69-8 おまつり、おねがい、そして宣言!
『グランドマザー』とのはじめての謁見の翌日にはもう、ソリステラスから申し出が来ていた。
『プロジェクト・モンスターサーガ』に、ソリステラスも相乗りさせてほしい。
月萌に秘密主義の最後の砦でいてもらう代わり、情報公開主義のこちらは総力を挙げ、輪廻を経ることなしの成長の方法を探るから、と。
あるいは、修行のノウハウ。あるいは、磨き上げてきた技術の粋を結集して、ウォーゲームを上回る成長のみちをみつけだす、と。
もちろんよろこんで快諾だ。
そんなわけで、この『ハロウィンライブデイ&ナイト』は、月萌とソリステラス、2サイトで開催されている。
今日は両国、どこもかしこもお祭り騒ぎだ。
ここでは弾き語りが。あそこではジャグリングが。もちろんショーバトルだって行われている。
もちろん今この瞬間も、こつこつとノウハウの結集を行ってくれている人たちがいることもわかっている。
その人たちのためにもきょうのおれたちは、目いっぱいに歌うのだ。
『希望を捨てず、おのれの道を』。
それを合言葉におれたちは、歌って踊って、跳ね回った。
うれしいことに、今日はひさびさにミライも加わっての『ミライツカナタ』編成だ。
もちろん入出場ゲートで見守るミズキもひっぱってきて、ダブルバディでもう一曲。
そこにソーヤとシオン、アスカとハヤト。さらにはニノをひっぱったイズミも加わり、旧『うさぎ男同盟』勢ぞろいでわっちゃわちゃ。
しかし一通り歌い終わると、なぜかステージ上に静かなインストゥルメンタルが流れ出した。
暴れ気味の照明も、観客席の熱狂も、いったん下火に。
何が起きたんだろう。そう思った瞬間、ミライがおれたちにお願いをしてきた。
いつも通りかわいいながらも、きりっとした様子で言うには。
「ねえ、ふたりとも。
ぜひ、お願いがあるの。
謁見の日、おれたちもつれてって!
グランドマザーのお部屋には行けないかもだけど、いけるとこまででも、一緒に行きたい。
すこしでも近くで、ふたりのこと、応援したいから!」
控えめに言って、うれしかった。
というか、やばいくらいに可愛かった。
あやうく即座にうん! と言ってしまうところだった。
必死でこらえる。イツカも『うぐぐぐう!』と頑張る様子。
ふたりしてすうはあと深呼吸。そして、うん、と気合を入れた。
「ありがと、ミライ。そのきもち、とってもうれしいよ」
「たださ。ぶっちゃけ、危ないかもしれないぜ?」
イツカまでがめずらしく慎重なのには訳がある。
再びの謁見は、危険を伴うかもしれない、そう予測されているのだ。
「うん、わかってる。
でもだからこそ、おれは近くにいたいの。
ここまで、ふたりにばっか苦労させちゃったから……
危ないかもならなおのこと。せめて一番危ないときくらい、ふたりを守りたい!」
となりに控えるミズキも頭を下げてきた。
「俺からも、お願いします。
一番大事な大一番を、『ミライツカナタ』で臨んでほしい――それは、高天原のみんなの意志でもあるんだ。
ミライのことは、きっと俺が支えるから。
俺たちの想いを、ミライと一緒に連れてって」
同時に、舞台袖から。観客席から。響き始める声、声、声。
「たのむ!」
「おねがい!」
「ミライたちにはサイッコーのボムもたせっからよ!」
「ポーションも、たくさんつくります!」
「装備メンテならまかせてー!」
「えっと、えっと……おうえんしてる!!」
なんと、場内モニターの向こう、海の向こうからも応援が降り注いだ。
『お願いします!』
『なんかあったら飛んでいくから!!』
『全力で泳いでく!!』
『あの。地面のなかから、いくから……』
『うむ……海の上を走っていくぞっ!!』
最後の一押しとなったのは、やはりこのひとのことばだった。
茶色いうさ耳、素朴なひとみの、この上なく魅力的な女性――六獣騎士の真打と言われる『草原の聖母』クローリンさん。
彼女は白のドレスに花かんむりという清楚な姿で、深く頭を下げると、あのやさしい、花の香りのような声で語りだした。
『あの、……わたくしからもぜひに、おねがいいたします。
わたくしたちはすべてを聞き、そのうえで覚悟を決めました。
わたくしたちの生き方は変わりません。
愛するものと手を取って。この身に宿る、血潮と魂の呼び声のままに。
あとのことはわたくしたちがお支えします。
ですのでどうぞ、あなたがたも――
愛するものと手を取り合い、まっすぐに、かけぬけてくださいませ』
こうなったら、あとは確認しかない。
「ねえ、ミライ。ソナタたちには、相談した?」
「もちろん!
