62-7 続く奇跡、見えた希望!<SIDE:月萌>
2021.08.03
サブタイトルを修正いたしました!(仮タイトルのままでした……orz)
みたび、ブースにあかりがともる。
そこは、王城の一室だった。
石像になったユキさん、そのそばで付き添うクレハ、そして、ナナさんが立っている。
そわそわと待つところへ、二つの足音が響いてきて、ナナさんの顔が明るくなった。
「来てもらえました、コトハです!!」
最初にブースに飛び込んできたのはハルオミ。
つづいて、フユキがコトハさんを抱いて現れると、ナナさんは大歓迎だ。
「はあああ! 待ってたんだな、よくきてくれたんだな!
みんなお疲れさまなんだな!」
そこへ今一つの足音。飛び込んできたのはハルキくんだ。
「おまたせしました! 伝説の実です!!」
「きーくんもおつかれ! ありがとなんだな!!」
差し出されたのは、あのつやつやの緑の実。
しかしそれを見た瞬間、コトハさんははっと息をのみ、ついで申し訳なさそうな顔になる。
「どうしたんだな、コトハ?」
「……熟した実なんです」
「え?」
「石化解除の秘薬を作るために必要なのは、木になった状態で、オレンジに完熟した実なんです……!」
室内が沈黙に包まれる。
それを破ったのは、ハルキくんの声だった。
「わかりました! 俺がひとっ走り行って、もう一度チナツさんに実をもらってきます。今度は、完熟させてもらって!」
とはいえ、ハルキくんの疲れの色は濃い。ハルオミが必死に止める。
「待って! きーくん、もうくたくたじゃん!
……全然休んでないんでしょ?
俺がいってくるよ。フユキたちと話している間、すこし休めたから大丈夫!」
「いや、兄貴ぶっちゃけそんなに体力ないじゃん! 俺がいったほうが……」
「すとーっぷ!」
互いを想いあう兄弟ふたりが言い合いとなりかけたところで、ナナさんが割って入る。
「こういうときは念じてみると何とかなるって、ばっちゃがいってたんだな!
むむむ、むむむむ~~~っ!!」
そうして披露したのは、まるでギャグのような対処法。
しかし、その効果は絶大だ。
ナナさんがむむむと念じれば、彼女の周りは光に包まれ、足元はまばゆい金色の草原と変わる。
場内スクリーンには、はっきりと映っていた。
照り返す光の中、ナナさんの手のうえの緑の実が、みるみる黄色に、そしてオレンジに。
まさしく、奇跡としか言いようのない光景だ。
いつも控えめでおとなしいコトハさんも、驚いた様子で声を上げる。
「これ! これだわっ!
すごい、ナナちゃん!
これで秘薬を作れま……
揺れて、ませんか?」
しかし、その勢いは五秒と経たずに失速する。
ついさっき会場を襲った揺れが、ずん……ずんと突き上げてくる。
思わず顔を見合わせる仲間たち。
最初に決断したのは、コトハさんだった。
「……いえ。わたしは、殿下たちを信じてます。
きっと勝ってくださったはず。これはきっと、別のものたちです。
みなさん、わたしに30分……いえ、20分だけください。
秘薬を完成させ、ユキちゃんが復活したら、連れて逃げることも、いっしょに戦うこともできますから!」
「わかった。頼むよコトハさん!
それまでの間、俺たちはここを守るから。絶対絶対に守るから!」
頭を下げるクレハに、ナナさんが言う。
「クレっちゃんはユキについててあげてほしいんだな!
……どうしてもやばくなったら、コトハとユキを連れて逃げのびる。そのために、力を温存しておいてほしいんだな。
もうちょっとしたら、みんなもここにくるから、そこまでの辛抱なんだな!」
伝説の実を手に、コトハさんはブースを出ていく。
その背中に、仲間たちが頑張れ、よろしくと声をかける。
そうして向き直り、見下ろすフィールドにはなんということか。
立派な鎧に身を包み帯刀したスケルトンフェンサーと、それに率いられたスケルトン軍団が、がしゃがしゃと。
その後ろからは、三階建てビルほどの大きさのグレートアダマンゴーレムが、ずしんずしんと。
覇を競うかのように、入場してきたのであった。
どうしようもなく沸き上がるのは、不吉な予感。
「まさか……そんな!」
「うそだろ……うそだ……」
不安、そして疲労から震える手。
しかし彼らは、気持ちを励まし武器を取る。
絶望を打ち払うための、しかし絶望的な戦いが幕を開けた。
跳ねて飛んで、かく乱するハルキくん。
銃で剣で、的確な攻撃と防御を繰り出すフユキ。
中央フィールドで戦う二人を、ハルオミはアイテムで。ナナさんは魔法で支援する。
しかしいかんせん多勢に無勢。
スケルトンたちは幾度倒しても立ち上がり、グレートアダマンゴーレムには傷もつけられない。
『へこたれない』が信条のハルオミがついに、撤退を口にした。
「ダメだ、これじゃ……倒すどころか、援軍が来るまでもちそうにない。
残念だけど、調合は中断して……」
「大丈夫です!『スイート・ミルキィ・レイン』!」
そのとき、またしても奇跡が起きた。
調合を始めてまだ五分とたっていないだろう。にもかかわらず、コトハさんが戻ってきたのだ。
やさしいオレンジに輝く小瓶を手にして。
彼女の装いは、幾重にもフリルを重ね、背中に十字と翼の模様を浮き上がらせた、どこか聖性を感じさせるものに変わっている。
チャコールグレーと金をまとった聖女が大きく天に手を振れば、場内に優しい雨が降り注いだ。
ほんわかとした乳白色のひかり、たぬきの毛皮のようなやさしい手触りをまとったしずくたちは、甘い香りを放ちつつ、戦う者たちを癒していく。
観客のおれたちもおすそわけにあずかっているのだが、なるほどこれはすごい。HPTP、疲労に満腹度もここちよく回復していく。実にコトハさんらしい、そして至れり尽くせりの回復技である。
「これは、……おおおおお!!」
なかでもフユキへの効果は大きかった。
一声大きく叫んだフユキは、それまでとは別人のような動きで戦い始めた。
剣の一振りで、何体ものスケルトンが切り伏せられる。その様子は、まさしく無双だ。
彼の装いもまた、背中に十字と翼の模様を有した、壮麗なものに変わっていた。
基調は黒に近いグレー、アクセントは銀色。
聖女とそれを守る騎士といった感じの、好一対である。
さらに、端正な顔立ちを彩る濃いはちみつ色の瞳は、左目が茜色に変わっている。
つまり、これは。
「やれる……まだ、戦える!
俺たちは、まだ強くなれる!
守るため! 進むため!
『すべて、愛する者のために』っ!!」
フユキの美声にかぶって、ナツキのかわいらしい声が聞こえた。
そのときはじめてフユキの剣が、グレートアダマンゴーレムにダメージを与えた。
あつすぎてなけなしののうがとけそうです。_( _´ω`)_ペショ
次回、コトハさんに何が起きたか? スケさんゴーちゃんが王城に現れた理由とは?
そして、どんどんやってくる援軍たち!
どうぞ、お楽しみに!




