Bonus Track_71-5 『村長』は故郷を勇者の砦にしたい~ノゾミの場合~
――もしもし、おふくろ? いま、いいかな?
『えっ? ノゾミ? ノゾミなの?!
どうしたの、こんな……コールくれるなんて、まあ!
ミライなら元気よ。ミズキくんも、イツカくんもカナタくんも。
急に高天原を追われたって聞いたときは、驚いたけど……』
――そのことなんだけど。明日、町内会のみんなに話、聞いてもらえるように頼めないかな。
ほんとは俺が直接行ったほうがいいんだけど、いま子供たちをおいて動けないから、かわりにライカに俺の姿とってもらうことになるけれど。
『まさか、なにか……あるの?』
――うん。
『だいたい察したわ。わかった。みんなに声をかけておく。
さすがは、我が家のお兄ちゃんね。
イツカくんとカナタくんは、きっと守るわ』
――ありがとう。それじゃ明日。
時間決まったら、この連絡先にそのままメールでもコールでもしてくれれば、つながるから。
『了解。それじゃ、またあしたね』
イツカとカナタ、ミライとミズキが高天原を脱出した日のうちに、俺は星降町のおふくろにコールをかけた。
もちろん、本来ならできないし、してはならないことだ。
そんなことができたのは、ライカ分体間を結ぶ、独自ネットワークのおかげ。
そして俺がそれをしたのは、俺が、アリサカ家の長男だからである。
たしかに、血はつながっていない。
けれど、そのぶん心はしっかりつながった家族として、そのスピリットは受け継いでいる。
アリサカ家の人間は、家族を、友を、あきらめたりなどしない。
それがたとえ、大きな力との対決につながるとしても。
* * * * *
そして、翌日。
俺はライカに意識を乗せ、星降町へ心を飛ばした。
ライカ分体のひとりが肩に手を置いた状態で、精神統一。
ティアブラシステムのログインと同じ要領で、目を閉じ、意識をゆだねる。
『おっけ、うまくいったよ。目あけてみて』
アスカによく似た声に促されて目を開ければそこはもう、小さな縁台の上。
俺の前には、ぎっしりつめかけたご町内の皆さんがいた。
俺の隣には親父とおふくろが、まるで守るように立ってくれていた。
「戻ってきたか、ノゾミ。
それで、皆さんにお願いしたいことってのは何なんだ。
イツカとカナタを引き渡せってんなら、俺は断じてNOだからな?」
最前列にはじいちゃんが、むんっと腕を組んでジャブを放ってきた。
大事な時だけに見せる、歴戦のがんこじじいモードで。
頼もしさを感じつつも、俺は話し出す。
「もちろんそんなじゃない。
俺はむしろ、二人の味方になってほしい。
ただ、相手は国家権力になる。ここには小さな子供だって暮らしてる。それを思うと、無理強いはできない。
これから皆さんに、星降町が高天原と対峙した場合に起きるだろうことをお話します。
それを聞いたうえで、率直なきもちをお聞きしたいのです。
無理なら無理で、次の案を練りますので、どうか忌憚のないご意見をお願いします」
イツカとカナタは優しい子だ。週明けには、出ていこうとするだろう。
だが、それではだめなのだ。
根無し草として漂いながら反攻の準備をする、それが難しいことはティアブラで学んだ。現実ならばもっと厳しいことだろう――なぜって、リアルはログアウトできない。
だから、彼らのベースを整えてやらねばならない。それにはここが、二人がよく知り、二人をよく知る、こここそが最適なのだ。
もちろんそれには困難がともなう。きちんと覚悟を決めたうえでなければ瓦解する。
俺はミソラと固めたシミュレーションと、それへの対策を順を追って開陳していった。
最終結論は、明日の夜ということになった。
途中抜けるもの、帰ってくるものもあり。
気づけば、とっぷりと日が暮れていた。
遊びに連れ出されたイツカナたち。そのうらで、大人たちは考えていました。というおはなし。
ブックマーク、いただきました……うわああああ。
小心者、うれしいやら手が震えるやら。おちつこう、落ち着きましょう、もちつき大会←
ありがとうございますっ!!
次回、こどもたちの作戦会議。
イツカナがやっと出てきます!
とうぞ、お楽しみに!




