63-3 顔合わせ? いいえ、それは手合わせです!<SIDE:ST>
ステラ領の最強の六人『六柱』には、彼ら専用の場所が与えられている。
ステラマリス城のほど近く建つ『六星会館』。
ちょっとした木立と塀と結界に囲まれた建物だ。
月萌でもっとも有名なドーム型球場ほどもある場所に、高天原学園の大校舎さながらの建物が鎮座しているといえばいいか。
たった六人のために、大きすぎやしないか、と思ったのはド庶民の浅はかさ。
『六柱』は前提としてαなのだ。つまり貴族か、貴族になれるようなもの。つまり、何かと場所がいる。
ただし、何よりも広さが必要なのは、やはりここ。専用のバトルフィールドだ。
小フィールド三つ。中型フィールド二つ。そして、御前試合や式典などにも使われるという大フィールドが真ん中にどんとひとつ。
もっと入り用なら、空間魔術を使ったり、いっそ完全VR空間でのバトルも可能である。
それでもこれだけの空間をリアルに占めるということは、やはりそれなりの理由づけがあるのだろう。
程度こそ違え、月萌も似たようなところはある。そこに深く突っ込もうとは今は思わない。
なぜなら――
まさしくいまおれたちは、そこを利用しているからだ。
「ステラ六柱が一『雪花』、アリエ=ユフィール=ソフィシア。推して参る!」
「月萌の祈願者、『黒猫騎士』イツカ・ホシミ。いくぜっ!!」
互いにノリノリで名乗りを上げた剣士二人は、時に高く跳び、時に大きく駆けて斬り結んでいる。
どこか見覚えのある銀髪の美女が、するどく細身の剣を振るたびに、雪の結晶が風花のように舞う。とても幻想的な眺めだ。
もっともこの結晶、足場や防御、ときに武器としても使えるすぐれもの。
運動能力自体はイツカのほうが上のようだが、これがユフィールさんの強さを押し上げている。
『うさねこ』メンバーでいうならば、チアキやトラオあたりの大幅進化系だろうか。
そんなことを考えていれば、エルナールさんの弾む声が聞こえてきた。
「素晴らしいですね、カナタさん。
イツカさんはやはり月萌最強の剣士。姉がこんなに走らされているのは、久々に見ます」
「久々といいますと、その前は?」
「女王陛下です。ああみえて、歴代有数の『ソードマスター』でいらっしゃるのですよ」
「えええええ!」
あんな優しくて、どこかはかなげですらある方が。
ほんとうに、人は見かけによらないものである。
驚いていると、エルナールさんは柔らかな笑い声とともに、おれを戦いに誘う。
「天才的と言えば、ライアン殿のご息女もです。
ヴェール殿ともう、バトルはされましたか?」
「はい、月萌で一度実戦を。そしてこちらでの勉強会で模擬戦を」
「では、『カードキャスター』のやりようは知っておいでですね。
ただし私はヴェール殿と違い、動きながら戦います。よろしいですか?」
「はい、もちろん。
おれも遠慮なく、跳ねさせていただきますっ!」
一気に跳んだ、その下をいかずちのような蹴りが通り過ぎて行った。
『水雷』クロン=エルナール=ソフィシア。インテリ然とした見た目、穏やかな物腰ながら、水と雷の二系統の魔術を駆使し鋭い身ごなしで戦う、武闘家タイプのハンターだ。
しかも、『スロット7』――一度に7枚までの『スペルカード』を発動させられる、最高ランクのカードキャスターでもある。
正面からやれば、ぶっちゃけ不利。おれはまず、距離を取っての戦いを選んだ。
「『ムーンボウ・サンクション』――キャンセル!!」
両手の双銃をエルナールさんに向け、ファイア、ブリッツ、アイス、エアロ、クレイと圧縮メガボムを連発。最後に斥力のオーブを、前方に向け――放たず、うえへと跳ねる。
足元を、鋭い抜き手がつきぬける。
もしもオーブを放っていたら、そしてエルナールさんがそうしようと思っていれば、おれは背中から一直線に貫かれていたことだろう。
くるりと体を回し、逆さのままでふたたび銃撃。エルナールさんはいったん水の障壁を展開してしのぐと、みずからその障壁を破り、左の抜き手を放ってきた。
いや、ただの抜き手じゃない。その手の中には一枚のスペルカードが輝いている。青い輝き、水のつぶてをとばす『水弾』である。
予習としてみた動画の中ではここで『水弾』が炸裂していたが、同じことをしてくるわけはない。
果たして発動したのは、右手で輝く『水の戦鞭』。
足をからめとられたおれは、ひゅっと天井近くに吊り上げられる――ただし、水ではなく、つたの鞭で。
天井にはすでに、おれ自身が発動しておいた『卯王の薬園』が青々と茂り、イツカとおれに支援の芳香を放っている。
「さすがです、カナタさん。
自在の戦いぶり。私もわくわくしてきます!」
エルナールさんは少年のような目で、新たなカードを切った。
「『水球』『拡大』、『触知』『遅延』『遅延』『エンハンス』、『ロックオン』! 参ります!!」
次々に切られた七つのカードが生み出したのは、おれを『ロックオン』して飛んでくる、背丈ほどに『拡大』された水牢。
まずい。これにつかまると、抜け出せなくなるのだ。
おれは大急ぎで、緑の障壁を展開するのだった。
カードゲームっぽい感じが書いてて楽しいです^^
次回、やっと普通の顔合わせシーンです。お楽しみに!




