72-7 ゆるーくいきます! たれみみ魔王の、初出勤!
『星降園』での朝食を終えると、ミライとミズキが迎えにきた。
「おはよ、ふたりとも!」
「もう出られそう? 俺たちも何か、お手伝いする?」
おれたちとミライは、家は近いが学校の方向は別々だ。だから、平日の朝こんなふうにお迎えに来てもらうことはなかった。
なんだか新鮮。そしてうれしい。
「おーっす」
「おはよう! 大丈夫だよ、行こう!」
「いってらっしゃいふたりとも!」
「いってらっしゃい!」
「いってらっしゃーい!!」
みんなが学校に行く時間よりはちょっと早めだったから、声を合わせていってらっしゃいしてもらってしまった。ちょっと照れくさいけど、でもうれしい。
四人で、いってきまーすと手を振る。
門を出れば、近所のおじいさんが待っていて声をかけられた。
「おや、歩いていくのかい?
今日はあの長ーいかっちょええ車はこないのかのう?」
「おはようじいちゃん!
タカヤさんには、町の出口から遠めのホテルに泊まったやつらを迎えに行ってもらってるんだ」
「そうじゃったか……」
ちょっとしょぼんとしちゃうおじいさん。
そのままというのも忍びないので、おれはライカネットワークにアクセス。タカヤさんの車の現在位置と走行ルートから、おじいさんでも見に行けそうな場所を割り出した。
「あとすこししたら、星降十字路あたりを通るはすです。
今から行けば、見られると思いますよ」
「おお、ありがとうのう!」
リムジンに惚れ込んだおじいさんは、満面の笑みで、足取り軽く歩いて行った。
そのあとも、道行く人たちに時々声をかけられながら、おれたちは星降町の外に向かった。
明るく、にぎやかな道行き。
おかげで今日もおれは、ライムロスにとらわれずに済んだのだった。
星降町の入り口そばからはもう、おれたちの拠点が見えた。
少し高天原方面に進めば、そこはもうティアブラネットの敷設地域。
おれたちの頭と腰の後ろに、けもみみしっぽが姿を現した。
ミズキが小さく笑う。
「うん、やっぱりふしぎなかんじ。
ティアブラネット敷設域に入ると、とたんに音やにおいが強く感じられるようになるの」
「わかるー!
おべんとうの味も、外と中でちがく感じるの!」
「ミライもそう感じた?」
「うん! 外となかでは調味料の量変えないと、味ちがってきちゃう」
ミライとミズキ、お料理大好き男子はプロフェッショナルな会話をしている。
「え、マジ?」
「おれもそこまでは気づかなかったかも……」
「そうだ! これ、動画のネタにしよう!
せっかくお料理動画、公開するし!」
「そうだね。二人とも、そのときは試食お願いね?」
「し・しょ・く・ですってええええ!!
なになに! おいしい話ならソーヤさんもまぜて――っ!」
すると後ろから、聞き覚えのある足音と大きな声が近づいてきた。
ふりかえれば、50mくらい向こうから走ってくるのはやっぱりソーヤだ。しかし、やつのあたまにうさみみはない。つまり。
「なんでそっからそれで聞こえるんだよおおお?!」
「それはっ、グルメハンターですからっ!!
おいしい情報は聞き逃しませんっ!!」
さらには一瞬でここまで到達すると、ビシッとポーズを決めるソーヤ。
基地のほうから、その声を聞きつけた仲間たちがやってきた。
「え、なに食う話?」
「メシ?」
「お料理のことですか?」
そんなかんじでおれたちの『魔王軍』初出勤は、ゆるーくスタートしたのであった。
われらがお料理大好き軍団、またの名を総務課一同は、さっそく検証動画を発表することにしたよう。
アイドル兼任のソーヤ、ミライ、ミズキが戻り次第、メニューを決めるようだ。
それまでは、基地暮らしに必要ないろいろを取りまとめ、可能なものはそろえておいてくれる。
アイドル部門は、チーフマネージャーのトトリさん、アイラさんについて先生のもとにご挨拶に。
そして『おこんがー!』『アオゾラミッツ』の五人はさっそくレッスン開始。
おれとイツカは、総務部の担当たちと一緒に、すでに提携を決めた各種お店にあらためてご挨拶にまわる。
その間、基地に残った&先に帰ったメンバーで、警備施設の仕上げと試験運用、可能なら生活設備の整備という予定だ。
タカヤさんがレンタルしてくれたマイクロバスに乗りこんで、おれたちはふたたび星降町に出発した。
ご挨拶……は……朝の挨拶をしたということで(苦しい)
次回、新章突入。
多分掲示板回! 一歩ずつ進む『魔王軍』を見守るみなさんの予定です。
そろそろ正式名称を付けるべきである気もします?!
どうぞ、お楽しみに!




