62-5 果樹園前の攻防と奇跡!<SIDE:月萌>
レンは笑い出した。
世にも愉快そうに。まるで、狂ってしまったかのように。
「ふっはははははは!
ボムの爆風を操れねェだ? ンなモン誰が決めたってんだ!
『ジョーシキなんかぶっとばせ』どっかのいぬみみメイドも言ってやがるしなァ!!」
「あのー、もしかして、壊れてらっしゃいますか……?」
ハルキくんがひきつる笑顔で質問すると、レンはハルキくんの背中をバンバン。
その様子、もはや小さな酔っ払いである。
「なーにアハハハ心配すんな。いっくぞ――!!」
「ちょおおお?!」
「俺のギガフレアボム! 森とチアキとあいつらと……とにかく骨野郎以外のやつらはキズつけんなっ!! どりゃあああ!!」
大きく右手を掲げれば、前腕に装備した腕甲が緑の光を放つ。
光の中、レンの手の上に現れたのは特大スイカサイズの球体。テラフレアボム完成前はレンの代名詞であった高威力炎属性ボムだ。
腕の動きだけでぽーんとぶん投げれば、放物線を描いて眼下の森に突っ込んでいく。
「わあああ!! なにやってんですかあ!!
逃げて!! みんなにげてええええ!!」
ハルキくんの、神獣たちの、そしてスケルトンたちの迫真の演技。
叫び、ふりかえり、立ち尽くし、目をむき、固まる――チアキ以外は。
「レン――! がんばって――!!」
迫る破壊の権化を前に、チアキは一人動じない。
それどころか、ニコニコと手を振って、声援を飛ばす。
いちおう、チアキのHPは一万ちょっと。『シャスタの恵み』はかかっているが、まともにもらえばゲームオーバーのはずだ。
とんでもない度胸というべきか。レンへの信頼がはんぱないというべきか。
上がる悲鳴の中、地に落ち、炸裂するボム。フィールド全体が火の玉に変わる。
しかし、爆炎と爆風がやんだあとには、奇跡の光景が広がっていた。
まるで何事もなかったかのようにたたずむ木立。チアキはもちろん、フリーズした五人の神獣たちも全くの無傷。
ただ、破壊されたスケルトンたちの骨だけが、無数に地面に散らばっている。
「なんだこりゃ――?!」
「すごいすごーい!」
交錯する叫び。前者は目をむいて。後者はニコニコぴょんぴょんと。
「やっぱりレンはできる子だね!
すごいよ、かっこいいよ!」
「あ、あ、あたりめーだろ……この森焼いちまったら、そこの騎士とかワンワン泣きそうだし、なによりお前を巻き込むわけにゃいかねーし……」
もごもご照れるレンのもとに、チアキはひととびで戻ってきてぎゅうっと抱き着く。
ちょっぴり仲の良すぎる元主従に、ひゅーひゅーと歓声が飛ぶ。
ハルキくんもちょっと赤くなっていたが、やがて我に返った様子で頭を下げた。
「あ、ありがとうございますっ!
俺、城仕えの騎士のハルキといいます!
このお礼は必ず……」
「あー、いーっていーって。
その顔見たらわかったわ。お前ハルオミの弟だろ?
あいつらにもメーワクかけちまったからな。チャラってわけにゃいかねーだろうけどよ、せめてよろしく伝えといてくれや」
「あの、……それじゃあ悪いんですがもう一回さっきのアレおねがいできマスカッ?!」
と、そのとき、ハルキくんがとんでもない早口になった。
震える指でさす先には、かたかたと組みあがっていくスケルトンたち。
「はぁぁっ?! どうなってやがるんだこれ?!
アレで倒せないとかおかしいだろうよ?!」
「皆様あれを!」
神獣たちの一人――ぶっちゃけ猪神獣のヴァラさんだ――が示す先、木立のさらに奥から現れたのは、立派な鎧に身を包み帯刀した、一体のスケルトンフェンサー。
スポットライトを浴びで堂々と立つのはそう、みんな大好きスケさんである!
「これは間違いなく、伝説のスケルトンフェンサー『スケ=サン』です!
彼を倒さない限り、このスケルトンたちは無限によみがえることでしょう。
スケルトンは我らが食い止めておきます。レン殿、今度は彼に爆撃を!」
「っしゃあ、こーなりゃヤケだあ!
あいつだけ破壊しろ、ギガフレアボムッ!!」
「ちょっまっぎゃあああ?!」
ふたたびレンが覚醒技を披露、フィールドを火の玉に。
見た目完全にやりすぎ案件だが、炎と爆風が消えた後には、何事もなかったように立つ木立と神獣たちと、スケルトンたちとスケさんがいた。
「よっしゃあこれで……え……ちょっとまてなんで無事なんだよオイイ?! いけっテラフレアボム以下省略!!」
「ちょっわっぎゃあああ!!」
三度覚醒技ブッパ。しかしスケさんはピンピンしている。
正確に言うと、多少ダメージは入っているのだがそれだけ状態だ。
「おおおいどうなってんだこれおおおい……!!」
頭を抱えて立ち尽くすレン。そして、ガクブルのハルキくん。
しかしその肩を、ぽんとたたく者がいた。チナツだ。
「話は聞かせてもらったぜ。ユキさんがやられて、伝説の実が必要なんだってな」
「はい!」
「よしわかった。……『カモナ・ファニーフォレスト』!!」
覚醒技を発動すれば、ブースはあっという間に、弾む森へと姿を変える。
チナツはそうして、手近に実った緑の木の実をひとつ、ぷちっともいでハルキくんにパス。
「こいつが伝説の実だ。
きーたんは城へ急げ。あとは俺らがなんとかする!」
言い切るチナツはいつになくイケメン全開。客席からも歓声が上がった。
「で、でも……」
「なーに、ここは俺んちだ。
この森は俺たちのもの。そこで勝てねえ道理はねえってね!
