70-2 脱出、高天原!
様子がおかしくなったのは、セレネさんやライムだけではなかった。
『月晶宮』で行き会った人たちはみんな、えっという顔をする。
ついで、苦しそうに自分を抑えようとする。
なんだこれは、早く逃げてといいながら。
離れるのが遅ければ、攻撃が飛んでくる。
急いで近くの部屋に隠れ、おれたちはとりあえずの作戦会議をはじめた。
「狙われてんのは、俺とカナタだけみたいだ。
まず『0-GX』でタカヤさんの車までいく。
ミライとミズキも念のため一緒に出よう」
とはいえ、イツカの提案には反対すべきところもなかった。うなずきあっておれたちは車止めまで瞬間移動。
アイドリング状態で待ち受けていた、タカヤさんのリムジンにとびこんだ。
「っしゃ、出すぞ!」
「はっはいっ!!」
シートベルトをする間もなく、リムジンは飛び出した。
車窓越しにおれたちを見た人もまた、同じように戸惑い、ときに攻撃してきた。
致し方なく、シートに身を伏せ、赤色灯+サイレンコンボで突っ走ってもらう。
とりあえず、身を隠していればまず大丈夫のよう。
おれたちの姿を隠すように、後部座席のガラスにスモークを入れてもらい、ようやく人心地ついた。
タカヤさんがひとつふうっと息をつく。
「まさかの大当たりか。
ってかミライたんミズキたんはなんでヘーキなんだ?
スターシード以外の人間はイツカナちゃんを敵と思うようになるんだろ、アレ」
道行く人のステータスをこそっと確認すると、特記事項のところに『大神意:イツカ・カナタを敵として狩る』とある。
セレネさんの言っていた『ギアス』とは、これのことなのか。
「みて、おれのステータス! これ、……」
ミライが声を上げ、ステータスを開示してくれた。
特記事項のところにあったのは『銀十字の守り:愛するものと力を分け合い、守りあう』。
「ソナタちゃんのチカラだ。
ソナタちゃんが、おれのこころをまもってくれた……!!」
「そうか。だから、俺も平気なんだね。
俺のステータスにも、それがある。
ミライのバディだから、その恩恵が俺にもきてるんだ」
ミズキが開示してくれた特記事項にも、ほぼ同じ表記。
『銀十字の守り<+バディ>:『銀十字の守り』のチカラがバディよりもたらされています』。
なるほど、あの銀十字。
『戦士昇格』の儀でイツカがもらい、おれがペンダントにし、ミライがおとっときのリボンを結んだあれ。
女神の結界すら超えてチカラをおよぼす、真に聖なる品物が、またもミライを救ってくれたというわけである。
と、ここまで理解して、新しい疑問がわいてきた。
「いや、まって。
それでいうなら、ライムも、ソナタにとってはだいじな人だ。そのライムがなんで……」
ずばっとこたえたのは、ミライだった。
「たぶん、これにかかる負荷はかなり大きいんだ。
だからぎりぎりおれと、バディのミズキだけしか守れないんだ。
ソナタちゃんはライムちゃんもだいすきだもん。
いつも言ってたじゃん、『ライムちゃんがお姉ちゃんだったらいいのに』って!」
「ああ……。」
今思えばそれは、おれにはっぱをかけていたのだ――って、いやそれはいいのだ。
それほどに大好きだったライムを、守りきれなかったということは。
「高天原を出よう、おれたちも。
きっとソナタちゃんはいま、一生懸命祈ってる。
おれたちの無事を知るまで、きっとずっと!」
「そうだね。
高天原を出ればスキルは使えなくなる。
おれたちも戦えなくなるだろうけど、『ギアス』の悪影響もとりあえずなくなるから」
ミライとミズキは、一ミリも迷うことなくそう言ってくれた。
「よしゃ。
イツカにゃん、このクルマごと高天原のきわまで飛ばしてくれ。
そしたら星降町まで走るぜ!」
「っしゃあ!『0-GX』!!」
クルマごとって。
ちょっとおどろいたけれど、イツカはなんということもなくスキル発動。
車窓の外が高天原エリアのゲートそばにかわり、タカヤさんもゴキゲンに口笛を吹いた。
すでに検問は敷かれていたけれど、赤色灯+サイレン+『こちら緊急車両! 道を開けてくださ――い!』という真面目そうなアナウンス+ノーブレーキで突破。
これまでも、幾度か来た道をつっ走る。
そうしながら、ミライがソナタに通話をかけた。
「もしもし、ソナタちゃん?」
『ミライお兄ちゃん! だいじょうぶだった? けがとかは?』
飛び出してきたのは、心配そうだけど元気ないつもの声。
画面越しに見る可愛い顔も、彼女の無事を物語っていた。
ひとまずほっと胸をなでおろす。
「おれはだいじょぶ!
イツカとカナタもたすけたし、ミズキもいっしょだよ。
今はもう安全みたい。ありがとう、おれたちのためにおいのりしてくれて」
『えっ、なんでわかったの?!
うわあ、ちょっとはずかしい……』
いつも素直でまっすくなソナタ。こんなときなら『うんっ!』といいそうなものなのに、今はかわいらしく頬をおさえてはにかんでいる。もちろんミライのほっぺたも赤い。
今までの緊張が根こそぎどこか行きそうなかわいらしいふたりの様子に、おもわずほおが緩んだ。
「あのね、スキル! スキルが発動してるの!
それ、すごくつかれるでしょ? いまはもうだいじょぶだから、一度おいのりやめて、ソナタちゃん。
いまね、タカヤさんの車で、高天原から出たの。だから、もう大丈夫だから!」
『高天原から出たから、だいじょうぶって……えっ?
高天原のみんなは?! やっぱ、なんかあったの?!』
「う……えっと……」
ミライが口ごもる。伝えづらいのだ。
なぜってそれは、『ソナタの未来の姉たち』も、いまは普通でない、と伝えることなのだから。
そのとき、ナイスタイミングでタカヤさんが声をかけてくれた。
「……おう、はいはい。
今ライムたんから連絡はいったぜ。イツカナちゃんが視界から消えたらみんな元に戻ったらしい。
とりあえず今はみんなだいじょぶみたいだから、こっちはまかせれって!」
『ほんと?! よかった……
ありがと、タカヤさん。ライムおねえちゃんにもよろしくおねがいします!』
「りょうかーい☆彡」
バックミラー越しのタカヤさんはめっちゃくちゃ幸せそうな顔をしている。
助けてくれた人になんだけど、あとで『あげませんよ』とくぎを刺しておかないと。
「こっちはぜんぜん、いつも通りよ。
おにいちゃんたち、一度帰ってくれば?
それで、作戦会議しよう。
だいじょぶ、ソナタたちはいつだっておにいちゃんたちの味方だから!」
可愛くも心強い声。思わずうるっときてしまう。
そんなわけでおれたちは、星降町へ。
町の入口で待っていてくれたみんなに迎えられて、星降園に帰還したのだった。
「タカヤさんなんで平気なの?」
「あー、俺もスターシード。言ってなかったっけ?」
って会話がサラッとボツりました。南無。
この作品の序盤では超サラッと書いてましたが、ここにきてようやく、星降園の仲間たちのことがより具体的にでてくる予定です。
幼少期編、はよ書かんと……今はこれだけでギリギリですが、なんとかしたいです。
次回、現状把握と作戦会議。
どうぞ、お楽しみに!




