70-6 『ふつう』の、だからこそ特別な、朝
声をかければ、ソナタはぱちりと目を開けた。
「おはよ、お兄ちゃん!」
おはようを返すのは、鈴をふるような声、輝くような笑顔。
天使だ。まさしく天使だ。
やっぱりご一緒してもらってよかった。この笑顔を見るためだったら、おれはいくらだって頑張れる。
「おはようソナタ。今日もかわいいね!」
「もう、お兄ちゃんてば!」
しばし幸せにひたっていれば、後ろから無粋な声が。
「んん……カナタぁ……もう食べれねーよぉ……」
こいつ、なんつうベッタベタな寝言を。
それでもソナタは笑ってくれた。
「ふふっ。イツカおにいちゃんたらくいしんぼなんだから。
いつもこうなの、お兄ちゃん?」
「んー、いつもは……寝言言わせる前にたたき起こす、かな?」
そう答えたら、ソナタはもっと笑ってくれた。
「あははは!
はあ、こんなたのしいのはじめて。
ずーっとね、夢だったの。ふつうの子とおんなじお部屋で、お兄ちゃんとお休みいって、おはようも言うの。
だから今日は、ソナタの記念日!
ありがとうね、お兄ちゃん。ソナタを元気に、しあわせにしてくれて」
ぽんとベッドから飛び起きて。前よりもっとしっかりした腕で、ぎゅーっと抱きしめてくれて。
「イツカお兄ちゃんたちにも、後で言わなきゃね。
さてと、着替えてお手伝いしてこなきゃ。
お兄ちゃんたちはもう少しゆっくりしてていいからね!」
そうしてえへへと笑って、嵐のように部屋を飛び出していった。
ああ、なんてかわいいんだろう。そして、なんて元気になってくれたんだろう。
リアルのソナタが走ってる。その尊い足音を聞くだけで、おれはしあわせいっぱいだ。
というのにふたたび、それを邪魔する無粋な鳴き声。
「むり、もう、たべらんねーから……」
「よしよし、朝ご飯はいらないんだねイツカ?」
「ふぇっ?!」
食いしん坊は飛び起きた。
身支度を終えて食堂に下りれば、もうほとんどすることはなかった。
いま星降園の最年少はタイキくん四歳。それももう一年近くここにいるので、お手伝いもできるようになっていた。
もちろん、小さい体で流し台を使い、洗い物をするのはなかなか厳しい(踏み台必須)。そこは、おれたちの出番にさせてもらうことに。
大きな食卓を囲んで、みんなで『いただきます』。
おしょうゆとってー、ふりかけちょーだいと、わいわいしながらのほかほかごはん。
まるで時間が戻ったみたいだけれど、違うところもある。
ハートチャイルドたちだ。ソナタだけじゃなく、コユキちゃん、ヒトミちゃん、シュナちゃんもすっかり元気になって、おんなじ卓を囲んでいる。
昨日は顔を合わせるなり、三人とそのお姉さん、お兄さん(=コウジだ)に、なんどもなんどもお礼を言われた。
たぶん大人になるまで、ずっと病院暮らしだと思っていた。まさかこんな日が来るなんて。一生恩に着るからね、とまで。
それじゃあ、一生ずっと、友達でいよう。
おれたちもこれまで何度も助けてもらっているから、おあいこだよと指切りしたものだ。
片づけを終えたら、身支度をして『いってきます』。
三々五々出発し、ゆくさきは、スタディサテライト。おれたち星降園の子たちが通う学校だ。
今日は土曜日。サテライトは完全週休二日だ。なのにゆうべカナン先生から『あしたは学校だからな? 遅刻するなよ?』と申し渡されての登校である。
「あ、おはよ!」
「おはよう、ふたりとも」
不思議は続いた。途中でミライとミズキが合流してきたのだ。
「あれ、ふたりともどうしたの?」
「あのね、あのね!
きのうカナン先生からコールきたの。おれたちもいっしょにサテライトきてって!」
「イツカとカナタの学校にいけるなんて、なかなかない機会じゃん?
謹んでご招待をお受けすることにしたんだ♪」
ふたりとも、未知の体験にニコニコだ。
「いや、べつにふつうの学校だぜ?」
「人数少ないから、クラス二つだけだったけど。
幼稚園と小学校に当たる年少クラスと、それ以上の年長クラス」
「学年違うみんなが一緒なんでしょ、ぜったい楽しいよ!」
「二人が見てた景色を、俺たちも見たいんだ。
今日はよろしくね、先輩♪」
ミライがはしゃぎ、ミズキがちゃめっけたっぷりに言う。
おかげでおれはすこしだけ、忘れることができたのだった。
10年間通った道に、あの誰より清楚な姿がないさみしさを。
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全私未踏の170到達なるか?! ファイトでございますよ!!
次回、全校ホームルーム! そこでの議題は、もちろん……?
どうぞ、お楽しみに!




