72-6 ヒトがヒトであるゆえん(3)
第三覚醒をなしとげた前後から、不思議とネット上に流れる声援が耳に響くことがあった。
けれど、ライカネットワークに上げられた議事や予定が『勝手に』頭に入っていようとは。
ライカネットワークのセキュリティレベルは超級だ。つまり、ふつうに言えばありえない。
胸にさげたメダルを握り、急いでライカに呼びかけた。
『ライカ! いまいい?!』
『ういうい、まってたよん。
いやーぶっちゃけいうとびびったわー。
ほらーおれとカナぴょんの仲じゃん? だからオッケーしちゃってもいーなーって思ってたけどまさかこんななし崩し的になるとはねぇ。
はあこれからはカナぴょんにあんなとこもこんなとこも丸見えなんだにゃ~。はずかしいけどやさしくしてねん☆彡』
語弊があるというか語弊しかない言い草だ。はいはいそーだねーと生暖かく流して聞いてみた。
『『待ってた』っていうと、『いまより前からこうなって、ライカはそれを把握してた』ってことだよね。それっていつのこと?』
『ゆうべだよ。
カナぴょんさ、集会室で話してるときなんどか寝落ちしかけてさ。くそー会議出なくちゃなのに~って思ってたじゃん?
けっきょくイツにゃんの説得で寝たけどさ、カナぴょんの潜在意識はずっとこっち向いてた。で、ふわって手が届いて、つながったワケ。』
『そうだったんだ……』
これはほんとにありがたい。ライカネットワークで可能なら、ふつうのネットワークも見れるだろう。広くリアルタイムで状況の把握ができる。
ありていに言えば、相手は世界。わが『魔王軍』は40名に満たない超劣勢だ。つねにアンテナを張り、すばやく動かなければ――場合によっては、逃げなきゃならない状況なのだ。
なんて思っているとイツカがおれの肩に触れて、通信に参加してきた。
『えっ、マジ?
ライカんなかってさ、主要なコンバットオプションとか、あといろいろ、知識とかはいってるよな? ってことは……』
『ほほーう。イツにゃんはカナぴょんにそんなスキルをおのぞみか……』
『なんかやばいほうにもってってるっ!
ちがうからな! カナタとかにもっと護身用のスキルを。俺にも回復くらい使えたほうがいいんじゃねえかってあとカレッジの入試に必要なアレ!
俺たちぜんっぜんべんきょ出来てないから、三か月後にカレッジ入学とかほぼほぼ無理だし!!』
イツカのいうことに、おれも驚いた。
なぜって、この状況。カレッジ入学どころか、一週間後どうなってるかすらわからない。
なのに、こいつはあきらめてないのだ。その時までに、すっかりもとの日常を取り戻すことを。
『……うん、いや。
まあ、もしかしたら『超越者』でも入試は、いるかもしれないよね、うんうん。
たしかにおれの保有スキルのダウンロードも、可能っちゃ可能だよん。
ただ、マスターレベルの即時ダウンロード・即時使用が可能なのは第四覚醒を完全に終えてからだね。
今は、ダウンロードは一日ひとつ。そのあとに、慣らし運転が必要……ってとこかな。
使うかわかんないスキルの習得で、ムリしてブッたおれたら意味ないからね。まずは『魔王軍』のしくみづくりと、アイドル活動に集中したほうがいいよ』
少しの間だがライカの目は泳ぎ、口調も棒読みだった。
なるほどつまり、もうおれたちは本来入試などいらない、もしくは逆に、カレッジに通うことが不可能な域に来てしまっているのだろう。
『第四覚醒終えたら、マスターレベルでのスキル、即使えるように、なるんだよね。
どんなのでも。慣らし運転さえいらずに。
それって……もう、人間わざじゃないよね、完全に』
ぽつん、気持ちがこぼれていた。
『もちろん、いやだとか言わない。
それさえ超えていかなきゃ、グランドマザーに勝つことはできないんだ。
このセカイを、戦争のるつぼとしての運命から救い出すことも。
でもさ。そんなおれたちが。入れるのかな、カレッジに、ふつうに。
……帰れるのかな。もとのふつうの、毎日に。元の通りに、みんなの間に。
ソナタやミライが、無邪気に笑ってくれるところに……』
おれは、おれたちの女神であるセレネさんを、怖いとは思わない。
けれど、さらにその上の女神・グランドマザーには、畏怖を感じる。
それは、今敵対しているからということは、もちろん関係あるのだろうけど。
いや、こんなこと言っても仕方ない。
取り消そうと思ったその時に、ぽんと背中をたたかれた。
イツカだ。いつもの顔で、キラキラのルビーの瞳で、ニッと笑いかけてくる。
『ゆうべさ。フユキ、言ってたじゃん?
チアキたちに『二人で背負い込むな』って。
そういうときは、みんなでがんばるんだって。
だいじょぶだって、世界とグランマと戦うんだろ? 第三覚醒第四覚醒ぐらいごろごろでてくるって!
『第四覚醒、みんなでやれば怖くない』、ってな!』
『いったいなんの標語だよそれ!』
っていうか一体いつのネタだよそれ。
ツッコミを入れたら、なんだか笑えてきた。
『そうだよね。
よく考えたら、グランドマザーと対等になるのは第五覚醒から。なのにおれたち二人だけでかなうわけとか、ないよね。
っていうか、『おれたちをボスとして使って、世界のみんながレベルアップする』……今って、そういうことになってるんだったっけね。
うん、だいじょぶ。
たぶん、なんとかなる。みんなも一緒なんだからさ!』
『おう!』
『よっしゃよっしゃ。スッキリしたとこで、着替えてごはんいこうね。
あ、ゆっくりでだいじょぶだよ、みんなには二人はちょっとイチャイチャしてておくれるって言っと』
『まてええ!!』
くそう、ライカのやつめ。
とりあえずそんなこと言われちゃたまんない。おれたちは全速力で身支度を整えたであった。
ブックマークいただき、ありがとうございます!
昨日は大幅に遅れ、夕刻ちかくの投稿となってしまったのですが、怪我の功名、だったのかもしれません……?
お気に召していただけるとよいのですが。
次回、先生にご挨拶。出来上がってゆく基地。『魔王軍』、徐々に動き始めます。
どうぞ、お楽しみに!