そら、レディが待ってるぜ? 礼だったらあとでたんまり請求してやっから、とっとと行った行った!」
「あ、ありがとうございますっ!」
またしても葛藤を飲み込み、ハルキくんは走っていった。
その背を見送り、チナツはにやりと笑った。
「さーてと、それじゃあいきますか。
ようレン、無茶ぶり追加注文いっか?
さっきのワザは、お前が守りたいやつらだけに、一時的な完全爆発耐性をつける、てヤツだったな。
逆によ、攻撃したい相手だけの耐性さげることって出来ねーか?」
「むちゃぶりすぎだろおおお!!
てめー軽く言ってるけどな、それはそいつとさっきの同時にできなきゃイミねーんだぞ! さっきのだってぶっちゃけかなり無茶苦茶なんだからなオイ!!」
「え~、ダメぇ?」
「可愛くいってもむりなもんはむりっ!」
ここまでのイケメンぶりはどこへやら、ぶりっこポーズでおめめをきゅるんとさせるチナツ。普通にかわいいのがあなどれない。
と、スケさんが動き出した。再び跳躍するチアキ。
「だめ、スケさん! ここはチナツのおうちなの!
おじいちゃんとおばあちゃんと、おとうさんおかあさんと妹さんと、わんことインコとにゃんこがいるの!
それからヤギさんがいて、あひるさんもいて、お池にお魚さんもいるのっ!
だからやめたげて。お願いだから!!」
チアキはスケさんのまえ、両手を広げて必死に説得する。
バックでチナツが『なんでそんなにくわしいの――ッ?!』とプルプルしてるのは様式美だ。
スケさんは明らかにぐらっと来たようすで――ちなみに頭蓋骨もグラッとした――一瞬立ち止まる。
が、静かに首を振り、抜刀。チアキの剣先を待つように、正眼に構えた。
「やるしかないの……?
わかった。ここで僕たちで、あなたを止めてみせるっ!」
抜刀したチアキの装備が、すきとおる水のゆらめきに包まれ、神秘の一式と変わる。
幾星霜を乗り越えし業物と、生まれたばかりの水の刃が剣先を触れ合わせれば、この世のものとは思えない、はかなく澄んだ音が響き渡った。
周囲のスケルトンたちも動きをとめ、二人を囲んで見入る中、剣士たちの対決が始まった。
「やあっ!」
澄んだ声、澄んだ所作。チアキがまっすぐに踏み込めば、スケさんは無駄のない体さばきで迎え入れる。
これまたまっすぐな打ち込みを、熟練の技がいなして返す。
チアキは強い。けれどこうしてみると、イツカとの違いが浮き彫りになった。
イツカは幾万の実戦で叩き上げた野生の身ごなしでアグレッシブに攻め込むのに対し、チアキはそれよりもっと、なんというか『優しい』。
相手をしとめるために狩りをする猫と、逃げてくれるなら深追いはしない牧羊犬の違い、というのか。
また、剣士としての練度も、絶対的に違う。
イツカもスケさんも、剣士一本。対してチアキは兼業クラフター。どうしても、そのあたりの差は浮き上がってくる。
これまでそこを補っていたのは、マウントブランシェの恵み。
もっというなら、ひつじミルクや神器の与えた、全体的に高いステータスだ。
高天原という庭の中では、それでも十分通用していた。うさねこ加入後のチアキの戦いは、クラフターというよりむしろ剣士のそれといってよかった。
だが、それでいいのか? スケさんの剣は、チアキにそれを問いかける。
かわして、いなして、一撃入れて。
女神シャスタの加護をこえた、チアキ本人にゆさぶりをかける。
なんとなく、目に浮かんだ。
ノゾミ先生が、『スケさん』に頭を下げる様子が。
次のショーで剣を合わせる相手は、剣士を兼ねるクラフター。
筋もよく、強い子だが、このまま剣士として卒業させれば。
そうして戦場に出ることになれば、生粋の剣士に折られてしまう。
ここは貴方の剣で、問いかけてやっていただけないかと。
そのときひときわ高い音が響き、すきとおる剣がチアキの手から飛んだ。
なんでさらっと10kb書いとるんですか日向さん。
劇パートは異常に筆が進むことが判明しました。
次回は場面変わって、魔王フユキの城です。やっとこ「義兄上」でてきます。
どうぞ、おたのしみに!




