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1.5 やらかしハンターは絶品ケーキを食べれずに

2019/10/14 

再編でこの位置に。描写などちょっとだけ見直しました。

もちろん一文目のヌケは直っております!


2020.04.12 11:50

今回のちょこっと紹介をつけました。

「……で、今回もお前は『免罪符』なのか?」

「へへへー☆」


 そしてここは、授業開始直前の教室。

 おれたちの担任、カナン先生は渋い、渋い顔をしていた。

 まだ若い、お兄さんみたいな先生なのに、正直ちょっと気の毒になる。

 実際カナン先生は、おれたちと同じ星降園の先輩。つまりは年の離れたお兄さん的存在なんだけど。


 イツカが宿題の代わりに見せているのは、『特定社会活動におけるティアポイント使用申請』。

 ぶっちゃけ言うなら、『TP使って宿題サボります届け』だ。


 このセカイのティアブラ優遇は、こんなところにも顔をのぞかせる。

 すなわち『決められた額のTPを支払うことにより、特定の社会活動を免除してもらえる』というシステムが存在しているのだ。


『特定の社会活動』とはたとえば、宿題や仕事であり、出席や出社であり……

 莫大な額にはなるが、単位や身分を『買う』ことすらも可能である。

 もっともそれで知識や能力までは買えないから、『特定社会活動に対するティアポイント使用申請』は、まさしく一時しのぎの『免罪符』でしかないのだけれど。


 だがイツカのやつは、中二になってから一度も宿題をやってない。全っ部『免罪符』でブッチしている。

 イツカレベルになると、その方が時間効率がいいのは確かだけれど……

 はたしてカナン先生は、がしがしと黒の短髪頭をかくと――先生が参ったときのクセだ――言い出した。


「お前はできないわけじゃないんだ。宿題くらいまともにやらないと、ろくな大人になれないぞ?

 まあ、決まりだから受理せざるをえないんだが……

 ただなイツカ。これはちょっとばっかりもったいなくないか?

 こいつはあと一回『献上』すれば、100万にとどく額なんだぞ」


 おれも含め、8人のクラスメイト全員が驚いた。

 先生がサラサラとタブレットに書いて示した式によれば、全くその通り。

 けれどイツカは、首を振る。


「俺もそれ、ゆうべちらっと考えたんだけどさ、……

 できなかった。

 だってさ。五歳でココきて、十年間さ。

 ずっと、一緒、で……」


 うつむくイツカの声がくぐもった。

 カナン先生はタブレットを置くと、そっと立ち上がる。

 次の瞬間、イツカは先生の胸に飛び込んでいた。



 それからひととおりみんなと別れを惜しむと、イツカもスッキリした顔になった。


「ありがと、センセ、みんな。

 俺やっぱり、今日の宿題やる!

 で、放課後献上いって、100万達成してくる!」

「何言ってんだ、今すぐいってこい。

 かわいい『弟』が100万の男になるってときに、宿題だなんてケチくさいこと言ってられるか!

 いいからパッパと行ってこい。じゃないと俺が行かせられなくなっちまうだろ。

 ここからみんなで見ていてやるから、堂々といけ!」

「センセ……!」

「カナタ、ミライにも連絡して、一緒に付き添いでいってやれ。

 あっちもまだHRのはずだし、責任なら俺がとる!」


 先生がイツカの頭をわしゃわしゃ撫でて笑う。みんなが歓声を上げる。

 もちろんおれも、こんなカッコいい提案、大賛成よりほかにない。


「ありがとう先生! じゃあ…… あれっ?

 ミライ、いま教会の近くにいる……」


 机の上に置いた携帯用端末ポータブルプレイヤーに触れて、ミライに連絡コールしようとしたおれは画面の表示に驚いた。

 パーティーメンバーなど、近しい関係にあるプレイヤー同士は、現状の共有がある程度できるようになっている。

 つまり、いまゲームにログインしているか、ログインしていればどこで何をしているかがだいたいわかるものなのだが……


「なんだ、じゃあ話が早いじゃないか。いってこい。カッコよくな!」

「はいっ!!」


 まじめなミライがこの時間、学校じゃなくティアブラにいる。

 まさか、ゆうべぜんぜん寝てないとか?

