Bonus Track_67-2B 仲間四人のハーモニー! 覚醒『ハーモニック・ブレード』!(1)~ダイトの場合~
俺はかつて、『マーセナリーガーデン』に籍を置いていた。
といっても、末席の末席。
低ランクゆえの依頼料の安さから、タマたち――困窮したクラフターたちが、TPを出し合ってやっと依頼を出すだけの、吹けば飛ぶような存在だった。
『ガーデン』はそんな俺に何かをしてくれたかというと、とくに何もしなかった。
俺のほうも、それをアテになどしていなかった。
『ガーデン』は基本的にドライな、ビジネスライクな組織。それを分かって俺は加入し、利用料と引き換えに、そのシステムを利用していただけなのだから。
しかし俺たちが作った『騎士団』は、それとは真反対の場所となった。
すると、同じ境遇の傭兵たちが流れ込んできた。
ミズキさんと俺たちは、ときに『うさねこ』『にじいろ』の力も借りて、彼らをケアし、鍛え、一本立ちまで導いた。
彼らのうち数名はふたたび『ガーデン』で働き始めたが、籍を抜いてしまったものも少なくない。
かくいう俺も、『騎士団』を立ち上げてまもなく、脱退届を出している。
理由は、『騎士団』の活動で多忙となったため。
クールな新団長マルヤムさんは、びっくりするほど優しい笑顔を見せ……
ねぎらいとはげましとともに、俺を送り出してくれた。
そのマルヤムさんが俺を訪ねてきたのは、彼女の卒業が決まった日のこと。
彼女のもと、次期リーダーとして学んでいたサワタリさん(ぶっちゃけるならば、チナっちゃんの妹ちゃん)を連れてきて、彼女は言った。
『ガーデン』の外からでもいい、できる限りでいいので、この子を助けてやってはもらえないかと。
俺が今ここに立っているのは、ひとつにはそのため――『ガーデン』に関わりの深いものとして、華やかなバトルを見せて新世代を盛り上げてやる――であり。
いまひとつは、ようやく闘技会投入が可能となった、バトルアシストシステム『ウェアリングタリスマン(仮)』のお披露目のためだ。
今日ここで俺がすることは、この『巌の巨人』との一騎打ち。
『心あるモンスター』システムが導入されたって、どうしたってやらねばならん時というのはあるのだ。
『システムの調子が気になるだけですから!』なんて口では言いつつ、めちゃくちゃ心配そうに見守ってくれている三クラフターたちに親指を立てて見せ、俺は抜刀した。
『巌の巨人』はAランク超のモンスター。つまり、Aランクのはしくれがピンで相手取るには、あきらかに荷が勝ちすぎる相手だ。つまり、システムか俺、どっちかがベストを出せなければ、負ける。
システムは、昨日も徹夜で三人が見直していた(俺は本番あるだろと寝かしつけられた)。だから完璧のはず。
万一失敗するとしたら、ひたすら俺の責任だ――が、そんなチョンボはかませない!
気合いを入れれば、アーマーと剣にびっしり刻みこまれた紋様が、こたえるように光る。
開始のゴングが鳴るなり俺の身体は、二週間前には想像もつかなかったスピードで飛び出していた。
実のところ。
『不安はない』と言ったら、うそになる。
おとといのことだ。俺はタマとけんかしてしまった。
ミズキさんとミライさんまで、仲裁に駆り出すような勢いで。
これはもう言い訳でしかないのだが、直前のこの時期にシステムに『穴』が見つかり、チームの雰囲気がぴりぴりしていたのもある。
そんなとき、ねぎらうつもりでかけた言葉。
『なあ、ちょっと一度さ、休んだらどうだ? メシでも食ってさ』
タマの返事はこうだった。
『いいんですよ、アンタはつまんないこと考えないで。おなか減ったなら一人で行ってらっしゃい』
……まあなんのことはない、いつもどおりの言葉なのだ。
けれどタマの声には疲れからくるいら立ちが染み出しており、俺もそのときはカチンときてしまった。
結局、お互いに非があった、認め合って握手し、おれたちはもとどおり。
けれど、システムはいまいち安定しなかった。
ゆうべも、「大丈夫、なんとかしますから」と言いながら、徹夜していたのを俺は知っている。
でも、もちろん、声をかけるなんてできなくて。
気づいてくれるか分からないけど。そっとドアを開け。回復ポーションを入れた箱を、部屋に押し込んでおくくらいしかできなかった。
そしてえてして、こういう時の不安は現実となるもので。
左腕が、細かくぶるぶると振動し始めた。
ハーモニックに二つの意味があると知ったのはめっちゃ最近です。
かっちょええのです。
次回、ダイトがピンチを乗り越える!
そしてその先に、さらなる可能性も見えてきます。
どうぞ、お楽しみに!




