Bonus Track_65-4 やらかし策士は人に恵まれ~シグルドの場合~<SIDE:ST>
ステラ様はまだ、外の様子をご覧になれるほど回復はしておられない。
そのはずだったのに。
頭の中が真っ白になった。
我が策は、失敗したのだ。
完全に。それも、最悪の形で。
『来て、はやく!
たすけて、ステラが消えちゃう……!』
陽気な女神の悲痛なSOSに、場内モニターに映った半泣きの顔に、自己嫌悪が沸き上がる。
そしてその後ろ、青白い影に抱かれ、うつろな目で立ち尽くすあのお方の姿は。
なんてことだ、なんてことだ。これだけは見たくなかった!
再び膝から崩れそうになる。
それを支えたのは、すべすべとあたたかな、ふわふわの感触。
柔らかな白のなかにかすかなブルーを透かした、このうえなく美しいもふもふは、あの大きな大きな垂れ耳だと知るのに時間はかからなかった。
「……カナタ、どの」
「やりましょう。
今が踏ん張りどころですよ、『お兄さん』!」
そうして向けてくれた笑顔に、ことばに、細かいことは吹っ飛んだ。
そうだ、落ち込んでいてどうする。
やらなければ。僕は僕で、いまここで、できる限りのことを!!
サーヤも同じ気持ちのようだ。目が合うと、うん、とうなずいてくる。
「みなさん、ここはお願いします。
無茶ぶりとは思いますが、なんとか一時でもデモをとめて、ステラ様を安心させてあげてください。おれたちもできることをしてきます!」
言いながら、ナツキのためのちびドールをとりだし、そちらに移ってもらう。
うんうんとうめくドールをうさみみで優しくくるむと、イツカの手を取った。
「いくよイツカ。
ソレア様、召喚してください!」
『うん!』
そしてカナタさんたちは、転移していった。
「まずは外の様子を知らねばな。
――ルリア、こちらライアン。外はどうなっている?」
ライアンが携帯用端末を取り出し呼びかければ、緊迫した声が返ってきた。
『ぶっちゃけちょっとヤバいかも!
さっきのバトル中継で気持ちが折れた人もいるけど、ブチ切れた人もいる。
ヘタに説得するとそっちに向かってくと思うけど、どうするライアン?』
「私がやります!」
もちろん即座に申し出た。
「この事件の首魁であり、それを頓挫させた張本人でもある私に、矛先が向くのはむしろ当然のことです。
彼らには全力で詫びて、そして、止めさせてもらいます!!」
「よく言った!」
ばしんと背中が叩かれた。
振り向けば、意外なふたつの笑顔が待っていた。
「ライアン殿、ベニー……」
「助太刀するぞ、我が友。
ともに、この暴動を止める。
ソレア様もそれを望んでおられる」
力強い、明るい笑顔は、これまで向けてくれたのと同じもの。
信じられない心持ちで、私は彼らに問いかけていた。
「……いいんですか、私はあなたがたを」
「お前の策に乗っかった時点で、オレも同罪だ。地獄の果てまで付き合うぜ!」
「俺の度量が足りなかっただけのことよ。
お前がつまらん策など弄せずに済むほど、俺が強ければなかったことだ」
サムズアップのベニー、イケオジ全開のライアン。思わず口にしていた。
「ベニーはありがとう、ですけれど……ライアン殿。
もしかして口説いてます、私のこと?」
「おうよ。再び胸襟を開き、語り合えるようになろうとな!」
からからと笑う彼は、なんともまぶしかった。
私は彼に対し、胸襟を開いて話していただろうか。思い返せば、そんなこともないでもなかった。
まったく、かなわない。
「そういうわけだ、ルリア。
引き続き頼む」
『りょかー! ベルちゃんたちにも連絡しとくねー!』
通信が切れれば、パレーナ八世とエルマーがまず歩き出した。
「では、俺たちも街に出る。
お前たちは傷を癒してから出てくるがいい、まだすっかりと治ってはいないはずだ」
「かたじけない」
「ありがとう、二人とも。
よしゃ、それじゃヒーラー呼ぶか」
ベニーが配下のヒーラーたちを呼んでくれた。
「シグルド様、お耳は出して行かれますわね?
それでは、わたくしも」
そしてサーヤは、つややかなミッドナイトブルーの翼を背に出して、私によりそってくれた。
そのときぽろり、口からこぼれていた。
「……やはり、よくないものですね。誰かを切り捨てる、というのは」
「あら、シグルド様。宗旨替えでいらっしゃいますか?
でしたらわたくしも、ワンチャン差し上げようかしら? なんて……」
どうやってか場内スピーカーから流れてきたのは、笑いを含んだ流麗な声。
そして、彼女がつま弾く琴の音。
「ただ説得の言葉だけ流すよりは、BGMがあったほうが通りがいいわ。
そこは任せて頂戴」
「メイ!」
「おわびとお礼はあとで、たっぷりしていただきますわ。
今はとにかく、ステラさまを助けましょう。
わたしたちはわたしたちで、できるかぎりのことを!」
「ええ。
……よろしくお願いします!」
そう、まずはステラ様を。
そうしたら皆に、詫びと感謝を伝えよう。
このひねくれた心根は、それでも直らないだろうけれど、せめて。
カナタと結んだ小指を見つめ、僕はそう決意を固めた。
「……まったく、かないませんね」
ともあれ、すぐに動かねばならない。
暴動を鎮め、ステラ様を安心させ。できるならば元気づけるために、どうしたら一番いいのか。
僕たちに降ってきた答えは、まったくシンプルなものだった。
急に暑いです……かんべんして~orz
次回、イツカとカナタは女神ステラを癒せるか?
ふたりの切り札は……圧倒的モッフモフ?!
どうぞ、お楽しみに!




