Bonus Track_63-4 出たな、権限エラー! 魔術学院図書館の怪!~マールの場合~<SIDE:ST>
今日はレムちゃんが振替休暇。そのためイツカナちゃんの護衛は『Bチーム』が受け持ち、わたしたちは『フラグメント入りルージュ』の件を固めに回っていた。
リンとベルがめぼしい工房を回る一方で、わたしとジュジュとミルちゃんは学園の図書館へ。
『Bチーム』もこれまで何度もここにきている。けれど、いくつかの文献や資料については権限エラーやらパスワードロックやらで見られないそうだ。
仕方ないので、マル姉さまに学園長たちと交渉をしてもらいつつ、手分けして見られる限りの文献をあさっている状態だったのだが。
「あ」
なんとなく、『見れないよリスト』の一番上の文献にアクセスしてみたら、見れた。
「見れるようになってる!」
「ほんとー? やったー」
「マル姉さまの交渉、うまくいったんですね! よかった!!」
さっそく必要なあたりをピックアップし、お礼を添えたメールで報告。
図書館を出るとえらい騒ぎになっていた。
「ついに、ついに内定か……」
「やったぁー! これではるきゅんは合法的にわが国のものー!!」
「くそおお! 殿下と婚約とか! うらやましすぎるわ――!!」
「お似合いすぎて萌えええ!!」
飛び交う叫び、舞い散る号外。
どうやらわたしたちが図書館に入っている間に、エルメスさまとハルきゅんの婚約内定が発表されたようだった。
街頭のテレビから流れるニュースによれば……
土曜日のデートで、ハルきゅんがエルメス様に告白。
エルメス様は『エルメスの家』の子供たちを案じ、月萌に輿入れとなったとしても、定期的にソリステラスに通いたい、とお願いしたのだが、ハルきゅんはこう即答したそうだ。
だったら、ソリステラスに住みましょう。あなたをお手伝いしたいですからと。
さすがにエルメス様がいったん持ち帰らせたそうだが、答えは変わらず。
うおっと声が出た。なんというかもう、男前すぎる。
ただ、同時にわが身が心配になった。
あの子は我々が作戦のために利用した子のひとりだ。
最悪、左遷や解雇もありうるかもしれない。
そのときあーちゃんからメールがきた。
『もしかして心配してるかもだからきーくんにきいてみたんだけど、男前すぎるから転送するね』
というライトノベルさながらの件名にメールをあけて、もう一度うおっとなった。
『記念突破パーティーのときには、俺たちもあなたたちをだましたじゃないですか。どっこいです。
それに、最初に乱入してきたときのことは、むしろ感謝してるんです。
なぜってそのおかげで俺は、殿下に出会えた。
これからその分、仲良くしましょう! よろしくお願いします!』
なんだもうこれ。惚れるなというほうが無理な勢いだ。
ぶっちゃけ、最初に『イツにゃんのお気に入り』として出会ったときは、可愛いけれど、まあ普通の少年という印象しかなかったというのに。
「いつの世も、愛は少年を男にするものだって思ったわ!」
ちなみに基地に帰ってこういったら、みんなに笑われてしまった。
「あはは、マールってば!」
「いつの世もって! いつの世もって――!!」
リンがあははと笑う。
ベルはなんかツボにはいっちゃったらしく、テーブルに突っ伏してひーひー笑っている。
うん、まあ、ときどきなんか老けてる自覚はないでもない。
そもそもわたしは本当は何歳なのか、分からないのだ。
わたしはもともと、高等魔術学院そばの川辺に転がっていた、身元不明の赤ん坊なのだから。
ちなみにこれは、もうミルちゃんにも冗談めかせて教えてある。
だから、ジュジュも冗談を飛ばすし、ミルちゃんも明るく笑ってくれる。
「じつはホントに、消えた副学長が若返った姿だったりしてー!」
「そういえば文献、スパッとみつけちゃってたし……!」
「ええっ、もしそうだったらわたし大金持ち!
っていうか副学長、男だからー!!」
あの学院にはとんでもないうわさが多い。だから、もしかしたらわたしはあそこでこっそり作られた人造人間かもしれないし、別の世界から召喚された異世界人かもしれないし、いっそ時間を巻き戻されたうえ性転換した老魔術師であってもちっとも不思議じゃない。
まあ、何はともあれ、おかげでここに来られたのだから、自分の運命には感謝しているけれど。
「まあ性別はおいとくとしてー、大金持ちになったらなにしたい?」
「うーん……まあ、副学長のお金だし、副学長の夢でも継ごうかな。
めざせ、全国民教育完全無償化! って」
「おおー」
「すごーい!」
「まあ、また今度も、生まれついての差が浮き彫りになるだけかもしれないけどさ。
でも、スタートラインにすら立てないってのよりは、まだいいかなと」
そんなふうにしゃべっていれば、イツカナとBチームのみんな、マル姉さま、あーちゃんとハーちゃん、それにレムちゃんがつぎつぎやってきて、ミーティングが始まった。
マル姉さまはいつものように微笑んで口火を切った、のだが……
「みんな、お疲れ様。さっそくはじめましょう。
まず、図書館チームのみんなに聞きたいのだけれど。
もしかしてどなたかにお手伝いいただいたのかしら?」
「え?」
「今回の交渉もまとまらなくて、ロック解除は承諾してもらえなかったの。
だから、今日の文献を独力で見られるはずはないのだけれど……?」
現代の怪奇、なぜか出る権限エラー!
次回、女神ステラの決断! どうぞ、おたのしみに!