ソナタちゃんたちとミッドガルドでまちあわせて、相談したの。
ちゃんと、リアルのみんなとも話してくれて、がんばってきてって、言ってもらったって。
かくなるうえは、ぜひぜひお兄ちゃんたちをお願いしますって、言ってくれたよ!」
「よーっし! そんじゃあいくっきゃねーなっ!!」
と。イツカがひょいっと、ミライを肩車した。
そのままステージの際まで走って、ニッコニコで手を振る。
「みんな――! ありがとな――!!
そーいうわけで! 金曜、ミライをちょっと借りるから――!!
がんばるからな! よろしくな――!!」
歓声が満ちた。リアルの会場に、ネット上に。
たぶんこれも、『超越者』のチカラだろう。携帯用端末を使わなくとも、ふしぎと聴くことができた。
「ちょ、イツカー! なんでかたぐるまなのー?
もー……」
イツカは嬉しそうにくるくるぴょんぴょん。
ミライもイツカの肩の上、ああいいながらも嬉しそう。
おれとミズキはくすっと来てしまう。
「ふふっ、かなわないね、イツカには」
「ごめんねミズキ。おれたちも負けずにがんばろうね」
「ありがとう。よろしくね」
おれたちはイツカよりおとななので、おとなしく握手だ。
とおもったら、ミズキがちょっとだけはずかしそうに、そっと言ってきた。
「ねえカナタ、『うさみみロール』って、おれとかでもだいじょうぶ?
よければそのうち、おれもちょっとだけ、……いいかな?」
もちろんおれの返事は一つである。
「今でもいいよ?」
かくしてハロウィンライブ会場は、圧倒的もっふもふ――おれの『さいだいひっさつわざ』である『うさもフォレスト』で包まれることになった。
ぶっちゃけそんなもりあがりになったら、やりづらくなかろうか、と、やっちゃってから思ったのだ。
けれど、そんな心配いらなかった。
トリをつとめたのは、レモンさんのステージ。
『プロジェクト・モンスターサーガ』のためにミソラさんが書き下ろした、ロマンチックな転生物語の歌。その名も『キミト・ボクト~プロジェクト・モンスターサーガ』。
本番に強いレモンさんのパフォーマンスときたら、それまでの練習の1000倍すごくて。
おれたちもバックコーラスで参加しつつも、思わず泣きそうになったものだった。
ネットでみる反応は予想以上。『むしろ前世がモンスターだったらいい!』という声はもちろん、二次創作やらオリジナルのイラストや曲、物語がその日の晩からあふれまくり。
もういつ真実が知らされても、むしろ喜ばれるぐらいの状況に。
そのため、金曜日、おれたちがグランドマザーとの交渉を首尾よく進められたら、その朗報とともに発表しようという流れになったのである。
ブックマークが ふえているぞ! ▼
し、信じられん……ありがとうございます!
次回、新章突入。
短期間で出された結果をまとい、グランドマザーの御前へ。
そこでの宣言の結果は……?!
新章からはすこし? 環境が変わります。
ゼロブラ館が本格的に役立つ日が近づいてまいりました。
どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ!




