8-4 完コピ宣言はライブのあとに!
ソウヤ、ミズキ、シオンの三人は、練習通りバックコーラスで合わせている。
だが、おれには『聴こえる』。彼らは若干、動揺している。
イツカの声も、おれじゃなければわからない程度にだが揺らいでいた。
なるほど。おれは関係者席を抜け出した。
一番らしき部分が終わり、二番への間奏が始まるところで、白黒メインに赤のアクセントを利かせた衣装の『しろくろウィングス』が舞い降りてきた。
ルカがイツカにヘッドロックをかけて『あんたはあたしたちに合わせて!』とささやくのが聴こえた。
よしよし、ここはまず、先輩アイドルバトラーの二人に任せよう。あとはそのあとだ。
『しろくろウィングス』のふたりによる堂に入ったステージアクションは、心にたぎるものを忘れ去ってしまいそうな魅力にあふれていた。
これだけでも、ソナタにみせてあげたいものだ。強くそう思った。
しかし、イツカ。おまえはだめだ。
ノリノリのアンコールが終わるのを待ち、おれはやつに近づいた。
「おー、カナター! どーした?」
やつめはやりきった笑顔で声をかけてくる。
おれはステージに跳びあがり、ノー天気猫にガシッとヘッドロックをかけた。
そして、ルナがにこにこ差し出してくれたマイクにむけて、笑顔で宣言した。
「来週! 『夏色アドベンチャー』!!
イツカが完コピ披露します!! どうか、よろしくお付き合いください!!」
さらなる歓声が上がる中、イツカだけはええええええと絶叫していた。
「なんでどーして?! おれいちおーちゃんとできたよね?!」
「『いちおう』ね?
でもねイツカ。おまえはソナタの兄貴分なんだよ。
将来レモン・ソレイユみたいになりたいと願う、かわいいおれの妹の。
それが、あの程度のステージパフォーマンスで。許されると思ってる?」
「だ、め……?」
「さあわかったら練習練習。もし来週失敗したら、以降末っ子に格下げだからね。いいね?」
「ええええええ!!」
おれはルカ、ルナにごめんねと謝ると、イツカをひきずってステージを降りた。
大丈夫。二人も、それに三人のうさぎたちもがんばれーと言ってくれている。
「いやだあぁぁぁ!! お前がやればいいじゃんかー!! お前完コピできんだからさー!!」
「おれはソナタの兄だからできてあたりまえなの。問題はお前!
出だしをミスんるならまだしも、一番丸々別の歌詞とかもはや天才だろお前!!」
「えっとそれはそのー……新曲!! 新曲だから!!」
「『えっとそれはその』がついた時点でダウト!!
新曲なら新曲でがっちり仕上げるからねっ。まあ素人の一週間程度じゃたかが知れているけど、それでいけるマックスまでいくから。
徹夜でポーション100本飲まされたくなかったら、本気出すこと。わかったね?!」
「わあああん!!」
往生際の悪いイツカは、入退場者ゲートに入るまでわめきつづけていた。
さすがにこのせまい空間で大声出されると響いてたまらないので、ミュートのポーションのビンを口に突っ込んでおく。
これならアイテムも減らないし効果も得られる、一挙両得である。
「お、おい……」
「あ、ごめんねハヤトうるさくして。もう大丈夫だから。
試合、がんばってね♪」
「お、おう……」
出番まちをしていたハヤトが呆然とこっちを見ていたので、頑張ってねとあいさつしておく。
ちなみにアスカのやつは指さして笑っていたので、とりあえず巻き込んでおいた。
「あのさアスカ、イリュージョン関係お願いしていい? めっちゃ雰囲気あるやつ!」
「アイサー!
あーそれとそれと。練習は録画しといてー。てきとーに編集してネットに流せば盛り上がること間違いなしだし! こまかいとこは軍師殿ズとうちあわせっけど!」
「ナイスアイデア! 了解っ!」
「言っとくが俺は参加しないからなっ!」
身の危険を感じたか、ハヤトはそれだけ言ってゲートに向かっていった。
ちなみに出場直前にこんな騒ぎに見舞われても、ハヤトの試合ぶりは堂々たるものだった。
『剣狼』の二つ名を、『剣帝』と呼ぶものすらあらわれはじめた。
彼の四ツ星への昇格が本格的に取り沙汰され始めたことは、言うまでもない。
* * * * *
「そうだな。やるといったからには全力でいけ」
「ノゾミ兄ちゃんまで――!!
なに、俺一体なんにされちゃうのー?!」
学長室のソファーの上、ノゾミ先生は深々とうなずいておれの計画にGOを出してくれた。
涙目になるイツカに、ミソラ先生もにこにこと答える。
「アイドルバトラーだよ?
大丈夫、学園公認アイドルバトラーは、レッスンのため授業休んでも公欠扱いだから♪」
「ミソラちゃんまで……俺の教育を受ける権利は……?」
確かに、学長という立場の人がそれいうのもどうかと思うが、それ以前に。
「『免罪符』で宿題ブッチしまくってたお前がそんなこという?」
「それとこれは別だからっ!!」
「安心しろ、その分の宿題はしっかり出す」
「それも嫌――!!」
ノゾミ先生の善意のフォローにもやつはダダをこねる。
先生は理解しがたいといった様子で問いかける。
「イツカお前、学生生活に一体何を求めてるんだ??」
「そりゃー、適度にいい加減に授業受けて、たまに居眠りして、んでもって好きな時にサボって狩りに行くという健全な青春だろ?」
それを聞くと、先生はびみょーな顔になる。
ミソラ先生はニコニコだが。
「イツカ……」
「成長したねー。うんうん!」
「あー……。いやまあ、一概に否定はできないが……
現にお前はあれから無事、ここまで来れているわけだし……。」
「だろだろー?
クッソまじめにやってぶちきれてΩ(オメガ)堕ちとかばからしいじゃん? テキトーが一番だって、テキトーが!」
そう、あれは、小学二年の夏のこと。
おれはその時のことを、思い出していた。
こともあろうにΩ堕ちを志してしまったイツカに、やむなくおれが地獄を見せたときのことを。
次回、次々回は幼少期編(回想)なので、迷いましたがボーナストラックにいたしました。
やっとVRMMORPGが来た気がします(何)
イツカがポーション爆飲みを拒否った理由が明かされるようです。お楽しみに!
『勝手にランキング』さんでOut11ポイント頂いておりました。連日、新たに見に来てくれる方がいらっしゃる、ということでしょうか……?! 夢のようです。ありがとうございます!




