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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_8 アイドルバトラーずの進撃! おかわり!

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8-8 怒れる剣帝

 最後の戦いは、どう見ても無理ゲーのラビットハント。

 なんと、ハヤトとの1on1。

 ハヤトの四ツ星昇格の箔をつけるためにのみ組まれた出来レース……とみられるものではあったが、イツカはそれを受けた。


 ハヤトは三ツ星ではあるが、純粋に剣だけでの勝負なら、すでに四ツ星クラス。

 その確かな防御と重い一撃を正面から破れるものは、いまの三ツ星にはいなかった。

 それはイツカも例外ではなく、実習での1on1でも全敗している。

 本番に強いイツカといえど、その実力差は覆しようがないものに思われた。


 加えて今回はその前に二戦するため、疲労も溜まっている。

 つまり、絶対に勝てない。それがブレーンたちの統一見解だった。

 よってイツカは『全力勝負を妨げる原因となったラビットハントへの批判を高めるため、むしろボロクソに負けていい』という指示を受けていた。


 もちろん真面目なハヤトには内緒のことだ。

 おれはまたしても怠惰モードとなったイツカを別の控え室に引っ張り出し、活を入れていた。


「いい、ポーション飲むのが嫌なら、せめてできる全力でバトること!

 もし手抜きなんかしたら、これ以降ミライをモフモフさせてやんないから。

 ソナタもいいこいいこさせてなんかやんないんだからね!」

「ちょ――!! ひどいそれっ!! ミライとソナタちゃんモフモフできないとか死刑宣告もいいとこだろ――!!」

「それが嫌なら死ぬ気でね?

 ま、安心して。そうなってもおれがお前をモフってあげる。

 モフるとモフられるは等価交換だからね。何にも問題はない。イツカはこれからもきっと元気に生きていけるから★」

「なんなのその謎の法則――!!

 わかったからやめて!! 俺まだ別種の生物として錬成されたくないから!!

