Bonus Track_71-6 太陽の獅子、こじらせオオカミをあやす~シグルドの場合~
この章で一番書きたかったといって過言でないシーンです( ̄▽ ̄)
客人が来たと聞いた僕は、帰ってもらってくれと言いかけた。
その名を聞くこともせずに。
だが彼は、その前にここにやってきた。
「シグルド、息災か」
「ライアンどの。
……見てのとおりですよ。
愚痴を聞かされてもよいのでしたら、お茶のおもてなしはできますが」
「おお、頼もうか」
そして僕たちは、野郎同士のティータイムとしゃれこんだ。
日の当たるベランダに、ティーテーブルを整えさせて。
風吹く草原のライオンのような、大きく優しい友は、向かいの席でゆっくりと待ってくれた。
「正直、ため息ばかりです」
ふいにぽろり、言葉は口からこぼれてきた。
左の薬指を見るたびにため息が出る。
もし今ここにあの光の輪があったなら、こんな気持ちにはなっていないのだろう。
誰より鮮烈なあのひとへの、偽らざるきもち。尽きぬ憧憬、そして敬愛。
いまはそこに、勝手に吹き込まれた敵意が加わっている。
それがもたらす思考は、けして不快なものではない。
一度は、打ち倒し屈服させることを夢見た相手だ。
それにむける邪悪な企図、もっというなら妄想は、けして清らかとはいいがたい僕の性に合っている。
だがだからこそ、腹立たしく感じる。
「その感情は僕のものじゃない。
憎むならば、つぶすならば。あくまで僕の、僕だけの意志で。それ以外なんか、許したくない。
もしあの時の。フィルの誓いの輪がここにあれば、きっと『大神意』に屈していないのに。……
まったく情けないやら、悔しいやらというわけです」
気持ちのこぼれるままに吐露すれば、赤の獅子はやわらかく目を細めた。
「眩しいな。
俺もかつては、こんなにもみずみずしい気持ちを抱いたものだろうか」
すこし、いやかなり照れ臭く思いつつ、僕は彼に問いかけた。
「ライアンどのは? イツカどのに、ときならぬ敵意を抱いてしまったりはしないのですか?」
「抱いてしまう。
イツカは敵だと。全力で狩りたいと、今この瞬間も思っている。
けれど、それが何だというのだ。
イツカは、今この瞬間も俺たちを愛してくれている。
たいせつな、わが心の息子だ。
この戦いが終わればまた、笑いあうことができる。俺はそう、確信している」
その笑みに、控えめに言って心洗われた。
「あなたが六獣騎士の筆頭である理由がよくわかります。
あなたは、太陽です。
時に苛烈に。常には優しく、皆を照らしてくれる。
ありがとうございます。あなたが今来てくれて、救われました」
「礼ならば、美しく賢い婚約者殿に言うがいい。
彼女なのだ。みずからの歌声で慰めきれぬ男のためにと、俺を招いたのは」
「サーヤが」
「ああ。
大切にしろ、なかなかいない佳い子だ」
「……ええ」
サーヤへの気持ちは、あくまで幼馴染へのもの。
けれどそれがいま、別の色彩を帯び始めるのを僕は感じていた。
「国際会議の結果は聞いているか」
「いえ、まだ」
ついさきほどまで、月萌・ソリステラスの両国の主たるものでの会議が行われていた。
そのあらましを語る号外は、執務机の上に放りっぱなしだ。
出席者であった友は、親切にもかみ砕いて留意すべきことどもを教えてくれた。
「月萌はまず、自力での対処を試みるつもりでいる。
おそらくは失敗するだろう。先遣とされたのは二人の学友たち、場所は『大神意』すら無効化される聖域だ。
しかし、それが戦いの嚆矢となる。
いずれ彼らはどの国にも属さぬ土地を得るだろう。我らが発つのは、そのあとになる」
「月萌との和平を壊さぬために……ですね」
「ああ。
何の落ち度もない、年端もゆかぬ子らを世界中が狙う。むなくその悪い構図だが、それでようやく、戦況は互角となる。
両国の『星の子』らほぼみなが、イツカとカナタにつくわけだからな」
ちょっぴりくらっとした。
一番身近な『星の子』といえば、タクマだ。
彼は策を気合とパワーでぶち破ってくる。そんなのが何人もいたら……
もう、一周回って吹き出してしまった。
「無理ゲーっていいませんかそれ」
「ああ。
おたがい牙を研いでおこう。二人に逢う前に、やられてしまわんようにな」
「……ええ」
そうだ、ふさぎ込んでいる場合じゃない。
リベンジだ。逢いに行くのだ。
この気持ちを、ぶつけるために。
そしてもう一度、あの輝く束縛を――わが魂の選んだあるじに侍ることのできる縁を、この指に与えてもらうために。
ブックマークありがとうございます!!
もうですね、うれしくって語彙さんがヒャッハーしちゃってます……!!
いや、もどってこい語彙さん。そしてしごとしれください。
次回、休暇二日目を楽しむ一行。
こどもたちの、おとなたちの結論は……まで描けるといいです!
どうぞ、お楽しみに!




