1Re-1 ミライの『列聖』
ho<再編工事が終わったみたいだニャ!
作<大変おまたせしました!
このドアをあけると、いつもふわっといいにおいがしてきたものだった。
香ばしい焦がししょうゆ。フレッシュ&フルーティーなおろしショウガとすりおろしリンゴ。ほんのりまったりと甘みを添えるハチミツ。
その中核にある、はじっこしっかり・まんなかジューシーに焼けた牛肉、じゃない、サンドブル肉の香りが混然一体となった、胃袋直撃もののやつが。
室内はきれいに掃除と片づけがされていて……
ポストのなかみもきちんとわけられて、大きなテーブルに置かれてる。
そしてキッチンには、白いエプロンをかけたミライがいる。
ミライはドアが開くなり、ぱっと振り返るのだ。
チョコレート色のまめしばしっぽをパタパタさせて。
そしていっぱいの笑顔と、はずむ声で……
いつものおかえり、は聞こえてこなかった。
おれたちのアトリエにはやはり、誰もいなかった。
ティアブラの一般フィールド『ミッドガルド』にインすると、基本的に『ホーム』指定した場所に出現することになる。
おれたち三人の『ホーム』は、もちろんこのアトリエだ。
しかし今そこは、やけにガランとして見えた。
なにか、手がかりがないかと見回せば、テーブルのうえに一枚の手書きメモ。
いつもの丸っこくも読みやすい字で、すぐにミライのものとわかった。
『ふたりへ
きのうのサンドブルのお肉でしょうが焼き弁当七つつくって、五つ保存庫にいれときました。
今回もかなりおいしくできたと思うから、お腹減ったら食べてね!
二つはおれのぶんで持ってくね ミライより』
メモの日付は、おととい。時間は、ソナタが帰り、おれがログアウトしたすこしあと。
ミライはきっとあれから、ほぼずっとティアブラにいたのだ。
もしかしてまだ、見つかるかもしれない。
おれはアトリエを飛び出した。
* * * * *
イツカの100万達成の翌日。
星降スタディサテライトは臨時休校に。おれや何人かは、イツカの高天原行きの準備を手伝っていた。
それから一時間もしたころか、ふいにおれの携帯用端末に連絡があった。
小さな液晶画面に映し出されたのは、心配そうな表情をしたカコさん――ミライのお母さんだった。
「忙しいところごめんね。
ミライ、そっちに来てない?」
「え? 来てませんけど……ミライ、今日は学校ですよね?」
「それが……
今日は『免罪符』使って休むって言ってたのよ。イツカちゃんの手伝いするって言って。
でもさっき学校から、ミライが来てないって……端末も、反応がなくて……」
「探してみますっ!」
ミライの行方が知れないときけば、みんな黙っていなかった。
心当たりを探してくる、と飛び出すひともいたし、知り合いに片っ端から聞いてみる、と端末を手に取ってくれたひともいた。
そんななかおれがティアブラにインしたのは、イツカの『代理』としてのことだった。
イツカはミルドの教会を通じ、ミッドガルド教会に問い合わせをした。
ティアブラは俺たちにとってのもう一つのリアル。イツカはその一部、ミッドガルドでの特権階級『ヴァルハラの戦士(見習い)』だ。
そのイツカが問い合わせをすれば、ミライの痕跡がミッドガルドのなかにあった場合、速やかに知らせてもらえるだろう、という考えからだ。
やつはさらに、自分も探しにいく、といったのだが、いまや『時の人』であるやつ本人が動き回ると騒ぎが大きくなってしまう、と止められた。
確かにその通りなのだ。
それにイツカはリアルでも体力があるから、それを捜索に生かさない手はない。
「だけど……」というやつをなだめるために、おれは『代理として』ティアブラでの捜索を開始したのだった。
今思えばそのとき、やつには「予感」があったのだろう。
イツカには、理屈じゃなく本質を見抜くセンスがあるのだ。
おれにもミライにも、ソナタにもない、真に天才的なそれが。
* * * * *
アトリエの庭に出たおれは『超聴覚』を全開にした。
周辺にのこるミライの痕跡を『聴く』ためだ。
これをやると後でかなりの頭痛に見舞われるのだが、そんなことは言っていられない。
やはりというべきか、ふたたびミライがここにきた様子はなかった。
あれからここで、一人。
キッチンに立って、お弁当を作って。
あれ? ミライ、泣いてるの……?
そこではっと我に返った。何だろう、いまの。
いや、これはただの、おれの妄想かもしれない。
もっと、客観的な手がかりがほしい。
おれはスキルを解除すると、ミルドに向かった。
「いやあめでたい! めでたいなあ!!」
「これであとはカナタだけだ! 全力で送り出してやろうぜ!!」
しかしそこでみたのは、昨日の三倍以上のお祭り騒ぎだった。
町並みは花飾りであふれ、着飾った人々がうきうき行きかう。
楽器を演奏している人もいれば、踊っている人もいる。
酒場はとっくに大入り満員。ジョッキと料理だけをもって通りに繰り出し、乾杯を繰り返す人たちがたくさんいた。
そのなかでひときわ目立つのはあの二人――グレーの芸術爆発ヘアと、まぶしいスキンヘッドの陽気なデカオジコンビ。
素材屋のおじさんと、冒険者ギルドのおやっさんだ。
思わずそちらに足を向ければ、ふたりもおれに気づいて手を振ってくれた。
「おお、噂をすれば!」
「カナタが説得したんだろ、ミライのことを?」
「え……どういう、ことですか?」
「またまた!
ミライに『列聖』受けるよう、説得したんだろ?
それならすぐに、三人でヴァルハラいけるってさ!」
「ミライが? 『列聖』??」
おれはぽかん、としてしまった。
なぜって、それは……
そのとき、リアルからの連絡。イツカだ。
おやっさんたちに別れを告げて、物陰で通話に応じた。
珍しくも、わざわざ音声通信とされている。
おれはひとつ深呼吸してから、通話に応じた。
「はい」
『『列聖』うけたって。今日。ミルド教会で』