8-2 演目:旅の聖者とふしぎなふたり(中)
毎度の修正すみません……
もはやアドリブを通り越してもはや→もはやアドリブを通り越して
思わぬヒーローの登場に、白クロークは声を弾ませた。
「は、はい! どうかお願いします!」
「よっしゃー。
じゃ、おれが合図したら天井に向けて、目いっぱいジャンプしてくれな。
3、2、1で10mくらい跳んでくれ。できるか?」
「はい、もちろん!」
うん、ふつうはそんなことできない。
さりげなく正体をにおわせるためのセリフ回しだろうけど……
それでもなんだかほっこりしてしまうのは、台本を書いた人物の人柄だろうか。
「よっしゃ! じゃあ、もうちょっとだけ粘ってくれ!
俺はラプトル! お前はゴーレム担当な!」
「はい! では、神聖強化! ご武運を!」
「さんきゅー! うらうらトカゲっちー、お前の相手はこっちだぞー?
ほーれ、おしりペンペーン!」
黒クロークはラプトル相手に『挑発』。ふさふさとした灰白わたしっぽをふりふりさせつつおしりペンペンという、なんともベタなしぐさでスキル発動し、走り出した。
効果は抜群。のこった二体のラプトルは、にくったらしくもおいしそうなわたしっぽを追っかけ始めた。
黒いクロークを着た人物は、まったく戦う様子もなく駆け回る。腰には剣を佩いているようだが、抜く気配もない。
ただ、時おり地面になにかを叩きこんでは、自ら踏みつけ深く埋め込む謎の行動が見られるが。
そのほかは、走り走って、時に跳躍。俊足のラプトル相手に、わざと隙を見せてはひきつけ、ときに余裕でおどけてみせながら、ほとんど危なげなく逃げ回る。
一方で白クロークはというと、勇ましくゴーレムに立ち向かう。
自らにも神聖強化をかけ、二体を相手に斬りつけ、かわし、ときには華麗な身ごなしで同士討ちさえ誘って戦う。
それでも、湿気ったウッドゴーレム二体を、炎の剣一本で倒すことは困難だ。少しずつ、彼の息が上がっていくのがわかる。
まだか、まだか。はらはらと待つこと一分、二分。ようやく黒クロークの声が上がった。
「っしゃー! いけるかー!!」
「はい!!」
「んっじゃあ――、3、2、1、ジャンプ――!!」
白クローク、黒クロークが同時に地を蹴る。
高く高く跳びあがり、さらに空中で「『超跳躍』!」声を合わせてもうひと蹴り。
そこで黒クロークはいま一度『ファイアブリッツ』を放つ。
地面に向けて放たれた三つの炎の矢は、地表につくや左右に延焼した。
炎のラインは瞬く間に連鎖し、フィールドに炎の錬成陣を描き上げる。
「いっけやあああ!! ファイヤー!!」
掛け声とともにもう一度、三発同時に『ファイアブリッツ』。
燃える炎で描かれた錬成陣は、力をのせたダーツでパワーを流し込まれて起動。
もちろん、雑に描かれ、爆発的なパワーを注ぎ込まれたそれは暴発。
ほんの数秒間だが、フィールドを爆炎の海と変えた。
地上から吹き上がる熱風が、二人のクロークを飛ばし去る。
やがて炎が消え去り、二人がひらりと着地を決めたときには、そのクロークはもちろん、シャドウラプトル、ウッドゴーレムとも消滅。
ただふわふわと、いくつかのドロップアイテムが浮遊しているだけだった。
「……ちょっちやりすぎちまったかな?」
「ダンジョンだったら崩落してるよ!」
どうっ、と会場が鳴動した。
意外にして圧倒的なパフォーマンスへの賛辞。
二人のヒーローの脱力系な掛け合いへの笑い。
そして、ヴェールを脱いだ彼らの、魅力あふれる姿がさそう歓声で。
白いクロークをまとっていたのは、白く壮麗な神官衣のクリームロップイヤー少年、ミズキ。
黒のクロークを脱いだのは、黒と金の軽武装でちょいワルにキメた、灰色ライオンラビットのソウヤ。
いまやひそかなアイドルとして人気を集め始めていた三人組のうち、二人がキメて出てきたのだ。これが盛り上がらないわけがない。
二人はしばし、ギャラリーに手を振り応える。
すごい落ち着きっぷり。まるでほんとにアイドルみたいだ。
おれはちょっとズレた感動とともに、その姿に声援を送ったのだった。
「ありがとうございます、助かりました。
僕は旅の聖者、ミズキと申します。
この地に現れるという、大いなる悪を倒すため旅をしております。
あなたさまは?」
「俺サマは旅の謎のイケメン! ソーヤさまよ!!
