Bonus Track_65-1 ステラマリスは大規模デモの直前ですが、なにかおかしなことになっているようです~匿名希望デモ参加者たち&女騎士さんの場合~<SIDE:ST>
「ねえ、あれなに?」
じきに、ソリスから応援が来る。
そう聞いていた俺たちだが、それをそうだとは思えなかった。なぜって。
「鳥だ!」
「うさぎだ!」
「かっわいい――!!」
ソリスのほうから飛んできたのは、青い小さな渡り鳥。その背に乗っているのは、さらに小さな、茶色いうさぎだったのだ。
なにこの組み合わせ。ガチファンタジーでかわいいのですが。
頭上で旋回を始める小鳥さん。その背でうさぎさんは器用に、ちいさい黄色いメガホンをとりだし、地上に向ける。
「よいしょっと……あー、あー。
すみませ~ん」
可愛らしい声に、は――い、と地上から声が上がりまくる。そりゃあこんなの返事しないわけにはいかないだろう(もちろん俺もした)。
「シルウィス家の、シグルドさまに、お会いしたいのですけれど~!
おうちはどちらですか~?」
あっちでーす! と何人もの同志たちがベルナデッタ邸を指さした(もちろん、俺もそうした)。
「ありがとうございます~!」
うさちゃんは愛くるしくぴょんっと頭をさげた。
小鳥ちゃんもかわいらしくピィと鳴いて、ひとつくるんと旋回すると指さしたほうへ飛んでった。
うん、今日はいいことをした。
見上げる空は青く晴れている。じつにさわやかな、いい天気だ。
……そういえば俺、ここに何しに来てたんだっけ?
* * * * *
「え、ちょ、なにあれ??」
「増援……じゃないな、だって優雅すぎだろ」
「今日こんなイベントあったっけ?」
「うわっ、なにこれすげえイケメン乗ってる!!」
「くう、負けた……」
「あ、あれってパレーナ八世じゃね?」
「マジ? やべえ、ちょっと録画するわ」
「ワイも……」
* * * * *
「頼もう!」
私たちが門前の番をしていれば、しずしずとやってくる優雅な隊列。
豪奢に装飾された、象の列だ。なぜ。
ここに来るのは、吠える灼腕の獅子のはずではなかったか。
更に驚きは続く。
隊列の先頭。半透明の帳をかけたブース席から現れたのは、ゆったりとした白の装束の美丈夫だった。
アイスブルーの瞳を抱く、知的な大人の美貌の彼はそして、見た目通りの美声で呼ばわった。
「そちらにおわすは、シルウィス家の守りの騎士の方々とお見受けする。
どうか、主君にお取り次ぎを。
我は、鯨家<パレーナ>の八代目。ソリスの六獣騎士、パレーナ八世とお伝えくださればお分かりかと!」
朗々と響く口上。ふらふらと従ってしまいそうになる。
いけない、一つ頭を振って自らを取り戻す。
「主は危急の用のさなかです。どうぞ、お改めを」
「その危急の用のために我らはここにいるのだ。
我らは聞き及んでいる。あの日、何があったのかを。
彼はかの日、我が友のもとを訪れた……」
始まる演説。まずいと直感した。
おそらく彼はここで、我が主君の罪を問うだろう。いまそれをされてはまずいのだ。
我らは、『正義の』拳を振り上げるべくここにいる。
すなわち、我ら反和平派の一角である、メイ・ユエ氏の『不当逮捕』に、それをした和平派の『暴挙』に対し、怒りを行動で示すために。
しかし、それが不当なものでないと――
メイを通じて我が主の行ったことが、罪なき少女のこれまでとこれからを奪いかねないことであると、今この魅力的な男に説かれれば、デモ隊の士気は瓦解しかねない。
実力で排除してしまおうにも、守りは象の隊列が固めている。
くそ、ここに姿を表すのはライアン殿ではなかったのか。
その時、通信用オーブから救いの声が。シグルド様だ。
『いいですよ、入っていただいてください。我が友の友は、友ですから』
その声は、周囲にも響いていた。
ほっとしながら私達は門を開き、彼を迎え入れることとした。
「供もともに入ってよいか」
いつの間にか彼の後ろには、従者らしき少年と少女が。
揃いの白クロークをまとって控えるのは、濃い褐色の肌の少年に、赤い髪の少女。
ぶっちゃけ、どちらも驚くべき可愛らしさだ。
通信用オーブから聞こえた応諾は、こらえきれぬ笑いを含んでいた。
『レーザーでものを冷却できる』ってのはしゅごいですね。捗ります。作中で使えなくても(号泣)
次回、イツカ視点。
どうやってか屋内闘技場にやってきた怒れる獅子、その運命は?
イツカは水球の牢獄から脱出できるのか?
どうぞ、お楽しみに!




