66-5 これはおしごと♪ インターナショナル・テストバトル!(3)
両手の双銃『サツキ』『ウヅキ』から、ショットガン・ブレットを連射した。
無数に分裂する衝撃弾が、羽の数だけ飛来する風刃とぶつかり、火花を上げる。チュンチュンと鋭い音を立て、相殺しあう。
ルリアさんからの激しい波状攻撃をしのぎつつ、おれは次の一手を模索していた。
ラッシュ開始直前に彼女が言い残したことは、かなりのヒントと思われた。
『蒼穹』。青く澄んだ空。大きく開け、清浄な空気の通う空間。
となれば。おれは『瞬即装填』で『ウヅキ』の装弾を特殊なスモーク・ボムに差し替える。
なにくわぬ顔で、風の刃に対して撃ち込むが、衝突の瞬間に刃が霧散。ルリアさん自身も、大きく羽ばたき位置を変えた。
放物線を描いて地表に落ち、ぼふぼふと煙を吐くボムたちをしり目に、ルリアさんはキュートなウインクをひとつ。
「カナタってさ、結構素直だよね。
そんなとこあたし、好きだなあ?」
「お気持ちだけ、ありがたく!」
ただしその『お気持ち』は風刃に乗っていたので、かわすか撃ち落さざるを得ないんだけど。
それに残念ながら、おれはちっとも素直じゃないのだ。
おれが放ったスモーク・ボム。そのなかみは、イツカ専用の煙薬だ。もちろん効果は回復と強化。
はるか下、目でとらえずともわかった、イツカの動きが加速するのが。
それはルリアさんも同じのようで、ゴキゲンに笑う。
「ふふっ、なるほどね。
十中八九、あたしはスモークボムであると見抜く。それを見越して、煙薬にしたんだ」
「ええ。
いちおう、バディバトルですからね。『有り』でしょう?」
「そりゃーもうっ。
たとえ離れてたって、二人は互いの存在に力を得てる。『これ』は、あたしたちがそれを学ぶためのセッティングでもあるんだからねっ!」
そう、バディバトルという形式は、高天原の外ではそこまでメジャーじゃなかった。
ソリスではタイマンバトルが主流。
将を戴いての多数戦闘にしても、実態はいくつもの1on1だ。
フォローしあうことはあっても、それは気づいたものが気づいたときにということがほとんど。
ステラでは逆に、編成がもっと自由。
これは、戦闘員のほとんどがパッケージ化されたスキルセットをインストールしていることによる。
たとえば、イザヤとユウが入れられた戦闘用AI『ソードダンサー』。これを使えば、個々の技量の差はなきに等しいものとなる。
さらにバンドルの多数制御システム『リードシステム』を用いれば、プリセットの連携に限り、目をつぶっていてもこなせるのだ。
しかし、支えあって力を磨くおれたちの姿は、この一年ですっかり全世界の注目を集めた。
『祈願者』となって一国の方向性を決め、さらには幻といわれる第三覚醒までもを可能にした、その秘密は『バディ』――ときに手を引き、ときに背を預けあう相棒としての関係性にあるのではないか。
そんな推論から、いま世界で一番ホットなのはバディバトルなのだ。
……と、ログイン前のミーティングでも聞いた。
「さあ、もっと見せて! ふたりのかっこいいところを!
あたしたちも、もっともっと強く、かっこよくなるよ!」
ルリアさんは魅力的に笑って、両腕を翼に変えた。
このお誘いに乗らなければ男が廃る。
おれは謹んで第三覚醒を発動した。
「仰せのままに、『女帝』陛下。
――『卯王の幻想園』。形成、<シルウェストレ>!」
風雲の幻想植物でできたツリーアーマーが、シオンとミライが作ってくれたカットインエフェクトとともに、おれの体を編み込んでいく。
今回大きさはひかえめに、3mレベルにしておく。
透き通る青緑の外装をもつそれはしかし、ふいの衝撃でバラバラになりかけた。
「うわっ?!」
ブン、と羽音のような振動が耳を襲った。思わずうさみみの感度を下げた。
発生源は、下。イツカと丁々発止しているはずの、こちらまでちょっかいをかける余裕はないはずの、ステファンさんだった。
みれば彼女は確かに、イツカと攻防を繰り広げていた。
しかし、だ。
彼女が一歩踏み込むたびに、彼女の杖が地をつくたびに、衝撃がはじける。耳を、体を叩きつけてくる。
打突で発生させた衝撃を増幅しているのか、それとも彼女の足踏みと突きにそれだけのパワーがこもっているのか。
いずれにしても、これは、きつい。
イツカはまだ大丈夫そうだけど、やつほど頑丈でないおれには正直厳しい。
ルリアさんはというと、いつのまにかぱちぱちはじける紫電のフィールドを身の回りに展開していた。
「それは……」
「うふふ~。『耐衝撃』♪
できるでしょ、カナタなら?」
「……できそうですけどおれがするべきはそっちじゃなさそうですね?」
そう、ステファンさんがつぎつぎ生み出す衝撃は、干渉しあい増幅しあって、いまや明らかに地を揺らしている。
こうなると、イツカもやりづらそうだ。くっと顔をしかめて、耐えながら戦っている。
おれの視線を感じると、イツカは声を上げてきた。
「カナタ――! これなんとかできねえ?! びりびりするー!!」
「まってて、これは……」
考えようとするとそこへ、ルリアさんがつっこんでくる。
間一髪、身をかわした。
けれど、それはつまり、距離が詰まってしまったということだ。
おれは基本的にガンナーだ。近接戦闘はルリアさんのほうが確実に強い。距離を取るため、急いではばたく。
うち続く衝撃で調子の上がらない中、回転と落下、急上昇を繰り返すが、彼女はぴったりついてくる。
風の刃による刺突が、断続的に放たれる。かわし切れなかったそれが、幾度も痛撃をよこしてくる。
いっそ、彼女を倒してイツカに加勢するか? いや、そんな簡単な相手でもないだろう。ここは――
「イツカ! いまからそのへん! べれべれにするから!