 もうやだ、俺フィールド出る!! わあああん!!」


 イツカは逃げるように飛び出していった。

 追って廊下に出たおれは、ハヤトがすぐそこにいるのに――彼が、じっとやつの後ろ姿を見ているのに気づいた。

 ハヤトの表情は険しいもの。頭の耳さえ、明らかに不機嫌な角度になっている。


「あの……ごめんねハヤト。なにか、気を悪くした?」

「…………。」


 ハヤトは答えず、反対側の入場ゲートへと向かって行ってしまった。


「カナタ」


 背後からの声に振り返ると、アスカがまじめな顔をしていた。


「折り入ってお願いがある。

 ……来週。全力の俺たちを、ぶっ倒してほしい」




 試合開始までもう時間がなかった。とりあえずは関係者席に移動し、アスカは話し出した。


「俺たちの活動目的そのものには、ハヤトも大いに賛成なんだ。

 でも、そのためにイツカがイロモノ的な活動や、ときにラビットハントの標的までやらなきゃいけないことに対しては、不満を持ってた」


 いつもとは別人のような表情と口調。

 いくばくかの納得と、今更の疑問とを抱きつつ、目はフィールドに、耳はアスカの声に集中した。


「このところの活動でそれが限界に来てしまったらしい。

『ルカ』との決闘、それに負けた結果引っ張り出されたミニライブまではまだ、しかたないと思えた。そもそもに、イツカ自身の失言があったわけだからね。

 けれど、そのあと始まったアイドルとしての各種レッスンで、イツカの時間と体力は削られ、楽しみにしていた実習での手合わせも、不完全燃焼に終わっていた」


 実況の声とともに、イツカが、そしてハヤトが入場してきた。


「そして、今日はこれだ。

 しろくろ二人をひとりで相手取らされ、ミニスカメイド服でのオンステージほぼ確定という、企画にかこつけた胸くその悪いラビットハント。

 さらにはバディである君と、それも公開モフモフなんてものをかけてのふざけた対戦。

 それらで体力気力を削られたイツカを、自分の箔付けのためにと差し出される。

 こんな状況、愉快なわけなんかない。

 本来イツカは、――――――い。そう思っているというのに」


 スタート位置につく二人。

 すさまじい歓声で一部が聴こえなかったが、聞き直す必要はない。

 なぜなら、おれには何が言われたのかがわかってるから。


「理事会はイツカの四ツ星昇格については、全力で阻んでくるはずだ。

 つまりハヤトが四ツ星となれば、そうそうバトルもできなくなってくる。

 だからせめていまのうちに、イツカとめいっぱいバトっておきたかった。なのに、イツカのアイドルバトラー化でそれは夢に終わろうとしている。

 この試合でイツカが、ハヤトの納得するような勝利を収めてくれるのでなければ、ハヤトは行動に出るだろう」


 イツカが何か話しかけているようだが、ハヤトに応じる様子はない。

 ゴングが鳴った。地を蹴るイツカ、応じるハヤト。


「アスカは、どうするつもり?」

「この件ではハヤトだけにつく。

 作戦は変えられるけど、ハヤトのかわりはいないから」


 即答だった。力強かった。

 それはいっそ、まぶしいほどに。

 だからおれは、笑ってこう返した。


「愛されてるね、ハヤト」

「ばっ……!

 い、いいやそういう意味じゃないんだよねうんわかってるよもちろんあたりまえじゃんだからドSっていわれるんだよまったくもうっ!」


 ここまでのりりしさはどこへやら、あわあわ慌て始めるアスカ。

 その様子がかわいく思えて、おれはすぐに謝った。


「ごめんごめん。

 そうだね。ならおれもその時は、心おきなくイツカだけを支えるよ。

 もちろんハヤトが挑戦してきたら、だけどね」

「……ありがと。

 そういうわけで来週の間、もしくはプラスしてもう一週くらいは、おれは二人には助言ができなくなる。

 いっしょにメシとかも……うん、ゴメンしなくちゃならないと思う。

 ハヤトさ。あれでてけっこう繊細なんだ。ついててやりたい。そこもまとめてお願いしていいかな」

「うん、もちろん。

 この件解決したら、またみんなでお茶会しよう。

 でもってさ、また一緒に生姜焼きとクッキーとケーキ食べよう」

「うん。……ありがとう」

「こちらこそ」


 しかしいまので、アスカは肩の力が抜けたよう。

 ずっと柔らかくなった顔と口調で、おれに『お願い』をしてきた。

 もちろんOKだ。だからおれは、その後のお茶会を提案した。

 アスカもすなおな笑顔を返してくれ、おれたちの話し合いはほのぼのとまとまったのだった。


 一方でフィールドの戦況は緊迫していた。

 せめて、一本でも疲労回復のためにポーションを飲んでくれていたらよかったのだが、イツカはやはり、HP回復を超えての分は飲みたがらなかった。

 むりに飲ませてパフォーマンスが落ちる方がよくないと考え、それ以上は勧めなかったのだが……


 やはりイツカの動きには疲労が見られた。

 そして、ハヤトの動きにはいら立ちが。

 イツカは反撃の糸口をつかめないようす。

 いつもより少し雑な、それでも重いハヤトの連撃に対し、後退しつつ弾き、受け流しを繰り返す。

 足元が危うい。はらはらとみているうちに、「うわ!」イツカは足を滑らせた!

 なんとあお向けにノーガードで。

 悲鳴に近い歓声が上がる中、ハヤトは素早く踏み込み、イツカの胸に膝を入れる。

 地面にたたきつけ、抑え込み、そのまま――ザクリ。

 ハヤトの両手剣が突き刺さる。イツカの顔のわきの土に。

 痛いほどの静寂、一秒、二秒。

 誰かが何かを言い出す前に、ハヤトは立ち上がり、剣を引き抜く。

 そうして、入退場者ゲートにむけて歩き出した。


「え……ハヤト?!」

「棄権だ。

 こんなくそくだらねえバトルやってられるか!!」


 イツカが身を起こして問いかけると、ハヤトは振り返って怒鳴り声をあげた。

 そして、左腕一本でイツカに両手剣を向ける。


「ホシミ イツカ。お前に決闘を申し込む。

 もし俺に勝てなければ、アイドルバトラーをやめろ」


 言い捨て、ハヤトは出ていった。

 いつも寡黙に勝ち続けてきた『剣帝』が、初めて見せた怒り。

 そして、初めての棄権。

 場内は混乱に包まれた。

やっとここまでたどり着きました……

予想外に長くなった話にお付き合いくださり、皆様本当にありがとうございます。


こんな風に言うとまるで打ち切りみたいですが(爆)、次回新章突入です!

自称第二部ヤマともいいます。

これからもどうぞ、よろしくお願いします!

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