 胸が騒いだおれは、全速力でログイン。イツカをひっぱって、ミライを捕まえにいった。



 * * * * *



「もー、カナタ心配しすぎ!

 一時間目が自習になったからティアブラしてただけ。

 学校さぼったりなんか、してないんだからねっ!」


 聞いてみれば何のことはない、こういうことだった。

 かわいらしくおれを叱ったミライだが、おれたちの用件を聞くとふわあっと笑顔になった。


「そっか……それでゆうべイツカ、教会の前でずっと立ってたんだね。

 あと一回献上したらTP100万いくとこなのに、どうしたのかなって……そっかぁ。

 じゃあ、いこうイツカ!

 かっこいいとこみせてね、おれもまねするから!」

「おう! まかせとけ!」


 そうしておれたちを引っ張って、教会に入っていった。



『ミルドの期待の星のAランクハンターが、100万TPを達成する』。

 その知らせはミッドガルドをあっという間にかけぬけた。

 ミルドの教会大聖堂には、たちまち人が詰めかけ、閲覧アクセスも殺到した。


 イツカの仲間だからという事で、主司祭セレモニーマスターを任されたミライは半泣き。

 けれどイツカがわしゃモフしてやると笑顔になった。

 そうしてとても立派に、務めをはたしたのだった。



 ――目の前でゆっくりと、両開きの大扉が開かれる。

 イツカが、つづいて付き添いのおれが、式典用装備で一歩踏み出せば、晴れやかで厳かなファンファーレが鳴り響いた。

 聖歌隊の歌声と、色とりどりの花々やタペストリー、燭台やリボンに彩られた大聖堂は、二階席の通路まで列席者であふれかえっていた。


 白く大きな女神像をまつった大祭壇の前では、こちらも式典用の長く、豪奢なローブをまとったミライが待っている。

 おれたち二人は、通路に敷かれた深い青のじゅうたんを踏んで、まっすぐそちらへ向かった。


 付き添いのおれは、少し離れたところで足を止め、ひざまずくように言われているのでそのように。

 イツカはというと、大祭壇のすぐ前で同じように膝をついた。


 ミライが聖水を張った水盤に、聖木の枝を軽く浸し、イツカの頭上でさっとふって聖なるしずくを浴びせる。

 ついで手提げ香炉を手に取って、中からあふれる聖なる香の煙をふりかける。


 シンプルな清めの儀がすめば、短く厳かな問答が交わされた。


「イツカよ。

 汝、守護女神ティアラの代理人として、生をささげる覚悟はあるか」

「おう!」

「なれば立ち上がり、抜きたまえ。

 誓いの糧となる、赤のしずくを捧げよ。

 誓いの証となる、白き祈りを捧げよ」


 イツカは、すらりと立ち上がると、腰の剣を抜いた。

 天へとむけて捧げ持ち、女神への祈りを紡げば、剣先から赤のしずくがすうっと虚空に吸い上げられていく。

 しずくはフワフワと浮かんだまま金色の輝きとなり、女神像に吸い込まれるように消え……次の瞬間、『奇跡』が起きた。

 白い石造りの女神像が、歩き出したのだ。


 静かに一歩を踏み出すごとに、その姿は、石でできた人形から、頬に血色を浮かばせ、赤みがかった金髪をなびかせ、白いトーガを揺らして歩く生身の女性へと変わっていく。

 ゆったりと三歩を歩み終え、イツカの目の前に立ったとき、彼女はもはや完全に生きた人間――いや、背に大きな翼をもつから、天使? ――のようになっていた。


 降臨した女神は、純白の雲のような翼を広げてそっと、わが身とイツカを包み込む。

 翼の抱擁を解き、身を離した彼女は、慈しみに満ちた紺碧の瞳でイツカを見つめる。

 そうして、夜明けの風を思わせる、気高くも優しい、なんともきれいな声でこう告げた。


『よくぞここまで成長しましたね、イツカ。

 ならばおいでなさい、わが膝元ヴァルハラへ。

 そして、その真価をお見せなさい。期待していますよ』

「おう!

