64-3 がんばろうぜ! 主人公たちの誓い!<SIDE:ST>
案内されて回った施設内は、『エルメスの家』よりも広く、調度などもかなり上質のものと感じた。
ぶっちゃけ言えば、貴族の館に近いものがある。
みんなが身に着けているものも、一般的な庶民のものよりいいものだ。
初老の園長先生は、まとわりつく小さな子の頭を撫でてあげながら、愛し気に微笑む。
「この子たちは、いずれどこかの貴族の家に入ります。
そのときに戸惑わずに済むように、貴族に近い生活環境を整えていただいているのです。
さすがにおつきの者を用意することはできないのですが、できるところからでも」
「貴族の家にって、全員がですか?」
貴族の家に入る。それすなわち、戦士となるということだ。
楽なことではありえないのに、それしか道がないなんて。
おどろいたおれの問いにかえってきたのは……
「ええ――原則的には。
ステラでは、力あるものはみな、それなりの責務を負わねばならないのです。
さいわい今は平和ですので、そうしてここを出た子供たちも無事に永らえることができ、ありがたく思っております」
寂しげな微笑み、そして『原則的に』のことば。
みなまで聞かずとも、わかった。
『引き取り先』の見つからないスターシードも、いるのだ。
不思議なことじゃない。コハルさんやカナン先生のように、β居住域で就職をというスターシードは少なくない。高天原に来られたとしても、かつてのケイジのように体が弱くて苦労する者だっている。
かといって、貴族の家に入ったら入ったで、常に結果を求められ、最前線で戦わされたことだろう。
これはむしろ、月萌よりも厳しい環境じゃないか。
そんな風に考えてしまうと、タクマ君はわかっていたのだろう、ポンと背中をたたいて言ってくれた。
「だーいじょぶだ、養子になんかなれなくったって、就職でワンチャンあるからな! 学園関係とか、あと民間の会社でも歓迎されるんだぜ。
スターシードをわざわざ使いつぶすような阿呆もそうそうねえし。
ステラの貴族にとって、俺たちを抱えるのはステータスなんだ。
スターシードを引き取るには、能力ランクに応じた納付金が必要。つまり、たくさん連れて歩いてるほど金持ちですってことになるわけさ」
「そ、それって……」
しかし、イツカはさらに顔を曇らせる。ポーカーフェースのハヤトも、見てわかるレベルに。
それでもタクマ君は、からりと笑って子供たちの頭をなでる。
「売られてるみたいなもんだ、なんていってくれるなよ?
そいつがおれたちの身を守る。ここの経営の助けになる。チビたちが不自由なくメシを食えて、俺たちも使い捨てにされずに済む。不満なんかねえよ」
「そっか……悪い、ヘンな誤解して。
そうだな、それいったらここまでの高天原のがよっぽとひでえよ」
何かひどいかって、こんな数字があったのだ。
年度別Ω産出目標。
必死で高天原にたどり着いた生徒たちの、夢を潰して身柄を売り払うなんて許しがたい搾取が、隠然たる国是としてあたりまえになされていたのだ。
「でもさ、お前たちそいつをブッ潰したんだろ?
『祈願者につく予算を補填として投入してでも構わない、年度別Ω産出目標は即刻停止を』ってさ!
あー、カッコいいよなー! ホントもう主人公だろっ!!」
「ええっ、俺主人公?! まじっ?!」
「マジマジ! もーやべえって!!」
われらが主人公野郎は両手握られて照れまくり。かくいうおれも、顔が熱い。
「みんなが、助けてくれたから。
おれたちは、みんなの夢に参加させてもらったんだよ」
「くううう!! カナタも主人公だー!!
いやまじさ、がんばれよっ?
きっと『ハートチャイルド・プログラム』廃止してさ。それがダメでも、ちょっとでもラクになれるように!
オレもできることなら、なんでも協力するからさっ!」
と、タクマ君は今度はおれの手を握ってきた。
きれいな金色の、きらっきらのお目目で見つめられると、野郎同士だけど照れてしまう。
うん、タクマ君も『主人公』だ。おれが女の子だったら、ちょっとやばかったかもしれない。
「う、うん。がんばるよ!」
ぶんぶんと首を振って邪念を追い払い、おれもその手をしっかり握り返した。
すると解せないことに、まわりから「てぇてぇ」「お似合い」などという単語が聞こえてくるのであった。
カナタはもとからイケメンに囲まれているので、彼のいう「普通の少年」とは世間一般でいうイケメンです(爆)
次回、『おもてなし』の準備! 専門用語でいう『悪代官のターン!』です。
どうぞ、おたのしみに!




