Bonus Track_65-6 やってみる! はじめての大胆振り付けチャレンジ!~『ゴーちゃん』の場合~<SIDE:月萌>
すみません、いろいろバタついて遅れました……
口から心臓出そうなドキドキのなか、待つこと6分42秒。
ミーティングルームのドアが開いた。意識が飛びかけた。
そこには、天使が微笑んでいた。
* * * * *
LUNAが。俺の恩人にして、俺のアイドルであるところのひとが、やってくる。
それを思うと、ゆうべはぜんぜん眠れなかった。
おかげで俺はいつにもましてボケボケで、スーツのズボンを後ろ前に、上着のほうを上下逆に着てしまったし、なんならパンツも裏表だった。
そんなこんなでやっとたどり着いたミーティングルームで待っていれば、時間通りに彼女らはやってきた。
マネージャーのタカハシさんも綺麗な女性なら、ふたごのお姉さんのLUKAもさっぱりきりっとして素敵だ。
けれど、ああ。
LUNAはまさしく、天使だった。
バトルやステージではふわふわと背中に流している髪を、やわらかくみつあみにしているのもかわいければ、あいさつの声もかわいらしい。
舞い上がった俺は、自己紹介のため立ち上がろうとして……ガタン。
気づけば、いすごと後ろにひっくり返っていた。
やってしまった。あきれられた。もうだめだ。
さよなら、短かった俺の恋。
そう思った、そのときだった。
「だいじょうぶですか、『ゴーちゃん』さん?
うん、こぶ、できてないけどいちおう――『回復』!
あとでちゃんと、お医者さんに診てもらってくださいね?」
LUNAは――いや、LUNAさんは。
どうやってかするり、俺のそばにやってきて、『回復』をかけてくれた。
向けてくれたのは、ばかにしたとこなんかいっこもない、どこまでも優しいまっすぐな笑顔。
そっと触れてくれた手は、涙がでるほど温かかった。
その瞬間、決意したのだ。
俺はこのさきも、このひとについていこう。
たとえ、この想いが実ることなんかないとしても、と。
そこからはびっくりするほど順調だった。
みんなでいっしょに、まず動画をみて全体のイメージを確認。
アイドルのバックダンスなんてどれだけ難しいことか、と覚悟していた俺だったけれど、実際に見てみるとそんなとんでもない難易度ではないような感じがした。
振付師さんが、どんくさい俺でもついてけるようにしてくれたのだろう。ありがたいことだ。
そんなわけで、ためしに少し動いて、可能ならあわせてみましょうかということで、バーチャルスタジオにログイン。
最初はプロンプターを使って、とにもかくにも踊ってみる。
一通り無難におわると、LUNAさんがすごいことを言い出した。
「せっかく『ゴーちゃん』が大きいから、それを生かせたら面白くならないかな?
たとえばこう、肩から手のひらに、そこから逆の肩に移動してみるとか!」
「えっ……」
思ってもみなかったような、大胆なふりつけだ。
はじめてあわせる俺で、できるのだろうか。
もし、万が一、落下などさせてしまったら……きっともう俺は生きていかれない。
ぷるぷるしてしまった俺を見かねて、LUKAさんが助け舟を出してくれた。
「ルナ。それ合わせるゴーちゃんさんが大変でしょ。
今回が初共演なんだし、次回からにしよう」
「わたしたちのほうがゴーちゃんさんにあわせればいいよ。
ためしに一度だけ! ね!」
押し切られる形でやってみたその振りは、なんと一度でスルリと成功してしまった。
LUNAさんはまるで当然のように、『俺』の左の肩から手のひらへ。そこから右の肩へと、まるで小鳥がちょんちょん飛ぶように軽やかに跳躍して見せたのだ。
背中の翼をうまく使ってのこと、そうわかっていても、まるで魔法のよう。
「ね! かんたんでしょ?
ゴーちゃんさんは、踊るのうまいもの! ほんとだよ!」
そして当の本人は、天真爛漫な笑顔でそう断言してくれた。
こんなにもかわいい女の子に、こんなにも無邪気に期待されたことって、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
気づけば俺の口からは『やります、やってみたいです!』という言葉が飛び出していたのだった。
なんとブックマークいただきました! ありがとうございます\(^o^)/!!
次回、ソリステラスサイド。
ソリステラス最後の一週間を忙しく過ごすイツカナたち。
どうぞ、お楽しみに!




