68-8 戸惑いと、慈しみと、名案と
『スターシード』は『上位世界』からやってきた、いうなれば『運営側プレイヤー』であるということ。
『ハートチャイルド』は、合意の上で抑止力としての役を担ったものであること。
そして、アスカとハヤトは、もともとモブモンスターであったのが、人間として転生した存在であること。
かわるがわるにそれらを明かすと、円卓は静けさに包まれた。
最初に小さく挙手したのは、ソラだった。
「あの。もしかして、俺たちもほんとにみんな……
それ、知ることは……
いえ。なんでもないです」
戸惑いを隠せないソラは、疑問を自ら打ち消して、弱弱しく首を振った。
「じゅうぶんありうる話だよ。
おれは『月萌御三家』の血を引いてる。女神さまのおともとして作られた、神族のはしくれだ。でも、前身はモンスターだった。
調べることは、必要ならばきっと、できなくないだろうね」
アスカは言う。ハヤトのことは調べたといっていたが、それについてここでハッキリ言わないのは、ソラや彼に接するものたちの気持ちを考えてのことだろう。イツカも察したのか、それについては口を閉ざしていた。
ソラは戸惑い、おびえている。『自分が人間以外のものだったのでは』と疑って。
そう、これが、ふつうの反応なのだ。
アスカが落ち込んでいたのは、ひたすら『ハヤトが驚き、落ち込むだろう』と思ってだったが、それはむしろ、例外なのだ。
トウヤさんが言うには。
「軍や警察の人間は、これらを聞いても自らを御せるだろう。
『スターシード』の正体は、『アースガルド』の使者なのかもしれんという推測は、もとから存在していた。
自らがモンスターかもしれないというものもな」
「えっ?!」
おれとイツカは声を上げずにいられなかった。
補足してくれたのは、エルカさんだった。
「けも装備だよ。
ほとんどみなが、最終的にはひとつの装備を選ぶ。
それは、みずからのスタイルにしっくりくるから。もっというなら、それ以外ではしっくりこないからなんだ。
そうでもなければ、説明がつかないだろう?
ここに『うさぎ男』が三人もいることに」
「ああ……」
『一匹なんか剣士だぞ』エルカさんは笑いながらトウヤさんを示す。
おれとイツカは異口同音にうなっていた。ハヤトもアスカを見てうなずいている。
そう、まったく違ったのだ、うさぎ系装備と他でのポテンシャルが。
最弱のはずのうさぎ装備が、おれを最強にするという皮肉。
さらに言うなら、おれはいきなりレア引いたし、ソナタのためのお揃いをとガチャしたときも一発で出た。
ソラも言う。
「あ、その話題。地下でもよく出てました。『前世はこいつだったのかもな』って。
さいしょいちおう、いろんなモンスターやってみるんですけど、結局じぶんの装備に近い奴に落ち着くんです。操作もぜんぜんしやすいし……
地下いったことあるやつなら、結構、受け入れられるかもしれません。モンスターは朝晩操作してたし、ヘタするともう人間アバターよりずっと愛着あるんで」
にっこり笑うその顔。大人たち(セレネさん含む)がみんな神妙な顔になる。
「……ほんとうに、苦労をさせてしまったね」
「いえ。エルカさんたちはそれを止めようとした側の人です。
謝ったりしないでください」
かくいうおれもぐっときた。ミツルなんかいたら有無を言わさずむぎゅっとしてるだろう。
「みんなにもたくさん、苦労や心配をかけてしまったけど……
それがあったおかげで、今の俺があるんです。
この話を聞くことができた。
俺のだいじなひとたちが、ほんとにしあわせになるための働きを、ちゃんとできるところに今俺はいる。
そのことは、とても嬉しいですから」
「ありがとう、ソラ。
きみたちはわたしたちの、誇りだよ」
いつもニコニコのミソラ先生が、小さく目元をぬぐい、立ち上がってその手を取った。
レモンさんも隣の席から、やさしくソラの頭をなでなで。
そうしながらも、しっかりと話をもどす。
「となると問題は、学生たちと、一般市民のみんなだよね」
答えたのは、オルカさんだ。
新しい命を宿したおなかをいたわりつつ、慈しみに満ちた声で言う。
「月萌でも、βは戦わない。無理に『今、一括して』伝える必要はないと思うわ。
人生の大舞台を控えて、敏感になっている子たちが、それを聞いて調子を崩したりしたら……。
ただ、だからこそ小さい子たちには、早いうちから伝えておきたい、そう思うわ。
モンスターも、人間も。ときに敵対することはあっても、すべて愛すべき命であって。恥じることも悲しむことも、なにひとつないのだと。
ただ、そうなると。いまのティアブラは、その戦果によりα候補生を選抜するシステムは、成り立たなくなるかもしれないわね。
将来我が子や、弟妹になるかもしれない命に、剣を向けるのは、しがたいもの」
「だからこれ……セレネちゃんにも伏せられてたんだね、きっと……」
いつもイケイケノリノリのアカネさん。その頭のねこみみがいつになくしゅんとしている。
もしかしたら、将来親友の子供になる命を、ボムでぶっとばしちゃってたのかも。そう思っているだろうことは明らかだった。
それを見かねたか、アスカが言う。
「アカネちゃん。
たぶんアカネちゃん、後輩ぶっ飛ばしたりとかしてないよ。
おれたちのデータにあった『イシュトアル平原』ってさ。いまティアブラにないじゃん。あったとしても、きっとずっと古い地名だよ。
けっこうさ、リアルにティアブラネットが敷設されるまえとか、その当時にあったゲーム内の地名なんじゃないかな」
『おそらくは。
わたしの参照しうるデータの中にも、その地名は存在しない。
ごくごく私的なゲームか――もしかすると『アースガルド』の産物かもしれん』
セレネさんがうなずくと、ノゾミお兄さんが九つのしっぽを垂らす。
「なんだかますます罪悪感が募ってきたな……
いや。今は切り替えよう。
俺としては、まず高天原学園、ならびに『カレッジ』のカリキュラムにこの情報を組み込むのがいいと思う。
並行して高天原居住者にも情報提供を。
β居住区での周知は、現実としてソリステラスの対応次第だが、方法はある。
……レモン、お前だ」
一つ頭を振り、眼鏡を直したノゾミお兄さんは、レモンさんをまっすぐに見た。
次回、新章突入!
天才軍師のアイデアとは?
どうぞ、お楽しみに!!




