表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_65 ソリステラス連合国の、長い長い一日(後)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

732/1358

Bonus Track_65-3 『|卯王の幻想園《ラビットファンタジア》』! カナタのピンチと第三覚醒!~イツカの場合~<SIDE:ST>

 轟音にかき消されていたはずなのに、ハッキリときこえた。

 内気なエルマーが、がんばれと声を振り絞ってくれていたのが。


 視界に入っていなくても、もちろん見えていた。

 カナタが、パレーナさんが、俺を信じて見守ってくれていたのが。


 声に出すことはできなくても、ちゃんと届いてた。

 ライアンさんとベニーが、俺のために祈ってくれていたのが。


 遠く離れているはずなのに、しっかりと感じていた。

 この様子を画面越しに見ている月萌の仲間たちや、仲良くなったソリステラスのひとたちが、声援を送ってくれていたのが。


 俺の中で、ナツキが頑張ってくれているのと同じくらい、確かにわかったのだ。

 ……あいつの、ちいさな優しさも。 




 女神のもとに手が届くといわれる『第三覚醒』。

 できてしまえば、拍子抜けするほどに簡単だった。

 ただ――『ここを出て、カナタを助けてやるんだ』。そのきもちで心がいっぱいになったとき、俺は水の牢獄を、そして観客席とフィールドを隔てていたバリアをも、一緒に突き抜けていた。


 それができたのはもちろん、俺だけの力じゃない。

 頭を冷やさせ、アドバイスをくれたパレーナさん。

 それをカタチにしてくれたカナタ。

 そして、頑張れと応援してくれたみんなの力があってのことだ。

 だから俺は、一番に叫んだ。

 めいっぱいに、こぶしを突き上げて。


「ありがとな、みんな――!

 できたぞ、第三覚醒――!!」


 それから、奴に問いかける。


「シグルド。

 お前は、俺の友達をひどい目に遭わせた。

 俺にはお前を斬る資格がある。異論はないな?」

「ええ、それはもちろん。

 ただ、今はまだカナタ殿との勝負の最中です。

 それをさしおき私を斬ってよいかは、カナタ殿にお聞き願えればと」


 奴はいまだ余裕で笑う。わかっているのだ、カナタが誇り高いやつであると。

 はたしてカナタはこういった。


「うん、たしかにこの決着はまだついてない。

 おれは受けたんだ。これは、おれたちの勝負だ。

 おれがやる。やらなきゃならない。

 じゃなくちゃおれは、お前の陰でこそこそ守られてるだけの、いくじなしのダメうさぎだ。

 ……まあおれ、かよわい後衛なんだけどさ?」


 しっかりバニーの『虚栄』の力で、所在をぼかしてる。

 そうしてすこし、おどけてみせる。

 悔しさはあっても頭は冷えているようだ。だったら大丈夫。おれはいったん下がることにした。


「よっしゃ。じゃあみんなで場外出るな。

 かまわねえだろ?」

「ええ。さすがにこれ以上の追い打ちは、心が痛みますのでね」


 シグルドはうそぶく。嘘ではないと感じた。

 こいつはいろいろアレなやつだが、そこまでの冷血漢じゃないらしい。

 俺はありがたく、パレーナさんとエルマー、ライアンさんとベニーをフィールドから連れ出した。

 ライアンさんとベニーの傷はもう、パレーナさんとエルマーの回復魔法でふさがれていたけれど、だまし討ちによるダメージは深い。

 それでも二人はここで見届けるつもり満々だ。

 パレーナさんも急いで引きあげさせる様子ではないし、俺もまずはいっしょに、カナタの勝利を見届けることにする。

 フィールドの真ん中にはもう、白の狩衣ふうをまとい、身の丈を超えるデカ耳をふわふわとただよわす、うさぎ天人フォームのカナタが姿を現していた。



「待ちわびましたよ、カナタ殿。

 ……美しい。

 うさぎの王子ではなく、うさぎの天人ですね、その姿になると」

「ええ。

『ダンボの陰陽師』ではありませんよ、ぜったいに」

「わかっておりますとも。

 ……それでこそ、やりがいも出るというものです!」


 そして二人は、再び最強技をぶつけあう。


「『卯王の薬園(ラビットキングダム)』!」

「『雪崩狼の騎行(アバランシュヴォルシ)』!」


 こんどはカナタは地下に逃げない。自分の腕からからめるように伸ばした緑のツタをふるい、迫りくる雪狼を防ぎとめては攻撃をかける。

 対するシグルドも、雪でできた狼を操り、攻めてくるツタを食い止めては、隙間を縫って反攻を。

 白の狼と緑のツタが、フィールドのあちこちで互いに絡んでは地に落ちる。


「どうしましたカナタ・ホシゾラ。まったくうまくいっていませんね?

