Bonus Track_63-3 始動! ゴーちゃん改造計画!~『ゴーちゃん』の場合~<SIDE:月萌>
それ以前から、αが『ナカノヒト』を務めるボスモンスターには個性的な言動がみられ、それがゲームのアクセントとなっていた。
けれどそれ以外のモブモンスターは、決められた範囲のカードを切るだけの疑似生命。
プレイヤーたちに戦いの経験と経験値、ドロップアイテムを渡すための『養分』にすぎなかった。
しかしここにきての大転換。いったいどうしてと半分混乱したけれど、ササキさんの説明で納得がいった。
巨体にありえない素早さで暴れつつ、パントマイムで意思疎通をしたりもする新種――『RFAゴーレム』の『ゴーちゃん』。
スジの通った剣士キャラで人気となった『スケさん』。
そして、『スケさん』の意志を汲んで動いた、スケルトン軍団。
かれらの存在で、ティアブラモンスターの新境地が開けてきたというのだ。
すなわち、『心あるモブモンスター』というもの。
以前から、イツにゃんのように『気づいている』人はいた。
ボットが動かしている個体にまじり、俺たちのような『ナカノヒト』が動かすものもいること。
このたび、これを利用した設定が新たに公にされる。
『ミッドガルド』のモンスターは、倒されても消えるのではなく、また転生している。
そうして、徐々に人間に近づいている、というもの。
それゆえ、ときにモンスターとして『ありえない』行動をとることもある。
パントマイムで意思疎通したり、隊列を組んでダンスを披露したり。
全力で生き、死ぬまで戦い、命を全うするのみならず――
そうして、一芸で誰かを楽しませることも、彼らを人間に近づけることである。
どこかで彼らのそうした姿を見たら、ぜひともに楽しんでみてほしい、というアナウンスが運営公式アカウントで発表された。
その本格おひろめイベントが、次週金曜のステージ。
なんと、高天原アイドルバトラーたちのバックダンスを、僕たち『高天原産ネームド』が務めるのだ!
ちなみにマリオさんはスケルトンたちを操っていた不死の王・マリオンとして……
ドラオさんも、転生したフォルドとして、ともに月内にネームドデビューの予定だ。
「いやあ、夢にも思ってなかったわ……どうしよう、ウチうれしすぎて変な顔なってまうわ~」
「ちょ、ま、俺もっスか?! いや、いいんですかね、マジにっ」
「お二人はこれまで、多くの試合で結果を出しています。
それが評価されてのことですよ」
ササキさんがニコニコ伝えてくれる言葉に、ひゃほーいと抱き合って喜ぶ二人。
しかし、次の言葉で俺はパニックになった。
「そういうわけなので、ダンスの仕上がりを見て一~二週間後のクールタイムにフラッシュモブを。
三週間後には『しろくろウィングス』のバックダンスをしていただくことになりますので、二週間後には顔合わせをし、リハ」
「………………!!!!」
俺は立ち上がっていた。
うしろで椅子ががったん。口がパクパク。言葉にならない。
「はいはいゴーちゃん、どーどーどー。息を吸って~、吐いて~」
「あ、あ、ありがと、マリオさん……」
さすがは『マリオネッター』というべきか。マリオさんがやさしく背中をさすってくれて、ようやく呼吸が戻ってきた。
「あの、あの、ササキさん、そのとき顔、かくしていいですか?! 顔っていうかあの、できれば声とか全身も……」
「あれ? LUNA、お好きじゃありませんでした?」
「すっ…………あの、その、それゆえに僕のようなものが御前に上がるのはむしろ冒涜と言いますかその……せっ、せめてもっとかっこよくといいますかせめてひとなみになってからじゃないととってもはずかしくってっ……!!」
「何言うてん、ゴーちゃんごっつかわええやん。ウチが女の子だったらほっとかれんで?」
マリオさんは優しく言ってくれるけど。
「それを女の子から言われたことが人生で一度もないんです……」
「っ………………!!」
自分で言ったら泣けてきた。
追い打ちをかけるかのように、ミーティングルームに落ちる、沈黙。
気が付けば俺は、知らない場所、知らない寝椅子の上に寝かされ、神妙な表情のマリオさん、はらはらした顔のスケさん、ガクブル状態のドラオさん、あと何人かの知らない人たちに囲まれていた。
「ひええええ! ちょ、なに、なんですか?! ま、まさか改造手術……」
「うふふ~。似たようなモノよ☆」
笑いながら現れたのは、ピンクのロリータドレスに猫耳、ツインテールの美少女にしか見えない超有名人!
「え、あ、アカネ・フリージア――?!」
「えっへん!
話は聞いたわ。
このあたしたちが、今日から十日間で、『ゴーちゃん』をとびきり素敵なイケメンに改造するわっ!
まずはお肌のスペシャルケアで、ちょびっと自信をつけたげる!」
「ええ……」
おもわず救いを求めてマリオさんを見ると、そっと手を握ってくれた。
「大丈夫や、ちーとも痛うないで。数かぞえとったらすぐ終わる。
チカラぬいて、姐さんに全ておまかせしぃや」
「そーそー☆ それでは、はっじめー!」
「え? え? えええ――!!」
こうして俺の、怒涛の十日間は始まってしまったのであった。
ひええ! ブックマークありがとうございます!
うれしくって変な顔になってますえへへへ。
次回、ソリステラス、マールさん視点。
彼女の身に起こる不思議。
どうぞ、お楽しみに!




