Bonus Track_67-2A ポーカーフェースの美少女傭兵団長は、キメたけれどキメられない!~マルヤムの場合~
2021.10.09
申し訳ありません……あとがきを修正いたしました。
また、サブタイも表記を修正いたしました。
わたしの夢は、父のようなフライト・ドクターになることだった。
けも装備もだから、鳥を。どんな場所にでも赴けるよう、プリーストとハンターを兼業。
学業はもちろん、クラフトも、積極的に学んだ。
それでも、笑うことは、へたくそで。
もっとコミュ力をつけなきゃと、傭兵団に身を投じた。
そこでわたしを待っていたのが、当時団長だったケイジとの出会いだった。
一度は追放騒ぎなどいろいろとあったりしたが、それでも彼は、わたしにとっての師であり、先達であり、ヒーローだ。
その彼よりもさきに五ツ星昇格がきまってしまったときには、正直なところ戸惑いしかなかった。
けれど、彼は言ってくれた。
それでいいんだ、どんどん進んでいけ、と。
卒業が決まったときも、彼は手放しで喜んでくれた。
おめでとう、夢にまた一歩近づけたな、と。
戸惑う私の頭を、まるで兄のように優しく撫でて、勇気づけてくれた。
『これはマルの実力だ。
だから胸を張って、どんどん進んで行っていいんだ。
なーに、俺だって頑張るんだ、すぐに立派なαとして追い付くさ。
その時までは、追っかけさせてくれよ?』
うれしかった。けれど。
そのとき、わたしは思ってしまった。
『この言葉が、もうひとつ別の意味だったらいいのに』。
だから、決めたのだ。
このエキシビションを戦い抜いたら、気持ちを伝えようって。
* * * * *
これから私とオフィリアが戦うのは、巌の巨人。
Aランク超級、卒業生でも楽には勝てないモンスターだが、さきほど元団員のダイト君が勝ちをおさめた。
新機軸の『バトルアシストシステム』に加え、覚醒を披露しての辛勝だが、彼は三ツ星生徒だ。
これは、負けられない。負けるわけにはいかない。
「大丈夫だよ、きっと勝つ。
あれから、全力で鍛えたもの」
オフィリアがアメジストの瞳を笑ませて、ぽんと背中をたたいてくれた。
ケイジ追放事件での窮地を教訓として、わたしたちはあれから、鍛えに鍛えたのだ。
『相手がイツカ君だろうが、先生だろうが、もう絶対に遅れはとらない』
『団長として情けない姿を、ぜったいに団員たちには見せない』
そう、決意を固めて。
「そうね。
……勝ちましょう。圧倒的華やかに。
今日のこの戦いを、ここまでの集大成にしましょう!」
だから、わたしもオフィリアの背中をたたき返した。
そして、歓声の中に飛び出していった。
巌の巨人はゴーレムに似ているが、こちらは土の精霊の一種。
だから魔法も使ってくれば、部分破壊に対しての再生もする。さらには、素早さも上だ。
けれど、対抗属性の魔法にはゴーレムより弱い。
「頼むよマル! 『シャインダスト・ピラー』!!」
オフィリアがホッキョクギツネのしっぽをわさりとふれば、彼女の覚醒技が発動する。
空気中の水分が瞬時に凍結。発生したダイヤモンドダストが光の柱となり、巌の巨人の目の前に吹き上がる。
舞い散る氷の柱を敵と認識し、巨人がこぶしをふるうが、吹き上げる流れにかえって腕ごと巻き込まれ、自由を奪われる。
いまだ。わたしは巨人の背に回り込み、岩と岩の間にレイピアを突き立てる!
刃にまとわせた水の魔力を爆発させれば、一気に5000近くのダメージが通った。
巌の巨人の形はがらがらと崩れ、岩塊に岩の腕が幾本も生えたかのような通称『岩タコフォーム』に変形。
超攻撃型のこの姿になると、岩の腕を駄々っ子のように振り回すため、近づくだけでも危険である。
けれど、オフィリアは臆さない。
「それが、どうしたっ!!
『シャインダスト・ピラー』!! 『ダイヤモンドブレード』!!」
『ピラー』を追加。さらには、かがやく氷片を自分の身にまとわせて無敵の装備に変え、勇ましく斬りこんでいく!
今度はわたしが援護だ。オフィリアに向けて翼を広げ、とき色を透かす風切り羽に力を込める。
「『トキハ・トキハ・エール』!!」
すい、と溶け出した優しい色が、オフィリアにしみこんでいく。
強化、HP回復、さらにはTP回復が継続的にかかり続ける、わたしの覚醒技だ。
鍛えて鍛えて分かったのだ。
わたしはやっぱり、どうやったって打たれ強くない。
どれだけがんばっても、先代のバイタリティにはかなわないのだ。
落ち込んだわたしに、オフィリアが言ってくれた。
「マルは魔力すっごいじゃん!
固い敵とやるときは、その魔力で、援護してくれればいいよ。前に立つのは、あたしにまかせて。
だいじょぶ。もう、逃げたりなんかしないから!」
その言葉でわたしは、オフィリアとバディを組むことを決めた。
そしてそのとき、はじめてわたしの目指す覚醒の形が、くっきりと見えたのだった。
とき色をかさねかさねて、中紅花に。やがては鮮やかなばら色に。
赤く赤く染まったオフィリアは、もはや目に見えぬほどの動きで薙刀をふるう。
荒れ狂う岩の鞭をズバズバと切り払い、本体への道が開いた瞬間、それを一刀両断にした。
満場の歓声の中、まっさきに駆けつけてきたのは、次期団長となったチカとその相棒のヤヨイ、そしてケイジとユキテルだった。
「団、ちょー……だんちょおおお!
おめでとうございます――!!」
クールに決めようと思って失敗したらしい、チカがぎゅうっとしがみついてくる。
かわいい後輩の顔で泣き出してしまった彼女。叱るなんてできなくて、わたしもぎゅうっと抱き返した。
「ここまでの『マーセナリーガーデン』は、クールが信条だったけど……それも変わるかもしれないな」
ケイジがちょっとウルウルしながら握手の手を差し出してきた(ユキテルはもうあきらかに涙を拭いていてヤヨイによしよしされていた)。
わたしはその手をしっかりと握り返す。
「変わっても、いいのではないですか?
『ガーデン』は皆の庭です。
そこに集う人々によって、姿を変えていくものなのですから」
「そうだな。
高天原とおんなじだ。
あとしばらく。俺たちもできる限りのことをしていくから。
……がんばれ、マル」
「はい!」
そのとき、オフィリアに脇腹つつかれて思い出した。
けれどわたしはあわあわしてしまって、結局何も言えなかったのである。
バトルアシストシステムさんがナレ死?! いいえ、次回に詳細です。
そっちから行くとぜったい『握手』が入らないと十行書いて気付きました。もっと早く気付こうよorz
というわけで次回、ダイト視点でおなじ『巌の巨人』とのバトルです。
二か月弱かかってようやく日の目を見たシステムは真価を発揮できるのか?
(追記:一か月弱でした。やはりやらかしていた……たぶん副反応ですね(強弁)orz)
どうぞ、お楽しみに!




