Bonus Track_63-1 新境地? 踊る! 学園モンスターず!~『スケさん』の場合~<SIDE:月萌>
この二日前、水曜の昼下がり。
僕たちは『ティアブラ』運営チーム本社ビル内を、首をかしげながら歩いていた。
メンツは四人。まずは僕と『ゴーちゃん』。
そして、ドラゴンの操作に特化した通称『ドラオさん』、モブモンスターの集団管理にたけることから『マリオネッターさん』『マリオさん』と呼ばれる仲間も一緒だ。
『ドラオさん』と『マリオさん』は、少し前までの僕たちと同じ。事情があってあの地下施設に収容された人間だ。
その腕前から『職人』と呼ばれているものの、身分はΩ(オメガ)。それが、スーツにお召しかえさせられての呼び出しは珍しく、また期待をつのらせるものでもあった。
『スケさんやゴーちゃんならまだしも、地下組のウチらまで呼び出しって……なんでやろ?』
『もしかしてマリオさんと俺もついにネームドですかね?』
『そうだといいね。きっとそうだよ』
『わ、ゴーちゃん前、まえっ』
『わわわ!』
『ゴーちゃん』はいつも笑っているような目をした、優しいいいやつなんだけど、しゃべりながら歩くと時々、人や物にぶつかりそうになる。
今回も前から来た人にぶつかりかけて、僕はあわてて『ゴーちゃん』を止めた。
『すみませ……ってあああ!』
『どうし……あああ!』
僕たちはぶっとんだ。
バトルプランナーのササキさんのとなり、ビシッと紺のスーツで決めたそのひとは。
『せ、せ、『青嵐公』っ?!』
知らぬものとてない生ける伝説、『青嵐公』ご本人だったのだ。
さらに驚くことに、彼は僕たちに丁寧に一礼し、握手の手を差し出してきた。
『こちらこそ失礼を。
初めまして、教え子がお世話になっております。『青嵐公』ノゾミです』
イツにゃんは僕の太陽。その師である『青嵐公』は神にひとしい。
ほとんど礼拝する勢いだった僕だが、その仰せを聞いておったまげた。
『次のショーバトルで、どうしてもお願いしたいことがあり、面会をお願いしました。
異例のことではありますが、ある生徒に、剣士『スケさん』の胸を貸していただきたいのです。
『ゴーちゃん』さん、『マリオ』さん、『ドラオ』さんにも、ご協力をお願いしたく』
だいたいショーバトルのさいには、バトルプランナー同士だけが面談をして、決まったことが僕たち『作業者』に下りてくる。だから、こうしてプランナーレベルの会議に呼び出されること自体が異例だ。
というのに、これは。
お願いされたのは、僕も大好きな『シリウス』――チアキ君のことだった。
兼業ながら、すでに剣士としても十分やっていける腕を持っている。だからこそきっと、剣ひとすじのやつらにも臆せず挑み、そして、最悪折れてしまうことになる。
あの子は、クラフトを長く続けてきた優しい『牧羊犬』。剣以外の蓄積が、たくさん、たくさんある子なのだ。
だから、僕の剣で問いかけてくれと。思い出させてくれと、そういうことだった。
当然、僕はキョドった。かみまくった。
『ううう、うれっ、うれしいですけどっななな何でっ僕なんですか?!』
慌てまくった僕に言ってくれた言葉に、僕はノックアウトされかかった。
『チアキは、スケさんが好きなんです。
そのスケさんが相手とあれば、この上なく本気になれる。
チアキは素直な子です。展開としてはかなりきついものになるはずですが、おなじ先達同士、あの子を育ててやると思って。この通りです』
生ける伝説、憧れの『青嵐公』と僕が同サイドとかっ!
いっしょにチアキ君を育ててくれとかっ!!
感激のあまり口走ってしまった。
『ふ……ふ……
ふつつかな骨でございますがどうぞ末永くよろしくお願う申し上がまふっ!!』
……と。
そんなわけで挑んだ、勝ってしまうわけにいかない、でも下手な負け方なんかできない、緊迫の戦いはチアキ君の覚醒で、無事に幕を下ろした(僕的には)。
「ぶっあああ、つっかれたああああ!!」
カーテンコールまで終わって僕たちは、ぶっ倒れる勢いでログインチェアに身を沈めた。
ひじ掛けにセットされたスポーツドリンクの水筒を震える手で取り上げ、ストローをくわえて一気にすすると、全身に染み渡るようだ。
「いやースッゲーっすスケさん! 俺いまだにサブイボたちまくりですもんホラー!」
「うわああああっ?!」
ドラオさんが腕をまくって見せてくる。見事にぷつぷつだ。ちょっと怖い。
マリオさんはゴーちゃんをべた褒めしている。
「ゴーちゃんもおつかれやでぇ! あんな変形しまくりのんよくあんだけ動かしはったわー!!」
「あの、……ほら、ゴーレムって大型ボスキャラで部分破壊されることもあるし、それでわりと慣れてた、っていうか……
マリオさんも、すごかったです。まるでスケルトン全員、自分で動かしてるみたいで……俺とってもあんなに繊細な操作できないですから……」
「えへへーもっとほめてほめてぇー」
そんな風に盛り上がっていれば、プルルルルと入ってきた内線。ササキさんからだ。
『おめでとうございます。大成功です。おつかれさまでした!
さっそくで申し訳ないのですが、みなさんに次の依頼が入りました。メールで概要を投げておきますので、ご覧になっておいてくださいね!
これ絶対おどろきますから! 絶対です!』
めちゃくちゃ弾んだその声にメールを開き、添付された企画書のヘッドラインに目を通した僕たちは。
「え……」
「マジ……」
「うそ……」
「まってーな……」
「『踊る! 学園モンスターダンサーず』――?!」
予想のはるかナナメ上の文言に、声を合わせて叫んだのだった。
いや落ち着こう。ブックマーク二件いただいているように見えるのは、あれは現実だ。
……ナンダッテ――?!
アリガトウゴザイマス!!( ;∀;)
次回、ソリステラスサイド。
フライングでやってきた少年、その正体は?!
どうぞ、お楽しみに!!
※追記:700回記念エクストラと二話をまとめて投稿します!




