64-5 運命のとき! イツカナ、狼穴に赴く!<SIDE:ST>
『承前』? やつは旅だったよ……...( = =) トオイメ
(和訳:章タイトルを変更しました!)
ベルナデッタ邸についたおれたちが案内されたのは、広い広い屋内闘技場。
そこで待っていたのは、別人のように笑うその人。
そして、婚約者をはべらせ高みの見物、という悪趣味な『デート』に興じるあのやろうだった。
* * * * *
思い出されるのは、さきの火曜のこと。
視察一日目を終えて戻り、野郎どうし食堂で一服していたところ、タクマ君からコールが来た。
ベルナデッタさん――昨日の『六柱』茶会で会った『狼牙』フィル=ベルナデッタ=シルウィス氏だ――が、おれたちをご招待したいと言っている、ということだった。
タクマ君のとなり、引いた様子で見られながらも、令嬢らしい装いの彼女はあくまで上品にお誘いをくれた。
『よろしければ、うちにおいでくださいませんこと?
父エイドリアンも、あなたがたとゆっくりお話をしてみたいと申しておりますし、わたくしもできるなら、剣士としてお手合わせをお願いしたいですわ。
そうですわね、木曜の午後一時ごろでしたら、自宅のフィールドも空いておりますし、そのあとにはお心づくしですがお食事も、ご用意できますので……』
『えっいいの?! やったあ、いくいくー!!』
もちろんそれを聞いてイツカは飛びついた。
その日は、アスカたちがメイさんと約束した日だ。つまりおれたちも空いている。
しかし、大丈夫か。ほかに何か見落としていることはないか。
向かいの席のレムくんをみれば、両手でまるを作っていた――ただし、ちょっと厳しい表情で。
助言があったことは、悟らせないほうがいい感じだ。おれもあくまで穏やかなスマイルで、そのお誘いに乗ることを伝えた。
はたしてコールが切れたのち、レム君は言った。
『やはりきましたね。
その時間帯、エイドリアン氏にはおなじ上院の議員たち、そして支持者たちとの会合が入っています』
メイ氏とミルルさんの約束、そして会合で話題になったという『涙硝』サクヤ氏とシグルド氏のデートも同じころ。
さらにはこのすぐあとに、反和平派による大規模デモが予定されているとも聞いている。
つまりおれたちは、まんまとベルナデッタ邸におびき出されたというわけである――反和平派によるデモのための『燃料』として。
デモそのものは、すでに予測されていた。
ステラ領内の反和平派は、すでに硬化していたのだ。
民主派ユーニオ党は全面的におれたちについて、かれらとやりとりしてくれていた。
けれどコルネオさんからの連絡によれば、話し合いに進展はみられていない。
というのに有力メンバーに疑いをかけるハメになってしまっているのは、控えめに言ってまずい状態だった。
もしも追い込めなかったらアウト。だが容疑を固められたとしても、後味のよいものではない。
そんなところに加わったのが、ステラ様の回復だ。
おれたちはもう『用済み』。しかし外のことはまだ、ソレア様がみる状態。
このタイミングならば、ステラ様の回復と、おれたちの排除という、二つを同時に狙える。
そんなわけで急遽、おれたちを引っ張り出してとっちめて、火に油を注ぐ計画が動き出したというわけだ。
* * * * *
まとめるならば。
メイ・ユエ氏への嫌疑をネタに、反感を表明。
同時に、ベルナデッタ邸でおれたちを手ひどく倒して、おれたちの求心力を下げつつ、月萌の怒りを買う。
そこに大規模デモを重ね、中立の人間をも扇動。一気に開戦への弾みをつける。
今日の星都ステラマリスには、そんなシナリオが描かれているのだ。
これを止めるには、おれたちが勝つしかない。
それも、圧倒的に華やかに。見ているものたちがみな魅了されてしまうほどに。
そう、今こそ、アイドルバトラーとしての大舞台だ。
おれたちに世界の命運がかかっているといっても過言じゃない。
そんな覚悟を決めてきてみれば、待っていたのは――
「ハハハ! やろうぜイツカ!
オレずーっとずーっと待ってたんだよな、お前とやれる日を!!
『狼牙』フィル=ベルナデッタ=シルウィス! お前に決闘を申し込むぜっ!!」
フィールドのまんなか、猫かぶりをやめて牙をむく、赤の軽鎧のご令嬢と。
VIP席のまんなかで、ほほを染めた美少女をとなりに侍らせ、高みの見物としゃれこむ、片眼鏡のブラコン野郎だった。