 あなたはさきほどからそのツタで、上位錬成魔術の陣を描こうとしている。

 わかりますよ。そのあたりはステラの民の十八番ですからね」


 大口たたくだけはある。シグルドは小型の雪狼たちでカナタに猛攻と妨害をかけつつも、自分の両脇に身の丈を超える雪狼を二体作り上げていた。

 そうして不敵に誘いをかける。


「かまいませんよ、テラフレアボムを放っても!

 その程度でしたら余裕で、止められますからね!」


 対して、カナタも余裕の笑みを見せた。


「そうですか。でしたらせっかくですし、<カワセミ>を使わせてもらいましょうか。

 これを作ってくれたレンにも、いいお土産になりますからね?」

「なるほど、実戦でデータを取ろうと。

 研究熱心ですね。そこは素直に、敬意を表しますよ」

「それは、クラフターですから。

 それじゃ、始めます。よーくご覧になってくださいね?」


 テラフレアボムは、人の背丈位もある大型爆弾だ。簡単に持ち上げられるシロモノじゃない。

 だから、発射には工夫がいる。

 グリードのように、出納能力を使うか、それともマジックポーチをうまく利用するか。

 カナタの選んだやりかたは、どっちとも違った。

 そう、カナタならではの――思い描いた陣を自在に描ける『プラチナムーン』ならではの、とんでもなくイカしたやりかただった。


 カナタの頭上、宙を舞う雪煙にはすでに、白く輝く複雑な魔法陣が描かれていた。

 やつは右手で『ウヅキ』左手で『サツキ』の双銃を抜き、次々と陣に放った。


 決められた位置、決められた順番に、順々に打ち込まれるオレンジのオーブ。

 錬成陣に力を与え、活性化するためのエナジーオーブだ。

 割れたオーブからあふれ出すパワーが、空中に光るラインをオレンジに染める。

 全部のラインが染まりきったとき、陣がまばゆく輝いた。


 そうして召喚されたのは、あの頼れる青の巨体たち。

 その威容は、オレンジの光を下から受けて、ライトアップされたかのように浮かび上がる。


 これはヤバい。ぶっちゃけ男子ならガン見不可避だ。

 六獣騎士三人はもちろん、シグルドの奴まで目をキラキラさせている。


「いいですか、行きますよ!

『レッツ・パーリィ』ッ!!」


 カナタはニッコリ笑うと、さらっと発射のキーワードを唱えた。

 火を噴いて飛び出すふたつのロケットは、大きく左右に飛び分かれ、クロスするようにシグルドに迫る!

 対処したのは、巨大な雪狼たち。まっすぐ飛び出して行って、ばくり。

 右と左、それぞれ一本ずつの『カワセミ』を飲み込んだ。

 巨大雪狼はご機嫌に着地し、シグルドの脇に控えた。

 そして爆発は、起こらなかった。


「あはは!

 さく裂する前に始末してしまえば、テラフレアボムなんてただの金属と火薬の塊です!

 なかなかないデータでしたでしょう? ははは! これで満足しましたか?」

 

 シグルドは気持ちよさそうに笑った。

 ふたたび、雪崩狼をけしかける。

 無数の冷たい狼たちは、フィールドをぐるぐると走り回った。

 凍てつく足が地に触れるたび、地面が凍り付かされていく。

 そうして一通り駆け回ると雪狼たちは、カナタに向けて四方から突撃した。

 フィールドの真ん中、カナタはツタをぐるぐるに巻いた繭のなかにこもって身を守っているが、白く煙った波状攻撃をうけ、みるみるうちに雪の小山にうずもれてしまう。


「そんな、カナタ!」


 エルマーの目には涙。ライアンさんは口元を覆い、ベニーも愕然と立ち尽くす。

 パレーナさんの手の中で、握りしめられたひじ掛けがぎりっと鳴った。


「さて、どうしますカナタ・ホシゾラ?

