65-5 動き出す、ステラ!<SIDE:ST>
「おい! おいっ!
……今日はこの現場にイツにゃん様がいらっしゃると聞いたんだがっ!!」
「しいっ、静かにしろおめえら!
いいか、そーっと、そーっと拝見するんだ。いいな?!」
「お、おう!」
「よし! あっちだ!」
「…………!!」
「いらした!」
「尊い!」
「なああああ?!」
「て、手を……手を振ってくださったあああ!!」
「イツにゃんさまああ!!」
「イツにゃんさまああ!!」
「かっこいい!」
「抱いて!」
「結婚して!!」
街角に野太い声がこだました。
うん、これは、割って入れないよね。
おれはお弁当の包みを手に回れ右した。
いかに志が根底にあったとしても、やったことはやったこと。
暴動で街を壊してしまった人々、それをあおった反和平派の重鎮たちは、それなりの責任を問われた。
そして、あるいは町の片づけや再建工事といった労働で、あるいはそれにかかわる事務作業で。またはいくばくかのお金で、それを償っていた。
でもってその現場にはもちろん、イツカがまじっていた。
『みんな頑張ってんのに、俺たちだけノホホンとしてんのもなんか違うだろ?
体力トレーニングにもなるしさ、一緒にやらせてくれよ!』
……とのたまわって。
『おれたちがソリステラスを訪れ、そしてステラさまを回復させた。
このことが、今回のことをたくらませた』
それは因果関係としては正しいが、おれたちに責任はない。
暴動バッチコイのデモを企画したのは反和平派で、それを封殺できなかったのはステラ領内の政治の責任だ。
それでもイツカには、そんなもん関係なかった。
『第三覚醒』を果たし『超越者』となったから――
いや、もともとフリーダム野郎だからだ。
おかげでイツカはますますアイドル。平凡なおれにはとっても真似できそうもない。
というわけで、凡人はしばし離れたところで時を待とう。
「『0-GX』!
カナタ、なんでかえっちゃうの?? お弁当くれねーの??」
そう思っていたら、きゅっと袖を引かれた。
ふりかえれば、ルビーのおめめをうるうるさせた子猫、じゃなかった、イツカがいた。
そこは『0-G』でいいだろ。見事なまでの覚醒の無駄遣いである。
「いやおまえ、みんなにずいぶん人気みたいだし。おじゃましたら悪いかなーって。」
思わず棒読みでそう答えれば、人の姿をしたデカ子猫はぶんぶんと首を左右した。
「じゃまじゃないじゃまじゃない!!
俺朝からずーっとまってたんだから、カナタのおべんとう!」
「朝からって朝は朝ごはん食べたよね?」
「あさごはんのあとからずっとっ!!」
「ちょ……それ朝ごはんの立場ないだろ、もう……」
この食いしん坊め。と思いつつ、そんなに言われちゃ憎めない。
思わずよしよしとねこみみ頭を撫でたら、あたりからさっき以上の歓声が上がった。
しまった、ついいつものノリで。
はずかしくなったおれは、お世話をかけてしまった現場監督さんにありがとうとごめんなさいを早口で告げて、速足で歩きだした。
「はいはい。それじゃあ移動して食べようねっ。
これから一度シャワー浴びて新衣装の採寸、そのあとごはんと一休み、そのあとはレッスンなんだからねっ」
「みんなとたべちゃダメ~?」
「きょうはダメ。だからおれがおべんともってきたんでしょ?」
「にゃ~」
「甘えてもダーメ!」
こいつ、いったいどっからそんな技を覚えてきた。おかげで背後の歓声がすさまじい。こいつのことだから邪気はないんだろうけれど。
まあそれはわきに置き、おれはおとっときのエサをもういっこぶら下げる。
「ほら、ぐずぐすしてると定例闘技会間に合わないよ?
『モンスターダンサーズ』、見たいでしょ?」
「へ~~い」
そう、女神さまたちもがんばってるのだ。おれたちもやるべきことを進めなければ。
おれは右手にイツカ、左手におべんとうの包みをつかみ、基地へと向けて大きく跳ねた。
* * * * *
あのあとはすごかった。
ステラ様はもう、飛び跳ねるレベルに元気に。
『いまから! らいとなうから! おしごとするわっ!』なんていいだしたものだから、逆に心配になってしまったほどだ。
いくら三女神はスパコン『マザー』のうつしみだって、ひととしてのありようを持っている以上、秒で元気になるなんてことはありえない。
……と思ったが、セレネさんとソレア様によれば『有り』だそうで。
さらに驚いたことには、それを受けた『虚無』までバリバリ動き出したのだ。
『ステラがいうなら合点承知っ!
さあシャキシャキ働くわよ! これまでの分、ソレアにちょっとはラクさせなくっちゃね!
そういうわけでソレアは式典終わったら北の山の温泉でもいってダラダラする! 宿の予約はとっておくから!』
「えっあっはいっ」
「いや、キャラ変わりすぎじゃね……?」
いつもイケイケのソレア様がおされてる。イツカも若干気おされてる様子でぼそり。
もっともクールなセレネさんは特に驚いた様子も見せず。
『おお、それがよかろう。
では私は一度月萌に戻る。エルメスが心配だからな。
頼んだぞ、我らの新たなる友よ。
ステラ、無理はするなよ。では』
スパッと帰っていったところで、『虚無』の矛先がおれたちに向いた。
『あっそう忘れないうち!
イツカ、カナタ、ナツキ、バニー。
あなたたちにもお世話かけたわね。お詫びとお礼に、わたしの分体を連れて行って。
この先必ずやチカラになるはずよ。強いし。』
そうしてはいっと渡されたのは、子猫ナツキよりちょっと大きいくらいの、白くてモフモフとした毛玉のようなうさちゃん。
「ありがとうもちろんいただきますっ!!!」
水晶色の、つぶらな瞳がきゅるんとおれを見た瞬間に、おれは即答していたのだった。
名は体を表さないようです(爆)
日向は暑がりなので日影が好きです(大爆発)
次回、ひさびさ月萌サイド。『ゴーちゃん』視点です。
どうぞ、お楽しみに!