 俺が、俺たちがマジですごいってとこを見せてやる。

 だからさ、ソナタちゃんを一刻も早く治してやれないかな?」

『……それはお前たちでつかむべき勝利。そう、決めたのではありませんか?

 しかし、いかなる時もひたすら『妹』を案じる、その献身は尊いもの。

 よって、これを与えることとしましょう』


 女神が身を離せば、虚空から輝く白い球がゆっくりと降ってくる。

 イツカが手のひらでそれを受け止めれば、球ははじけて小さな十字架のペンダントになった。


『守りの銀十字です。ソナタにお上げなさい。

 もしくは売り払い、資金の足しにするもよいでしょう』

「へえ、ティアラって意外と俗っぽいんだな、資金とかさ。

 でも、すっげえありがたい。ありがたくもらうよ。

 これからもよろしくな、ティアラ!」

『…………

 っこほん。イツカよ、せめて様をつけなさい。

 ふ、ふたりのとき、以外はですが』


 おれはまじまじとふたりを見た。うそだろ。女神がデレてる。

 女神ティアラは再びこほんっと咳払いでとりつくろって、そそくさと戻っていった。

 なおぼーぜんとしてたのはミライや、ほかの列席者たちも同じようで……


「やっぱやったか」


 やがて誰かのつぶやきとともに、ミルド教会大聖堂は笑いに包まれた。



 そのまま、ミルドはお祭り騒ぎに。

 しかし、おれたちは一度中座させてもらうことにした。

 理由はいわずもがな――おれたちはまだ、普通の中学生いせかいのせんしなのだ。


自宅帰還リターン・ホーム』を使ってアトリエに引き上げれば、リアルからのコールがきた。

 先生とみんなからだ。

 通話に応じた瞬間、一挙にあふれ出す『おめでとう』。

 何度も何度もありがとうを言って、ちょびっと泣いて思い切り笑って、ひと段落ついたところでカナン先生が言い出した。


『本当によくやったな、おまえたち。

 リアルでも、夕方から寮でパーティーするぞ。

『母さん』たちが全力で腕を振るってくれるそうだ。

 よければミライも来てくれないか、都合がつくならでいいんだが』

「あ……ごめんなさいカナン先生。おれ、今日はちょっと用があるから……

 あした、おいしい蒸しケーキつくってもってくね!』

『マジか! 正座して待ってる!!』

『ミライちゃんの絶品蒸しケーキですと!!』

『ふおおお! お茶入れて待ってますっ!!』

『オ、オレはミライさんさえいらしてくだされば……』

『よしっ! 明日は宴じゃ!!』

『いや今日は?』

『前夜祭ってことで!!』

「はいはい、それじゃもどるから。いったん切るね?」



 そのあとは、楽しくも忙しいことになった。

 みんなでリアルとティアブラのパーティーを行ったり来たり。

 二日続けてのとくべつな日に、ソナタも大はしゃぎだ。


 明日には、ミライも来れる。そしたら、ミライも一緒に楽しもう。

 リアルではミライの特製蒸しケーキを食べて、ティアブラではおれがつくっておいた花火をあげて。……








 けれど、おれたちが『やくそくの蒸しケーキ』を食べることはなかった。

 ミライは、どこかに消えてしまったのだ。

今回のちょこっと紹介!

『守りの銀十字』

アクセサリー/コモン~超レア

いついかなる場所においても女神ティアラの加護を得られるといわれるお守り。

どれほどの祝福を宿しているかや、背景などによりレアリティは大きく変わる。

たとえば、教会などでふつうに売られているおみやげならコモンだが、女神から賜ったものならば国宝級。

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