64-6 ツッコミどころだらけ! 剣士対剣士、決闘開始!<SIDE:ST>
ノリで生きてるイツカが「おうっ!」と言おうとするのを制し、おれは問いかけた。
「その前に。
ちょっと待ってくれませんか、ベルナデッタさん。
なんていうか……ツッコミどころだらけなんですけど」
「ああ、オレさ、実はこっちが地なんだわ。
驚かせて悪ィな!」
左右非対称の赤い軽鎧に、銀のファー。ワイルドな装いをまとう背の高い彼女は、いっそ豪快にハハハと笑った。
なんかちょっとタクマ君みたいだ。どうしてそうなった。
イツカがのたまうには。
「もしかしてタクマと師匠おなじ?」
「おうよ、タクマはオレの弟弟子だぜ! あれ、話したっけか?」
「いやなんとなく」
「マジか。」
やつのリアルチート野郎ぶりに目をむくベルナデッタさん。なんか、この人は悪い人じゃない気がする。
「タクマ君はこうなること知ってるんですか?」
「あ、いやそれは……そのう……」
ちょっと気まずそうに目をそらしてぽりぽりと頭をかく。
なるほど、つまり。
「ベニーをいじめないでやって下さい、カナタ殿。
彼女は私のいう通りにしただけですから」
はたしてVIP席から、やつの声が飛んできた。
余裕の表情で脚まで組んでいる――こうしているとその脚が長いのがよくわかる。
地味にイラっと来たので、笑顔で応対することにした。
「つまり、あなたが元凶だと。
その陰の黒幕がなんでこんなところにいるんです? 今日はあなたとデートなのでサクヤさんは手合わせをあきらめたはずなんですけどね」
「ええ、ですのでデートの場所をここにしました。
可愛い婚約者のためですからね」
「ふふ、シグルド様ってば」
「はあああ?! なにそれ――!!」
シグルド氏はサクヤさんの肩を抱き、サクヤさんは嬉しそうによりそう。なにこの構図。イツカがニャーニャー叫びだし、おれも思わずストレートに物申していた。
「そういうことは是非お二人だけでやってもらえます? こっちには年頃のにゃんこもいるんですから」
「ええ、ですのでどうぞおかまいなく。」
「そういうわけにいかないでしょうよ。」
「ではいかがでしょう、その決闘、私も一枚かませていただくというのは」
やっぱりなことを言いだしたやつに、さっそくベルナデッタさんが乗ってきた。
「おーいーなー! じゃオレの条件は、『オレたちが勝ったら開戦』な!」
「では私は『我々が勝ったら、デモを開始させていただく』というのでどうでしょう」
ほほう。この男、つまらない仕込みをしてくるつもりらしい。
もちろんこんなの突っ込まない。謹んで『そのまま』お返しだ。
「……なるほど、じゃ、おれたちが勝ったらそれはなしってことですね。
ベルナデッタさんもそれでいいんですか?」
「おう、いいぜ! だがしばらくはオレとイツカでやらせてくれよ!
いいだろシグルドもさ?」
「ええ、かまいませんよ。ま、明らかに不利にならない限り、手は出しませんから」
「おれも同じようにさせてもらいます。いいよねイツカ」
「もっちのろん!
じゃあカナタ」
「おしゃ!」
おれたちは向かいあって立った。
イツカのチョーカーの三日月飾りに、おれの指輪の飾りをはめ込み、声をそろえて唱える。
「『我らが神器よ、力を開放せよ! リリース!!』」
あふれる光と共に、おれたちの装いが戦いのためのものにかわる。
そのまま、おれは後退。イツカは前に出た。
「すっげえ! やっぱカッコいいっ!!」
するとベルナデッタさん、子供のように目を輝かせて拍手はくしゅ。
これ、月曜にも一度披露しているのだが、その時はおさえていたのだろう。ワイルド系年上お姉さんと思えぬほどの無邪気っぷりに、なんだか可愛いと思ってしまう。
無邪気可愛いのはサクヤさんもだ。大きな瞳をキラキラさせ、ちょっと頬を上気させているのがここからでもわかる。
「幾度拝見しても素敵ですわ。
わたくしもこれ、つくっていただこうかしら!」
「良いですね。
私も付けてやるとしましょうかね、新しい召喚獣に」
「ってなんでこっちを直視してるんですかあなたは。」
だがシグルド氏、お前はダメだ。ニコニコしつつ邪気しかない。
さすがにイツカもカチンと来たか、おれと彼の間に移動して睨みをきかせる。
ベルナデッタさんもシグルド氏をたしなめてくれた。
「こらシグ、そいつはさすがに失礼だろ」
「でしたね。もふもふケモミミ王子たちがあまりに愛くるしいのでつい」
「まったく、可愛いもんに目がねえんだから。
悪いな、オレからも謝るわ」
「おう、ありがとなベルナデッタさん」
「あ、ベニーでいいぜふたりとも!」
ベルナデッタさん、あらためベニーさんからのまっすぐな謝罪はおれももちろん笑顔でお受けした。けれど……うん、ぜんっぜん謝ってない。謝ってないよねあれは。ベニーさんはだませてもおれはだまされない。
まあ、『わからせる』のはこのあと。まずは、剣士ふたりの対決を見守るとしよう。
イツカは晴れやかな声で名乗りを上げる。
「んっじゃあ、ベニー。
改めて。『黒猫騎士』イツカ・ホシミ! 行くぜっ!!」
みんな変身アイテム大好きです。
次回、斬り結ぶ剣士たち。
ふたりに訪れたのは、予想外の顛末?
どうぞ、お楽しみに!




