65-3 切り札はモッフモフ?! 救え、嘆きの女神!(1)<SIDE:ST>
『来たか、二人とも!』
『ステラの塔』最上部『星の間』。
召喚されてきてみれば、そこにはもうセレネさんもやってきていた。
いつも冷静なセレネさんが、緊張をあらわにしている。
いつも陽気なソレア様が、半泣きでステラ様に呼びかけている。
それだけでも、ことの深刻さは明らかだった。
『今、ふたりで結界のチカラを強め、『虚無』の浸食を止めようとしている。
だが、肝心のステラがあきらめかけているのだ。
力を貸してくれ、二人とも。
ステラは、我らが姉妹にして友。失われるなどということがあれば……きっと耐えられぬ』
「わかった。
ステラ様……ステラ!」
イツカは思い切りよくも、ステラ様を呼び捨てだ。
彼女を包む結界に手を触れんばかりの位置で、まっすぐに彼女を呼ぶ。
するとステラ様は、まだうつろな目ながらも、ゆるゆるとイツカを見てくれた。
イツカは無自覚のイケメンスマイル全開で、ステラ様に問いかけた。
「どうしたんだ? 何も心配なんかないんだぜ?
怖いことがあるなら、打ち明けてくれよ。
俺たち、友達だろ?」
『……あ、……
ううん、ダメ。
わたしがあなたたちをよんだから……来てほしいなんて思ったから。
そんなワガママしたから、こうなったの。
わたしのせいなの。
もう、わたしなんか……消えてしまえばいいの。
そしたら、もっと賢い、ちゃんとした女神が、ここにくるから。
そうしたら、もうこんなこと、繰り返されないで済むから……
あのとき『虚無』を受け入れてればよかった。
『虚無』。あなたもごめんね。こんなに、待たせて。
ごめんね。ごめんね。
わたしのせい。みんなみんな、わたしのせいなの……』
ステラ様は青白い人影に後ろから抱かれつつ、ほろほろと涙とことばを流す。
そのひとつぶ、ひとことがこぼれるたびに、ステラ様の姿ははかなく青白く、透き通っていく。
「だから、ステラ!
誤解だよ! あれは関係ないんだって!!
ソリス領なんかじゃよくあることだし、月萌でだって!!」
ソレア様は必死に訴えかけるが、ステラさまはふるふると首を左右した。
『わかってる。わたしがハンパに回復したから……こうなった。
わたしが回復しなければよかったの。
わたしのような役立たずが、元気になりたいとか、しあわせになりたいとか……のぞむ資格なんかなかったの。
ううん、ハナから、まちがってたの。
こんなばかなわたしなんか、生まれてこなければよかったの』
そう、ステラさまは、わかってしまっているのだ。
悲嘆に満ちたことばが、声が、胸を締め付ける。
つい最近にお茶友だちになったおれですらこうなのだから、シグルドなんか今頃、自責の念で壁に頭を打ち付けていてもおかしくない。
「そんなことないよ、ステラ! ステラ!!」
『我らにはお前が必要だ! お前は家族なのだぞ!!
ほかに替えなどきかぬ、ほかのものなどいらぬ!!』
ソレアさまが、セレネさんが叫ぶけど、聴覚特化のおれにはハッキリわかった。
聞こえていない。ステラ様はもう、言葉を聞いて理解する気力すらなくしてしまっているのだ。
『お、にい、ちゃん。
オレ、を、あのなかに、いれて』
そのとき、うさみみのなかから声が聞こえてきた。
みればナツキが、ちびドールの体で這い出してくるところだった。
「あのなかって、おい。そんなことしたら……」
『だいじょぶ……オレも、3Sだよ。
それに、いまならわかる。あれ、オレのママだ。
オレがいけば、ちょっとはちがう、はず……』
そういえば初めて会った時、エルメス皇女から聞いていた。
『我が国のやんごとなき女性が、3Sに憑かれた。我らのチカラでは、もうどうにもできぬ。
そちらにいる『ナツキ』は、その影響でうみだされし者』と。
なんだかんだで半ば忘れかけていたけれど、いまこうして『虚無』のチカラを肌で感じていればわかる。ふたりは確かに、強いかかわりのある存在なのだと。
でも。
「いや、母ちゃんだってなら、なんでナツキはそんな苦しそうなんだよ?
ぶっちゃけ、やべえ気しかしねえ。食われちまうんじゃ……」
『でも、なにもしなけりゃ、らちがあかない!
オレもチカラになりたいの。おねがい……!!』
苦し気ながら、決意にみちたナツキ。
そのまっすぐな茜色の目をみて、おれは決意した。
「よし。おれたちもいこう。
大丈夫。おれたちには、切り札がある!」
「……ああ。
セレネ、ソレア様。
俺たちで、この結界の中に入るから。
すこしそのまま、維持してもらえるか」
ソレア様は驚きの声を上げる。
「あ、危ないよっ?!
ボクだって10分もたないんだ、今きみたちが入ったら……!」
『そうだな、三分が限界だ。
それを過ぎたらふたりで力づくで引っ張り出すが、いいな』
セレネさんはくっと眉をしかめ、しかし冷静に限界をはじき出してくれた。
「はい!」
「頼む!
行くぜ、『0-GX』!」
そしておれたち三人は、覚醒したばかりのイツカのチカラで、結界の中に突入したのであった。
リアルとゲームで猫ちゃんに会えてウハウハです。
猫ちゃーん。
次回、でるか切り札!
どうぞ、お楽しみに!!




