65-7 希望の曙光! ソリステラス最後の一週間~そしてしょーもない理由<SIDE:ST>
それから五日間。おれたちは、それまでにも増して忙しく動き回った。
あちこちの学校や保育所・託児所、病院などをできる限りで訪ね、ミニコンサートを行った。
これの一番のネックは移動だったのだが、それを完全解決したのがおれの第三覚醒『卯王の幻想園』だ。
雲と風の幻想植物で『魔導アーマー』をつくれば、飛べない人も載せて遠くまで、飛ぶことができる。
より多くの人たちに手を振ることができて、より速く、より安全に移動できるようになったのだ。
とても小さな施設でして、お迎えできるほどの場所をとれないのです、と残念そうにお断りしてきたところへも、上空をくるくると旋回することでお見舞いができた。
窓から手を振ってくれた子供たちの顔は輝くようで、頑張ってよかったと心から思ったものだ。
その合間を縫うように、礼服兼ステージ衣装の調整に通い、ボイスとダンスのレッスンの追い込みを行った。
これにはユエシェ商会が『このたびのおわびに』と無償で全面協力をしてくれた。
驚いたのは、ボイストレーニングの講師と助手。なんと、メイさんとサクヤさんだったのだ。
「わたくしたちにできるお礼とお詫びといえば、これしかありませんでしたから。
ご安心くださいませ、反和平派は開店休業ですわ――」
「――『だいたい一万年くらい』!」
おれたちの声が重なった。
それは、ソレア様の国内向け談話にちなんだものだ。
『ボクは戦争には賛成だよ。宣戦はする。
そうだね、だいたい一万年くらい後、かな?
今はまだ、ステラが病み上がりだからさ。
……ただし、いま戦わないとは言ってない。
ボクたちと、ゲームをしよう。といってもガチでだよ。全力と、全力でだ。
イツカとカナタはそれでこんなに強くなれたんだからさ、やらない手はないってもんだ。
もちろん、参加は希望者だけでいいからね。一番大事なのは、日々の生活なんだからね!』
そしてソレア様は、内容はこうご期待、といたずらっぽくウインクをとばしたのだった。
おれたちが月萌に帰ってすぐ、新コンテンツの企画が始まる。
もちろんベースはティアブラ。すでに稼働している大規模戦闘、戦争コンテンツの拡張という形をとる。
まずは両国のα同士で国際テストバトル。
それがうまくいくようなら、規模を広げていく。
ゆくゆくは、世界中の人がミッドガルドに集って、ときに楽しく遊び、ときにはガチで切磋琢磨する。
そうして、悲惨な戦争ではなく、楽しむことのできる『戦争ごっこ』で、より効率的に、ひとの、魂の成長を促す。
ミッション『エインヘリアル』をそうした形に変えたい。
おれたちが『グランドマザー』に謁見するときには、人間の代表として、三女神とともにそれを上奏するのだ。
幸いその計画は、ソリス領でもステラ領でも、事情を明かせるレベルのとはなるが、月萌でも賛同を得られている。
『グランドマザー』の計画により大きく変質したこの世界に、しあわせな転換点が訪れようとしていた。
土曜日の式典が終わるとき。ラストライブを終えたおれたちは、ステージ上からそのまま月萌に戻ることになっている。
金曜日、最後の追い込みをして。学園定例闘技会を見て盛り上がって。
そうして、しばしの別れを惜しみあった。
『超越者』となったおれたちは、もういつでもここに『戻って』これる。
けれど、一度は帰らなければ。そして、やることをやってこなければ。
だから、どうしてもしばしの別れをしなければならなかったのであり。
「みんなはいつでも『エルメスの家』の兄弟だからね!」
「ソナタちゃんたち、星降園のみんなもよ!」
「そのうちみんなに会わせてね。約束だから!」
『シエル・ヴィーヴル』『チームBs』をはじめとしたみんなには泣かれてしまったし。
「兄弟といえば、カナタ殿はもう私の兄上なのですから、遠慮なく遊びに来てくれてかまいませんからね?」
なんだか妙にハイテンションのシグルド氏には、謎すぎるアプローチをされたりした。
「いや全っ然意味わからないんですが」
「私はレムの兄。そしてカナタ殿はレムの『兄貴』。ということは合法的にカナタ殿は我が『兄』となる。
『シエル・ヴィーヴル』の方々がソナタ殿を『妹』というのと同じ理屈、なにもおかしいところはない」
「えええ……」
助けを求めてあたりを見回しても、うんうん納得している奴らと、ぽかんとしているレムくんしかいない。しかたなくおれは自ら突っ込んだ。
「だいたいなんで兄なんです。おれのがあなたより年下ですよね?」
「わが最愛の弟の座はレムだけのものですから。
……それにですよ、考えてみてください。
血のつながらぬ愛らしい年下の兄にいろいろ容赦なく言われる。最高じゃないですか!」
「ダウトッ!!!」
晴れ晴れと陳述された『理由』は、これまでにこいつが口にした中で、一番しょーもないものだった。
このときおれは確信した。
こいつはレインさんの同類だ。
絶対に、二人を会わせちゃいけないと。
まとめると:混ぜるな危険。
次回、月萌サイド。ソリステラス訪問を前にしたハルキくん視点。
エルメス皇女とふたり、新機軸のモンスターバックダンスに盛り上がったりします。
どうぞ、お楽しみに!




