Bonus Track_69-2B メイキング・オブ・『にんげんになった、おおかみとうさぎのおはなし』~アスカの場合~
ハヤトはきちんと体を鍛えている。癖のない体の使い方も身に着けている。
そんなハヤトの歌がうまくないわけがないのだ。
素直な発声、確かな音程。心とおなかに響く、ほれぼれするばかりの美声。
それに比べると僕は、情けないばっかりだ。
歌えないわけじゃないんだけど、なんというか。
何度も「ちゃかさないの。まじめに!」と言われて歌い終え。
自分でもわかるレベルのさんざんぶりにしょぼーんとしてると、レモンさんがとんとん、と肩をたたく。
「あーちゃん。プロンプター使っていいから、こっちの譜面で歌ってみてくれる?」
修正済みのデータを受け取って驚いた。だいぶ高いキーだ。ぶっちゃけメゾソプラノレベルだろう。
たしかに僕は声が高いほうで、標準的な男子のキーでまともにやるとけっこう厳しいくらいなのだが……
それでも、言われるままにプロンプターにのせて歌ってみれば、めっちゃくちゃにラクだった。
「やっぱりね。
カウンターテナーの音域で修正してみたんだ。
裏声もきれいに使えてるし、あーちゃんは高いほうが向いてるよ」
「でもー……これ女子の音程じゃないっすか……?」
「そんなんただ、それが多いってだけのことだよ。
美しいものに男子とか女子とか関係ない。あーちゃんの声を一番キレイに聞かせてくれるのはこれ。だったらそれでいいじゃない?」
「そうそう、だからこれっ」
「でもメイド服はきないからねアカネちゃんっ?」
「ちぇ~」
どっからかわいてきたアカネちゃんがこりずに新たなミニスカメイド服を持ってきたけれど、それは越えちゃーいけない一線だ。
いや、多分なんの問題もなく着れるのだろう。それはライカで実証済みだ。
だけど、そのへんは僕の、こだわりである。
それでも、ふたつの音源を聞き比べ。
ハヤトの歌声に釣り合うのはどっち? と問われれば、こたえはひとつだった。
だから、腹をくくったのだ。
もう一度、おふざけもごまかしもなしに、まっすぐに歌ってみようと。
小学校のころ『女子みてー!』とからかわれた、おれのまんまの音程と声で。
歌ってみて、修正。修正してみて、また歌って。
それを繰り返して出来上がった転生物語の歌からは、いつしかレモンさんのパートがほぼ消えていた。
ハヤトと二人、手を取って。
仮装をきりかえながら、歌い終え。
最後はいつもの姿に戻り、二人で大きく大きくバンザイ。
耳が痛くなるほどの静けさをぶちやぶったのは、聞いたこともないボリュームの拍手の嵐だった。
ブックマークいただきました! ありがとうございますっ!
もうこれだけできょうも生きていけると思ううれしさです( ;∀;)ニャー
次回は視点変わって、ソリステラス側の状況をお伝えする予定です。
ソレアの覚悟と、ステラのきもちは……。
どうぞ、お楽しみに!