なんとかそれで!!」
「オッケ!」
いや、べれべれってなんだよ。心の中でツッコミの声が聞こえるが、イツカは察してくれた。
速度を落とさず『瞬即装填』。ルリアさんを振り返り、繰り出すのはもちろん!
「いきます!『ダブルムーンボウ・サンクション』ッ!!」
フレア、アイス、ブリッツ、クレイ、グラビティ、エアロ。
小指でフルオートスイッチをカチリ。両手の双銃から、各種メガボム二発ずつを斉射――ただし、さっと射線から外れた彼女にではなく、地上に向けて。
その間1.5秒。弾倉が空になったならすかさず『瞬即装填』。『斥力のオーブ』を上向きに二発。
体を締めて、重力加速度以上の速さで地表へ突進しつつ、『卯王の幻想園』再発動。<シルウェストレ>を形成した。
対抗するかのように襲い掛かってくる衝撃。いくつものボムが、上で下で次々爆発していく。<シルウェストレ>もダメージを受けてバラけそうになる。負けるもんか。気合でしっかり編みなおす――いや、ほかの部分はもういい。地面をたたく足だけに集中だ。
ルリアさんは彼女なりに狙いを悟ったよう。おれのことはまずおいて、まだ無事なボムを風の刃で爆散させ、晴れやかに宣言した。
「残念だったねカナタ!
ボムは全滅だ。作戦は――」
「問題ないですよ?」
だってこれは全部。
「……おとり、というわけね」
「はい」
ステファンさんが、愉快そうに笑った。
とりどりの爆発のなかを縫い、地に突き刺さるように強引に、しかししっかりと着地したおれは、つぶしようのない距離から今度こそ、おとっときのメガボムたちをフィールドに叩き込んでいったのだ。
あっという間に、あっちはメガフレアで溶けて、こっちはメガアイスで凍結。そっちはメガブリッツでたたき割られと、地表の状態はめちゃくちゃに。
もちろん、そこを伝う衝撃もかきみだされ、これまでの破壊力をほぼ失った。
これでよし。イツカも十二分に戦える。
ルリアさんは「そのはっそうはなかった――!!」とテンションアップ。ステファンさんも、花開くように微笑んだ。
「華やかな必殺技を、移動のため『だけ』に使うなんて。
ほんとうに、出し惜しみをしない戦いぶり。ほれぼれとしてしまうわ。
それじゃ、イツカの技も見せてもらいましょう――『0-GX』を。
『森の守護者』の鉄壁で、お相手させていただける?」
ステファンさんの衝撃波と、おれのボムで荒れ地となったフィールドが、みるみる芽を吹く。木を生やす。そうして豊かな森になる。
地を這う根、生い茂る無数の枝葉。それらすべてが、ステファンさんによりそい、時に絡みつき、一体となる。あたりの空気さえ、うすい緑に染まる。
森の神気だ。可視レベルの濃密さであふれかえる。
もちろん醸成された防御力場は、薄っぺらい膜なんかじゃなかった。
『分厚い』を超えた、もはや塊といっていい守りの場が、森の女神と化したステファンさんと一体になり、君臨していた。
「……すごい」
ぶっちゃけた話。この出力は完全に、おれの技を超えている。
おれの『卯王の薬園』の上位互換、と言って過言じゃないだろう。
それでもイツカはひるまない。それどころか、わくわくと勇み立つ。
「もちろん、やるぜっ!」
「うーん。ここは見よっか、カナタ?
あたしとの決着はそのあと……ね?」
ルリアさんはおれのとなりに、すたんと着地した。
おちゃめな女帝のお誘いに、おれももちろん、謹んで乗ったのだった。
相変わらず量が安定しません^_^;
次回、くぐつのイツカナ視点。
遅れてアスカとハヤトもやってきます。
どうぞ、お楽しみに!