さまづけは照れくさいんでソーヤさんでいいぜ!!」
やがて歓声が収まると、寸劇の続きが始まった。
バチコーン! とウインクを飛ばしつつ、サムズアップで臆面もなく言い放つソウヤに笑いが起きる。
「では、ソーヤさん。
……ところで、こちらのお方は? お連れ様でいらっしゃいますか?」
ミズキが示したのは、緑のぶかぶかクロークをまとった小柄な黒ウサギ少年。
いつの間に現れたのか、二人の間で座り込み、きょとんとしている。
その正体は、いうまでもなくシオンだ。
たしか台本では、初めて見る人物だ、記憶もないようだし保護しようという筋書きになるはずだが、そこでハプニングは起きた。
「あ――!! まちがえて大魔王召喚しちまった――!!」
「はあああああっ?!」
ソウヤのとんでもないセリフに、会場中がつっこんだ。
もちろん、なぞの緑クローク……この台本を書いた本人であるシオンも。
「ちょ……ソーやん! 違うってば、オレは……」
「いーや、間違いない! このかわゆいお耳! わたわたのしっぽ! そしてちょびっとずれた眼鏡!! これこそ眼鏡くろうさ大魔王、シオンさまそのひとだ――っ!!」
「いろいろつっこみたいとこあるけど大魔王って人じゃないからね――っ!!」
『かわいい』と爆笑の中、アスカが視線でミズキに問いかける。
ミズキはだいじょうぶ、というように小さくうなずく。
この寸劇はどうやら、脱線したまま続くようだ。
一体、どう収拾をつけるつもりなのか。そう思っていると、ミズキがソウヤを上回るアドリブを繰り出した。
「この子が、悪の大魔王なのですか?
もしもそうならば、捨ておくわけにはいきませんね……」
「そうはさせねーぜ!!
なにをかくそう! おれは大魔王につかえるハイイロ兎族の戦士、ソーヤだっ!
我が主サマを傷つけるやつは、何人たりとも許さねえ!!」
ソウヤがシオンをかばうように移動し、抜刀。そして、宣戦布告。
笑みのかけらも宿さぬ顔、手加減なしの鋭さで、ミズキにむけて斬りかかる!
「そんな、ソーヤさんが悪しき大魔王のしもべですって?! 嘘です!
やめてください、あなたとは戦いたくないっ!!」
「だったら手を引け!!
このお方こそは、おれたちの真の主!
常に虐げられ、慰み者にされる俺たち兎族を、開放に導く唯一の希望なんだ!!
お前もウサギならわかるだろう! 俺たちが……」
迫真の演技を続けつつ防戦するミズキ。
そんなミズキをソウヤは激しく追い詰める。袈裟に斬りつけ、横なぎに斬り、もはやアドリブを通り越して別の台本あるだろ級のセリフを叫びながら。
するとミズキははっとしたように動きを止め、ギリギリで我に返って受止。
もちろん、この斬りあいは台本にない。
一方で、シオンも一瞬ハッとしたようす。
ソウヤの叫んだセリフは、むしろ元の台本よりも良い――自分たちの立脚点をハッキリ表し、なおかつ次のイベントにつなげるにも役立つものと気づいたらしい。
そのまま、次の展開へとセリフでつなげる。
入場ゲートの方を指さし、おびえた様子で叫び声をあげたのだ。
「ちょっとやめてー! けんかしないでー!!
ってあわわ! なんか、なんかこわいのがこっちみてるよー!!」
斬りあっていた二人も、手を止めてそちらを見やった。
入場ゲートが再び開き、静かに現れたのはアンデッドウルフの群れ。
総勢十一体。群れの中央には巨大化したボス――キング・アンデッドウルフもいる。
難敵だった。しっかりと準備をしたAランクパーティーでも苦戦は免れない、狡猾で強力な。
おはようございます!
「勝手にランキング」さんでOut9ポイントをいただいていてびっくりです。ありがとうございます!
次回でショーバトル終わり、ライブ入りします。ライブ入り、します……お察しくださいorz
(※ライブはサラッとです)