 こうなってしまってはもうお手上げでしょう。

 いま、そこの温度はほぼ絶対零度。この環境で生育できる植物など、存在しない。できてもせいぜい、冬眠状態で命をつなぐことがやっと。

 ……まだ意識はあるようですね。

 でも、眠いでしょう? いいんですよ、堕ちてしまいなさい。

 そうすれば、この勝負たたかいは終わります」


 シグルドは勝ちを確信したようす。

 でも俺には、わかってた。

 はたして氷の中から帰ってきたのは、楽しそうなカナタの声。


「『絶対零度で生育できる植物など、存在しない』?

 ほんとうに、そうだと思いますか?

 あるじゃないですか、ほら、ここに」


 そうして、ぐらり。地面が揺らぐ。

 まるで命でも得たかのように。

 

「この結晶は、氷の花。霜柱はそびえる茎で、蓮葉氷はすはごおりは広がる葉っぱ。

 いいじゃないですか。そんな、おとぎの植物が芽吹いても。

 なぜってここは、ふしぎの国。

 優しい女神がしろしめし、魔法やスキル、幻獣や精霊の息づく世界です」


 プラチナムーンの光の下、そいつがゆっくりとたちあがった。

 キラキラ輝く零下のラインに、凍てついた雪と氷、すべてをわが身としてまとう、白の巨樹が。

 その大きさ、実にフィールドの半分以上。

 幹の太さは、ミッドガルドの俺たちのアトリエが余裕ですっぽり入るくらいだし、高さときたら、ざっと見ビルの三、四階くらいもあるだろうか。

 全体に無数の氷の花を開かせ、はかない花びらをはらはらと散らすさまは、まさしく幻想世界の植物だ。


 その正体は、かすかにアイスグリーンを透かす、巨大な魔道アーマー。

 頭にあたるところにひときわ大きな、きらめくハネにも見える氷の花びらがひらくと、そこは開放式のコックピット。

 きらきらと君臨するのは、うさぎの国の聖王だ。

 やわらかな白にアイスブルーを染めた、豪奢で清楚な聖衣をまとい、柔らかなほほえみを浮かべた姿は、我が相棒ながら、魂を吸われ、浄化されるかのようだ。

 シグルドもぼうぜんとした顔で、棒立ちになっている。


「……いつの、まに……」

「おれはまず、幻術に紛れてフィールドの地下に潜り、クレイの中に根を張りめぐらせました。

 さっきの雪狼との攻防では、地表に匍匐茎ランナーを這わせた。

 そしてあなたが<カワセミ>に対処している間に、それらをすべて、氷雪系の幻想植物に変換。

 そのあとの大盛りサービスこみで、こいつを形成しました」

「つまり、地中に逃れたと見せかけたのも……わざと妨害される形で上位錬成陣を描こうとしたのも……さらにはあれだけ華やかに召喚して放った<カワセミ>も、必死の防戦と見せかけた立てこもりも!!

 なにもかも、布石、だったと……」

「ええ。

 まあ、最後のあれはちょっぴり予想より多めだったので、ぼってり系のフォルムになってしまいましたけど、ちゃんと動いて戦えますよ。

 いかがです?」


 シグルドが、崩れるように膝をついた。

 一歩、二歩、よろよろと歩んで、涙を浮かべて。


「……なんという策士だ。

 私のしたことをすべて逆手に取り、貪欲に食らい、己が力と変えるとは……

 そしてそのやりかた。すでに第三覚醒を、成し遂げられていたのですね。

 そうとなれば、すでにわれらのレベルを完全に超えている。私のもつ、どの技を持ってしても、貴方様にはかなわない。

 ――降伏いたします、我が主。

 すでに定めし通りに、わが身のすべて、御心のままに」


 そうして恭しく、首を垂れた。


カナタも第三覚醒です!

やっとここまで来ました……

でもまだ一波乱あるのです!


次回、ステラ様視点。

どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