64-4 『決戦』前夜――大きな目標、小さな思い<SIDE:ST>
「……以上が、学園長から取れた確認の全容です」
どこかほこらしげな発表、その内容に、ミーティングルームは驚きに包まれた。
マールさんはなんと、上級魔術学院の学園長そのひとに、『毒入りルージュ』仮説の検証をしてもらえたというのだ!
文献の閲覧さえ渋られていたというのに、いきなりの逆転ホーマーだ。
マルキアも興奮を隠せないようす。
「すごいわマール。学園長殿がこんなに協力的になるなんて。
今日、彼女とどんな話をしたの?」
「それは、乙女の秘密です☆」
マールさんはニッコリ笑ってくちびるに人差し指を当てた。
「彼女にもいろいろと含むものがあるようです。そっとしておいて差し上げるのが得策かと」
実は今日、マールさんは学園長のご指名で、二人だけで話をしてきたのだ。
正確には、いきかえりはリンさんも一緒だったが、話をするときは密室で二人だけだったとのこと。
マールさんは二人の秘密会談の内容を、マルキアはもちろん、リンさんにも明かさないようだ。
いったい何が俎上に乗ったのかはとても気にかかるが、推測のすべもない。ここは素直に引き下がっておくのがいいようだ。
マルキアもさらりと話を進めた。
「わかったわ。女同士の秘密というなら、野暮なことは言いっこなしね。
……それでは、明日の動きを確認しましょう。
アスカ、ハヤト、マール、ミルルの四人は、午後一時にメイ・ユエ氏を訪問。彼女の琴を聞かせてもらい、しかるのちにこの件をぶつける。管制はレム。
同時刻、イツカとカナタ、そしてバニーとナツキはミラ、カイ、フレイの護衛でベルナデッタ邸へ。約束の手合わせを行う。こちらの管制はミク。
ベル、リン、ランディはバックアップ要員をお願い。
なにか質問や疑問は?」
とくに手は上がらない。すでに、ここまでで練りつくされているためだ。
マルキアはおれたちを見まわし、うなずいた。
「それでは、今日はここまで。
明日がわたしたちにとっての正念場。
みんな、がんばりましょう」
気合の入った声が上がる。もちろんそれは、おれの口からも。
明日、おれとイツカがすべきこと。
それは、月萌の最強として、世界を『魅せる』こと。
張り巡らされた罠を、罠ごとかみ砕き、己のモノとすることだ。
すなわち、圧倒的華やかな勝ちを見せ、ひざまずくものを優しく包むこと。
これこそが、世界じゅうを戦火が包む未来を回避するための、たったひとつの最適解だ。
やってみせる。
イツカをみれば、やつも力強くうなずいてきた。
いつの日も、キラキラ輝くルビーの瞳。
それを見ていると、ファイトがわいてくる。
明日、必ず勝とう。
そのためには何より。
「それじゃ、メンテいこう。そしたらごはん。
消化できる範囲でしっかり食べようね!」
「おうっ!」
おれとイツカ、バニーとナツキ、そしてアスカとハヤトは意気揚々と立ち上がった。
今日のおれたちには、ステラの工房で見せてもらった最新の技術がある。
勉強会で理論と知識を培い、なにより研究仲間もできた。
ラボでは今、かれらが待ってくれている。
待ち構える者たちの鼻を明かすほど、おれたちはおれたちを強くしてみせる!
けれど、その一方で思った。
あの日、ソリスを訪れてミルルさんに3Sフラグメントをつけたのは、『偽物』であったらいいのに、と。
平和式典の翌日『勉強会に加わりたい』と言ってきたその日から、メイ・ユエ氏はほぼ毎日、ラボでの勉強会に参加している――それも熱心に。
おれが目的、みたいなことも言っていたが、視察でおれが参加しないとわかっている四日の間も、きっちりやってきたという。
毎回、しっかり予習復習をしている様子。ノートを取り、質問をし、議論にも加わり……もちろん思わせぶりなこともしてこない。
こんな姿を知ってしまうとどうしても、好感度が上がってしまう。
さらに彼女は、『にせメイさん』の演奏をもう聴けないと落ち込むミルルさんに、自分が演奏をまねて、聞かせてあげると約束しているのだ。
もちろんこれも、作戦かもしれない。だが人情としてどうしても、願われてしまうのだ。
彼女が無実であることが。そうでなければ何か事情があって、そうせねばならなかっただけであるということが。
家族のぶんのワクチン接種予約は取れたのでちょっぴり安心……あとは私だけー( ;∀;)
おそとは暑いし引きこもりたいです(爆)
次回、アスカ視点。メイ・ユエ氏宅訪問の予定です。
彼女の演奏と疑惑はどうなるか? そして、アスカの猛特訓は奏功するか?
どうぞ、お楽しみに!




