえ、ルカ?」
「るか、おきてる?」
「ホットミルクをお入れしましたわ。いかがかしら?」
ドアをノックする音に続いて聞こえてきたのは、レモンさんとルナ、そしてライムの声。
ライムはソレイユ邸で暮らしている。つまり、わざわざ来てくれたのだろう。
彼女も今、しんどいはずなのに。
そのときはっと気が付いた。しんどいといえばルナもなのだ。
なのに、あたしを心配して。
気合を入れ、あたしは起き上がった。
「今行きます!」そう返事して。
居間のソファーであたしは、二人に頭を下げた。
「ごめんなさい、ライム、ルナ。
二人だってつらいのに、あたしだけ落ち込んで、心配かけて」
「わたしはだいじょぶだよ、るか」
「実際に刃を向けてしまったとあれば、いちばんルカさんがお辛いはずですわ。
なのに、今日のステージ、きちんとこなされて。……ほんとうに、立派でしたわ」
「ありがとう。
実際のところ、なにしてたか覚えてないんだけど。
だめね、こんな気持ちの歌をみんなに聞かせちゃったなんて」
すると、レモンさんがぎゅーっと抱きしめてくれた。
「あーもう! ルカってば! なんてけなげでかわいいんだろ!
ちゃんと歌えてたよ。ぜんぜんミスもなかった。
日頃しっかり練習してるから、ちゃんとできたんだね。
……いいんだよ、それで十分だ。みんなわかってる。みんな、がんばれって言ってくれてる。
つらくてもけなげに歌う姿で、みんなにチカラを与えた。
十分、アイドルとしての役目は果たせてたよ!
もちろん、ルナもね!」
つづいてルナもひっぱりこんでふたりまとめてぎゅー。
ほんのちょっとだけ苦しいけど、でもあったかでうれしい。
最初はライムとまとめてライバル視しちゃったレモンさんだけど、いまではすっかりあたしたちの『お姉さん』。
こんなに頼れる人の下で夢を追える。あたしたちは、ほんとうにしあわせだ。そんな気持ちをかみしめたのだった。
もうちょっとだけ続くのです。
現状だと無理なくかけるのはこの量のよう……もうすこし書きたいのですけどね。
次回、もうひとつの波がきます。
アンビバレントな気持ちの中、命じられる対抗ライブ。
ルカはどんな気持ちで取り組むのか?
どうぞ、お楽しみに!




